大学院・研究施設

解剖学・発生生物学分野

概要

形態学は、基礎・臨床を問わずほとんど全ての医学領域において、その基盤となる学問の一つです。近年の形態学的イメージ解析技術の急速な進歩とともに、画像診断学領域はもちろん、ますます広範囲の研究分野でその重要性が高まっています。それは、形態学が生命現象の実態を可視化して「かたち」として捕え、研究者自らの目で確実に検証できるからです。
本講座は、その形態学への原点としての役割を果たすべく、『さまざまな生命現象を営む生体構造の多様性、精巧さ、そして美しさを伝えること』を教育のモットーとして、また『研究を自由にとことん楽しむこと』を研究のモットーとして掲げています。どうか、形態学を学びながら生体構造の持つ魅力を自分の目で発見し、感動して下さい。同時に、生命への畏敬の念と“形態と機能は表裏一体である”という基本理念をあらためて学び取っていただきたい。

研究可能テーマ

 基本的に研究テーマは学生自身が自分の興味に従って、自由に決めるべきものである。ただし、教室へ持ち込める研究対象に限る。したがって、こちらからテーマを与えることはしない。以下のテーマは現在の研究スタッフが取り組んでいる研究テーマであるが、あくまで参考である。

(1)リンパ管の形態と機能;
 リンパ管には組織液をリンパとして回収するのみならず、生体防御に関わるリンパ系細胞(リンパ球、マクロファージ、抗原提示樹状細胞など)を回収したり、脂肪の吸収をするなど重大な使命が有る。また、浮腫や悪性腫瘍のリンパ行性転移の問題など臨床的にも極めて重要である。しかし、生体内局所でのリンパ管の微細分布やその機能など不明な点が多い。そこで本教室では、正常または色々な病態における局所リンパ管の形態と機能を比較しながら様々な角度から解析してゆく。

(2)組織の再生・修復過程における局所微小循環系の増殖と局所細胞動態の解析;
感染をはじめとする種々の炎症反応に伴い、局所では極めて早期から組織の再生・修復が起こる。我々は起炎直後から炎症性細胞が局所で増加するとともに、リンパ管も含めた微小循環系が既に増殖を開始していることを見出した。この事は微小循環系が局所での炎症・免疫反応ならびに再生・修復に強く関わっている可能性を示唆する。またこれまでに、組織内での微小循環系の微細分布と互いの立体的相互位置関係を解析するために、組織を丸ごとwhole mount標本としてそのままの状態で染色・封入して、脈管構築の広がりを三次元的に観察する方法を確立している。また、局所微小循環系をそれぞれセグメントごとに認識するモノクローナル抗体も開発中である。そこで、これらの方法を駆使して、組織の再生・修復時に微小循環系の増殖がどのようにして起こるのか、またそれが局所における細胞動態にどのような影響を持つのかを形態と機能の両面から解析する。

(3)微小循環系とその糖鎖の細胞生物学的意義;
血管内皮とある特定のレクチンが極めて特異的に結合することが知られている。これは、内皮細胞の表面に特定の糖鎖が存在し、それらに対応するレクチンのみが内皮細胞と結合しうることを示している。一方、血管は部位によってその機能が異なっている。例えば、交換血管と呼ばれる毛細血管、抵抗血管と呼ばれる細動脈、容量血管として血球の遊走の場である後毛細血管細静脈などは、それぞれ特有な部位特異性、機能特異性を有している。そこでそれらの特異性を証明するために、様々なレクチンやモノクロナール抗体を用いて個々の微小循環系を比較解析する。また同時に、細胞接着因子としての糖鎖/レクチンとリンパ系細胞との関連性を、局所での細胞移動や転移の観点からも解析を加える。

(4)形態計測を用いた細胞間相互作用の解析:研究対象は自由;
通常の光学顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、電子顕微鏡、その他のあらゆる形態観察可能な道具を用いた形態計測とコンピュータによる画像解析を行うことにより、局所での細胞間相互作用を解析しようという試みである。研究対象は何でも自由(ただし、安全で本研究室に持ち込めるものに限る)。

(5)微小循環系の発生・新生;
血管系が増殖する現象には、個体発生に伴う血管発生 Vasculogenesis と生後の血管新生 Angiogenesis がある。ところが血管増殖の起こっている局所において、その逆の血管退縮 Vasculer regression も起こっているという。しかしながら、細かく三次元的に分布する血管網を正確に把握するには、二次元的な解析のみでは限界がある。また、それぞれの起こるメカニズムの違いも明らかではない。そこで、多重免疫染色法と共焦点レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡などを用いて、局所に分布する血管網の実態を立体的に捉えるとともに、その増殖と退縮のメカニズムを解明することを目的として形態学の立場からアプローチする。

(6)臓器特異的腫瘍転移と微小循環系;
腫瘍の転移には血管やリンパ管といった微小循環系が大きな役割をはたしている。腫瘍が増殖・転移する際にこれらの微小循環系の新生が不可欠であるが、新生した微小循環系からどういったメカニズムで転移するのか、なぜ特定の臓器に転移するのかは不明な点が多い。そこで、臓器特異的転移腫瘍モデルを用いて遠隔転移の動向とその現場で行われている微小循環系の新生を、多重免疫染色や in situ ハイブリダイゼーションを用いて形態学的にアプローチする。また、分子生物学的・遺伝子工学的手法も取り入れて転移に関わる因子の検索も行う。

(7)消化管系腫瘍における微小循環系;
抗腫瘍血管療法への応用をめざした腫瘍モデルの確立とその解析。過形成や線腫といった前癌状態から悪性腫瘍へと形質転換する消化管腫瘍を誘導できるAPCMin/+マウスをモデルとして、腫瘍細胞とその悪性化に伴い腫瘍血管へと変化を遂げる局所の微小循環系との相互作用を形態学的、機能的に解析する。腫瘍の増殖の鍵を握る腫瘍微小循環系(リンパ管系も含む)の特徴を明らかにする事によって、将来的な抗腫瘍血管療法をはじめとする治療への応用は、腫瘍の転移のメカニズムとその制御に関する基礎的な理解に資する事を目的とする。最終的には悪性腫瘍にともなう腫瘍血管の特徴のパターン化を計り、個体生存率と相関させ、血管変化を指標とした新たな腫瘍の悪性度分類の確立を目指し、その診断と治療に貢献したい。

(8)消化管ペースメーカー(カハールの介在細胞)の形態と機能;
カハールの介在細胞(Interstitial cells of Cajal; ICC)は、消化管運動におけるペースメーカーあるいは興奮伝達機構として働くことが知られている。近年、各種消化器疾患におけるICCの減少や分布異常が報告され、臨床的視点からみても重要な細胞となってきている。しかしながら、ICCは、動物種はもちろん、消化管の部位、あるいは存在する組織層によっても異なる特徴を示し、形態的にも機能的にも多様性に富む細胞である。そこで、種々の実験動物や疾患モデル動物を用いて、消化管の特定の部位ごとにICCがどのような細胞性ネットワークを形成し運動制御に関わっているかを形態学の立場から解明を試みる。

(9)心大血管発生に関与するハプロ不全遺伝子とその表現型の解析;
先天性心疾患の形成については、遺伝的因子、催奇形因子や環境因子によるもの、これら双方が関係する多因子によるものが考えられ、心大血管異常を伴う症候群の疾患候補遺伝子のほとんどはハプロ不全を特徴としている。遺伝子改変マウスを用いた形態形成作用機序の解析では、臨床におけるすべての表現系が含まれることはなく、上流遺伝子や下流遺伝子の多型などによる機能亢進(または低下)がその遺伝子変異と組合わさり多様性を生み出していると考えられている。マウスを用いた実験系においては以前より表現型に系統差があることが報告されていたが、その詳細は未だ不明である。このプロジェクトでは、系統が異なる同じ遺伝子変異を持つマウスを目的に応じて使い分け、表現型の差異を踏まえて、心血管系の発生に関わる前駆細胞の動態および発現遺伝子カスケードや修飾因子について解析を行う。また、肺などの他臓器における発生・成熟にかかわる可能性についても検討する。

スタッフ紹介

・教授・講座主任: 江崎 太一  (熊本大医 昭和54年卒)
・准講師:     森川 俊一  (早大院人間科学 平成11年卒)
・助  教:    清水 一彦  (信州大院工学 平成16年卒)
・助  教:    菊田 幸子  (埼玉大院理工学 平成15年卒)
・助  教:    北原 秀治  (東京女子医大院 平成20年卒)
・助  教:    森島 正恵  (麻布大院獣医学 昭和55年卒)
・特任助教:    後原 綾子  (東大院生命環境 平成16年卒)
 
 (技術協力スタッフ)
・研究技師:    笠原 弘美
・事務員:     守屋 佳恵

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