大学院・研究施設

病理学(第一)分野

概要

病理学第一講座は東京女子医科大学において以下の三大使命を担っている。第一は頻発疾患および稀少疾患の病因と病態を解説することを通じた医学教育、第二は医学生、大学院生および研究生を対象とした分子病理学と神経科学領域の研究、そして第三は病理解剖と外科病理における診断を通しての医療への貢献である。医学教育では、諸臓器の形態学的ならびに機能的な変化にもとづいて病態生理を積極的に理解しようとする姿勢を身につけさせることを目指している。医学研究では、人体組織および疾患モデルとしての実験動物や培養細胞を用いてヒトの疾患の分子病態を明らかにすることにより、新規治療戦略の開発に繋げる新知見を集積している。病理解剖では、死亡した患者の体内で起こっていた病態を解明し、得られた結果と考察を将来の医療に貢献している。外科病理では、診断業務を迅速かつ実践的に行い、目の前にいる生存患者にとって最適な医療の選択に役立つ情報を提供している。

研究可能テーマ




(1) 筋萎縮性側索硬化症における運動ニューロン死の分子メカニズムの解明
 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は、運動ニューロン系を選択的に侵す原因不明の進行性神経変性疾患である。当教室ではこれまで、酸化ストレス、神経炎症、グルタミン酸毒性などの切り口で剖検脊髄、実験動物組織および培養細胞を用い、形態学的ならびに定量的な手法を駆使することにより、多くの新知見を報告してきた。我々は最近、ALS 脊髄において、ニューロン、アストロサイトならびにミクログリアから細胞外へグルタミン酸を放出する機構が活性化していることに加え、培養運動ニューロンにグルタミン酸ナトリウムを添加すると、細胞質と核にリン酸化TDP-43凝集体が出現することを突き止めた。今後は、この事象を支える分子メカニズムを明らかにすることにより、代表的な神経難病である ALS の治療戦略に繋げたいと考えている。

(2) 新規治療戦略へ向けた癌代謝制御メカニズムの解明
 近年、癌に特徴的な現象として、好気的条件下での解糖系亢進(ワールブルグ効果)や脂質・アミノ酸・核酸合成亢進といった代謝系のリプログラミングが注目されている。これら癌代謝と呼ばれる現象は癌細胞の生存に有利に働くと予想されているが、その制御機序および癌の病態における意義は未だ不明な点が多い。これまでに我々は、細胞内代謝のキープレイヤーとして知られるmTOR複合体が癌代謝の制御に関して中心的な役割を果たしているという新知見を報告してきた。この特徴的な代謝現象の基盤となる分子メカニズムを詳細に検討し、癌の病態における癌代謝の関与の全容を明らかにすることで、現在有効な治療法が少ない悪性脳腫瘍に対する治療戦略へ繋げることを目標とし、分子生物学的手法および包括的OMICS解析を用いて研究を進めている。

(3) 脳梗塞急性期ペナンブラにおけるミクログリアとアストロサイトの関与の解明
 急性期脳梗塞治療の基本は、病巣容積の拡大を最小限に食い止めることである。病巣中心部壊死巣を取り巻くペナンブラは、微小血管攣縮、神経グリア炎症、グルタミン酸毒性などにより細胞死が起こるリスクが高まっている。これらの病的過程を支配する分子に着目し、創薬に繋げる病態を明らかにすることは、患者の予後改善に多大な貢献をもたらすと期待される。当教室の脳虚血研究は、ここに重点をおいている。

(4) 動脈アテローム硬化症の病態解明
 食生活の欧米化を背景として、頸動脈や冠状動脈のアテローム硬化症が増加している。これらは重篤な脳梗塞や心筋梗塞の発症要因となるため、アテローム硬化症を制御することは急務である。当教室では、様々な脂質過酸化産物により誘発される炎症機構を明らかにするため、頸動脈内膜剥離材料や病巣を構成する細胞の培養系を用い、種々の分子の転写、翻訳および翻訳後修飾に焦点を当て、形態学的ならびに定量的なアプローチで分析を進めている。

(5) グリオーマにおける血管新生病態の解明
 中枢神経原発性脳腫瘍であるグリオーマは、周囲脳実質に浮腫を生じる。この脳浮腫は血管新生にもとづいており、そのメカニズムの解明は、グリオーマの生物学的特性や新規治療薬の開発に必須である。当教室では、血管新生と予後との関連を統計学的に解析するとともに、VEGF ファミリーをはじめとする各種増殖因子やそのシグナルを阻害する分子標的薬の血管新生に与える影響を、形態学的ならびに分子生物学的方法を用いて検討している。

(6) 福山型先天性筋ジストロフィーの責任遺伝子fukutinの機能分析
 福山型先天性筋ジストロフィーは、横紋筋のみならず中枢神経系を侵す。これらに共通する細胞膜と細胞外基質との接合異常は fukutin の遺伝子変異にもとづくとの立場から、当教室では、剖検脳、動物脳および培養細胞を用いて、本物質がニューロンやグリアの増殖、分化、変性などにも関わる知見を集積してきた。今後は、RNAi やシグナル伝達阻害実験などを取り入れて、fukutin 蛋白の多彩な機能を明らかにしたいと考えている。

(7) 甲状腺癌の進展機構の解明
 甲状腺癌のうち、乳頭癌はリンパ行性に転移しやすく、濾胞癌は血行性に転移しやすい。この違いが何に由来するかは、いまだ明らかにされていない。当教室では、外科的に切除された甲状腺癌組織や乳頭癌ならびに濾胞癌に由来する培養細胞株を用い、形態学的ならびに定量的な手法を駆使して、転移様式の違いをもたらす機構を解析している。

(8) 成人脳におけるニューロン新生メカニズムの解明
 ニューロンは胎児期に分裂増殖し、大脳皮質に遊走することはすでに知られているが、成人脳における神経幹細胞の分化、増殖ならびに遊走に関するメカニズムの全容は明らかに去れたとはいえない。我々は現在、BMPシグナルを仲介するSmad6に注目し、ニューロンとグリアへの分化、細胞増殖および脳内遊走に関わる候補分子を絞って、時間軸に沿ったそれらの機能を分析している。

スタッフ紹介

教授・講座主任:柴田 亮行 (担当テーマ (1) (2) (4) (5))
教授:澤田 達男 (担当テーマ (6))
客員教授:渡部 和彦(担当テーマ (3))
准教授:山本 智子(担当テーマ (7))
講師:新井田 素子 (担当テーマ (1) (9))
准講師:加藤 陽一郎(担当テーマ (3) (8))
助教:増井 憲太(担当テーマ (2))



 

医学研究科