大学院・研究施設

小児科学分野

概要

小児科の一番の特徴は、ヒトを臓器別にみることなく全身をみる唯一の診療科ということでしょう。東京女子医大の小児科では、たくさんの小児神経疾患の患者さんを拝見していますが、その神経学もまた、病理学、遺伝学、生理学はもちろん免疫学、栄養学にも密接な関わりを有しており、小児科という学問は、決して一つの専門分野で完結するものではありません。「現代の医学では治らないとされている病気」をよく調べてみると、そのほとんどに「あまり検討されていない領域」というものがあり、その領域にその病気の謎を解く重要なカギがあるのではないかとよく感じます。

東京女子医科大学大学院の小児科学講座の一番のコンセプトは、「『治らない』から『治る』へ」です。例えば、遺伝子に異常のある病気は、かつては診断までが重要な仕事で、診断されたらあとは「見守り」でした。周産期の問題で脳性麻痺となったお子さんは、一生残る神経障害に苦しまなくてはならないのが当然でした。進行性の神経・筋疾患のお子さんは、嚥下ができなくなったら胃瘻を設け、呼吸ができなくなってきたら気管切開をして人工呼吸器 というレールが敷かれ、それが当たり前でした。ここ10年以上、遺伝子診断など診断技術は格段に向上しましたが、治療はほとんど変わっていません。遺伝子に異常のある疾患に、正常な遺伝子を持つ細胞を与えてみたらどうでしょう?神経や筋組織の損傷部位に与えたら?勿論、簡単ではないけれど、「治らないとされていた難病」にも、必ず、解決の糸口があるはずです。私たちと一緒に挑戦してみませんか。

研究可能テーマ

※受け入れ可能院生数は各テーマにつき1名

(1)川崎病の病因解明研究(指導者:永田教授)
川崎病は原因不明の小児特有の疾患であるが、昨今、当教室で特定の細菌群が同疾患の発症に強く関与していることを突き止めた。その細菌群とその産生物質に対して分子生物学的・免疫微生物学的解析を加え、川崎病の病因・病態解明を試み、原因療法の開発を目指す。

(2)早産の原因となる妊婦膣フローラの解析(指導者:永田教授)
昨今、早産の原因として、絨毛膜羊膜炎およびその前駆感染として細菌性膣症が注目されている。膣フローラ(細菌叢)を分子生物学的手法にて解析して、早産の原因となる病原体を割り出し、フローラのコントロールにより、早産を予防できるかを検討する。

(3)プロバイオティクスの炎症性腸疾患の寛解維持効果の検討(指導者:永田教授)
現在の炎症性腸疾患の寛解維持療法は、免疫抑制剤によるもの主流であるが、確実性、安全性が担保されていない。一部のプロバイオティクスは動物実験レベルで寛解維持に有効であることが証明されているので、臨床応用ができるか臨床試験を中心に検討する。

(4)新生児未熟児の視知覚認知発達とその障害(指導者:平澤准教授)
新生児未熟児医療の発達により超未熟児などの救命が可能になり、乳児死亡率は著しく低下している。一方で周産期に濃厚な医療を要した児で広汎性発達障害など軽度発達障害などの発生も多いと報告されている。それらの実態を調査すると共に、乳児の視覚認知、対人関係の発達評価など従来の発達テストよりさらに詳細に評価する方法を確立、未熟児出生の児などにみられる発達特性を明らかにし、どのような発達サポートが有効などかを検討する。

(5)自閉傾向をもつ極低出生体重児の発達軌跡と有効な介入(指導者:平澤准教授)
近年極低出生体重児で自閉傾向をもつ児の増加が報告されている。 このような児が どのような発達軌跡をたどるのか。またどの時点でどのような療育的介入が有効なのかをこれらの児のフォローアップデータを元に探る。

(6)ミオクロニー発作とてんかん性スパスムスの神経生理学的研究(指導者:小国教授)
てんかん発作、特にミオクロニー発作とてんかん性スパスムスの神経生理学的病態を検討するために、発作時ポリグラフをコンピューター脳波解析装置にて解析し、脳波発射の各要素と筋電図発射の潜時や脳波発射の中の高周波成分について検討し、その神経生理学的機序を解明する。

(7)小児がんの新しい治療法の開発(トランスレーショナルリサーチ)(指導者:鶴田准教授)
医師免許取得者以外でも可能 
小児がんの治療に関するトランスレーショナルリサーチ(基礎から臨床への橋渡し研究)として、最近注目されている分子標的療法、キメラ抗原受容体発現T細胞CAR-T)療法、免疫チェックポイント阻害薬療法、腫瘍溶解性ウイルス療法の基礎を学び、さらに、それを臨床応用するための過程(基礎実験、臨床試験、治験の計画書の作り方、データの取り方、薬事承認までの過程など)を学ぶ。

(8)小児がんの新しい治療法の開発(医師主導治験)(指導者:鶴田准教授)
小児がんの治療に関するトランスレーショナルリサーチ(基礎から臨床への橋渡し研究)として、最近注目されている分子標的療法、キメラ抗原受容体発現T細胞CAR-T)療法や免疫チェックポイント阻害薬療法、腫瘍溶解性ウイルス療法の基礎など、成人に応用されているが小児適応がない薬剤を臨床応用するための医師主導治験の計画と実践について学ぶ。

(9)難治性血液疾患に治療法の開発(指導者:鶴田准教授)
難治性溶血性貧血など、現在治療法が確立していない血液疾患に対する新しい治療方法の開発として、遺伝子治療、造血幹細胞移植術など分子療法、細胞療法の技術を用いた治療可能性を検討し、臨床応用への過程を学ぶ。

(10)難病に対する間葉系幹細胞など組織幹細胞を利用した再生医療の基礎的、臨床的研究(指導者:鶴田准教授)
医師免許取得者以外でも可能 
各種神経・筋疾患、代謝疾患など各種難病に対して、間葉系幹細胞など組織幹細胞を利用した再生医療の研究が進み、臨床応用が開始されている。それらの細胞の基礎的、臨床的研究を行う。

(11) 福山型先天性筋ジストロフィーのあたらしい治療法の開発(指導者:石垣講師)
福山幸夫名誉教授が福山型先天性筋ジストロフィーを世界に報告した歴史的背景がある。本疾患は日本に発症が限局しているため、治療法の研究をしている施設が日本に限られる。(i)壊死再生に関与する因子を同定し、新たな治療法開発を行う、(ii)鶴田准教授との共同で、間葉系幹細胞など組織幹細胞を利用した再生医療の研究を行う。

(12)福山型先天性筋ジストロフィーの治験に向けた機能評価法の開発(指導者:石垣講師)
福山型先天性筋ジストロフィーの治験を数年後に控え、効果判定のための適切な機能評価法の開発が求められている。アクチノグラフを用いた研究を行い、新しい治療法として有効かどうかを検討する。

(13)福山型先天性筋ジストロフィーのステロイド療法に関する臨床研究(指導者:石垣講師)
ステロイド薬はDuchenne型筋ジストロフィーでは、有効性が証明され、全例での投与が推奨されている。福山型先天性筋ジストロフィーでは、短期投与の散発的な報告は行ってきたが、体系的に投与を行った研究はない。現在、倫理委員会承認を受けて、福山型先天性筋ジストロフィーの患者希望者にステロイド薬投与を行っており、その有効性を検討する。

 

スタッフ紹介

・教授・基幹分野長:永田 智(順天堂大学、医博)
・准教授:平澤 恭子(東京女子医科大学、医博)
・派遣准教授:伊藤 康(和歌山県立医科大学、医博)
・准教授:石垣 景子(東京女子医科大学、医博)
・助教:竹下 暁子(東京女子医科大学、医博)
・児童心理相談員:榊原 みゆき

研究紹介

筋ジストロフィーに対する新しい治療法の検討

当科では現在、Duchenne型筋ジストロフィーに対する複数の治験(医師主導、企業)を行っており、また、近い将来、当科計画の医師主導治験も予定している。さらに福山型先天性筋ジストロフィーは数年内に治験開始予定であるが、有効性評価に有用な運動機能評価、骨格筋画像評価に関する臨床研究も行い、現在準備を進めている。Duchenne型においては有効性が確立しているステロイド療法が、福山型においても有効かどうかの臨床研究を昨年より開始した。今後は、現在当科で開発中の新しい治療法を臨床治験に結びつけたいと考えている。
 

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