大学院・研究施設

放射線腫瘍学分野

概要

■放射線腫瘍学専攻

放射線腫瘍学は、放射線を使ってがんを治療する学問です。1895年にレントゲン博士が放射線を発見した翌年には、放射線を使って病気を治す試みが始まっていますので120年の歴史があります。日本人の死因の一位はがんであり、その克服にはまだ時間がかかると予想されています。がん治療の3本の柱は外科的切除、薬物療法と放射線療法で、WHOのWorld Cancer Reportには、放射線治療は世界のがん患者の半数以上が受けている治療法と書かれています。高齢化社会の到来と共に、毎年新たに約100万人ががんと診断され、国民の半数以上ががんに罹患する時代となっています。放射線治療の特徴は、侵襲性が低く患者の負担が少ないこと、手術困難な病変の治療が出来ること、機能温存率が高いこと、治療後の生活の質 (Quality Of Life)が高いことなどです。そのため、超高齢社会の進行と共にその役割は益々高まって行くと考えられます。

近年の技術開発により、放射線を腫瘍に集中させる照射が可能となり、放射線治療は高精度化へ向かっています。強度変調放射線治療 (IMRT: Intensity Modulated Radiation Therapy)、定位放射線治療(STI: Stereotactic irradiation)、画像誘導放射線治療(IGRT: Image Guided Radiation Therapy)や大型の加速器及び照射装置を用いる陽子線治療、炭素イオン線治療などの粒子線治療が行われるようになっています。早期肺癌に対するSTI、科学技術の粋を生かした粒子線治療では日本が世界をリードしていますが、IMRTの臨床応用等欧米の後塵を拝している部分もあります。いずれにせよ、これらの高精度な放射線治療法の技術進歩はいまだ発展途上の段階にあり、さらなる進歩が切望されています。

最良の医療を提供することは本学の建学の精神です。放射線腫瘍学講座の前身である放射線医学講座は、歴代5人の主任教授のうち3人が放射線腫瘍学を専門とし、第2代の主任教授であった田崎瑛生先生は日本放射線腫瘍学会の初代会長を務められ第1回学術大会は1989年に本学弥生記念講堂で行われたなど、放射線腫瘍学領域での長い歴史と輝かしい伝統を有しています。当分野では、がん放射線療法の発展に貢献する優れた研究者、臨床家、教育者の育成を目指しています。放射線腫瘍学の研究開発には、関連分野である医学物理学、放射線生物学との連携が重要であり、当分野には医学物理学、放射線生物学を専門とする教員が在席し、医師のみならず理工系・放射線技術系出身の院生も広く受入れて、幅広い臨床研究と研究開発を行っています。
 

医学物理学専攻(医学物理士養成コース)

がんの放射線治療では、放射線と照射する人体との相互作用による物理反応から、化学反応、生物反応が連鎖し、腫瘍細胞を殺傷します。医学物理学とは基礎物理学を基盤とする、放射線物理学、原子核物理学、原子・分子物理学、放射線計測学、電磁気学、物理数学、情報工学、医学、生物学などの幅広い学問の結集体であり、その知識及び成果を医学へ展開する学術分野です。
 放射線治療が高度化する一方、その治療装置や技術の品質保証及び管理の項目は、より一層の複雑化を招いています。その結果、治療装置や技術の品質保証及び管理の業務は非常に幅広い領域で多岐に渡っており、現場の医療従事者の負担が増している状況です。そのため、臨床現場ではそれらの業務の中心的役割を担う人材が必要とされます。また、放射線治療の高精度化には、医学物理学の研究開発が必須です。大学や研究所においては革新的な医学物理学研究及び開発、研究者の育成を主体的に実施する人材が必要とされます。それらの業務を専従で実施するのが医学物理士であり、当分野の医学物理学専攻では、臨床現場や大学・研究所で活躍出来る医学物理士の研究教育と人材育成を目指します。尚、2018年より本学大学院医学物理学分野における医学物理士養成コースは一般財団法人医学物理士認定機構が定める講義基準・臨床基準の条件を満たす教育コースとして認定を受けております。( http://www.jbmp.org/course_educational/decision/ )
 

研究可能テーマ

1、放射線腫瘍学分野
寡分割照射法の有用性に関する研究
難治性腫瘍に対する集学的治療法の開発
高エネルギーX線による高精度放射線治療の臨床的有用性の検討
前立腺癌に対する強度変調放射線治療の最適化に関する研究
脳腫瘍に対する強度変調放射線治療の最適化に関する研究
早期肺癌に対する定位照射の最適化に関する研究
前立腺癌に対する小線源治療の最適化関する研究
乳癌に対する最適な術後照射法の検討
温存乳房照射の最適化に関する研究
再建乳房に対する放射線療法の安全性に関する研究
早期乳癌に対する重粒子線治療に関する研究
 
2、医学物理学専攻(医学物理士養成コース)
小型陽子線治療装置の研究開発
体内中陽子線照射領域可視化・腫瘍線量応答性観測システムの研究開発
AI技術およびマルチモダリティ画像を用いた粒子線治療の高精度化
4次元陽子線治療に向けた線量検証システムの開発
 
3、放射線生物学分野
乳癌の重粒子線放射線感受性の薬物による修飾に関する研究
X線および重粒子線の放射線感受性に関わる因子の検討と分子標的の探索
遅発性放射線有害事象の発症メカニズムについての基礎的検討と治療法の開発
 

スタッフ紹介

・教授・基幹分野長: 唐澤 久美子
・准教授: 橋本 弥一郎
講師: 金井 貴幸
・准講師・医局長: 栗林 茂彦
・助教: 河野 佐和
・助教: 辻井 美貴
・助教: 大松 賢太

・非常勤講師: 成田 雄一郎
・非常勤講師: 小藤 昌志
・非常勤講師: 藤田 真由美



(上段左から栗林、河野、唐澤、辻井、橋本
(下段左から金井、李、大松

医学研究科