大学院・研究施設

総合診療・総合内科学分野

概要

( 1 ) 総合診療分野での研究
 我々の診療は、誰かの見つけたエビデンスに従っているだろう。Evidence-based Medicine(EBM)と称して、他人が明らかにした事実を使って誇らしげに医療を行っている。エビデンスに基づいて診療することはとても大切なことである。ただ、そのために、誰かがアイデアを振り絞り、何とかして研究費を取ってきて、忙しい中、直接・間接にデータ集めをして、エビデンスが得られれば、できるだけ多くの人、できれば世界中の人に知ってもらうためにいい雑誌に載せるべく、論文を書いている。しかも、このプロセスが最後まで行くことは全く保障されていない。自分の時間をつぶして行った研究なのに、解析すると意味のないものになってしまうことは、少なくない。でも、医学の進歩のために誰かがしなくてはならない研究だから、やるしかない。これまで一人一人の研究者が少しずつ根拠を研究にて明らかにして,それが積もり積もって現在の医学を作ってきている。
 総合診療に研究は不要?それは大きな間違えである。我々の行っている診療の妥当性なんか、わかっていない。行政の誰かを説き伏せたい、医学界の誰かを説き伏せたいならば、エビデンスを作るしかない。今はすべて、Evidence basedである。その研究結果が根拠として教育や行政で使われ、それを盾に物事が進みだす。海外で地域の人々の役に立っていることも、日本の地域の人々のためになっているかなんて、わかりはしない。医学は進歩しているので、ある時、誰かに聞いてそうだったことが、後でほかの人に聞くと違っていることもある。総合診療の世界には、考えると憂鬱になるぐらい多く、研究がされるのを待っているリサーチクエスチョンがある。
 アカデミズムで“きっとそうだ”は許されない。きちんと研究で根拠を示さないとそうだとは言えない。命の関わる医学ではなおさらだ。研究のお作法は、是非とも学んでほしい。すべて教科書に書いてあるって?たしかに基本的なこと、理屈はたくさん書いてある。それでも書いていないことは山ほどある。誰に頼めばいいのか、どこをつつけばいいのか、なども教科書には書いていない。例えばデータ収集は人間関係にまみれた泥臭い作業である。きちんとした研究のプロトコールを最初に練らないと、データ収集ののちに悔やむことがある。それを経験した研究者ならば、プロトコールを立てるときに万全を期すが、それを理解していないことも多々ある。実際にどうすればいいのか、わからないこともたくさんある。例えば使うべき統計計算方法がわかっても統計ソフトにない場合だってある。どうしても研究費が必要になることだって、頻回にある。では、どうすればそれをうまく得ることができるか、どこからどうやって得るか、コツが必要となる。
 
 一緒に医学の発展に寄与してみないか?どの専門診療科も自分の分野の根拠を少しずつ作って前進している。総合診療医学の発展のために少しでも根拠を作っていくべきであろう。患者を診たり、後進を教えるだけではなく、さらに研究をして一人前といえよう。一緒に総合診療医学の発展に加わらないか?
 研究の場に日本も海外もない。あなたが研究をしてエビデンスを手に入れ、それを発表すれば、たとえそれが東京都新宿区で行われても、地球上で行った研究になる。あなたは世界で意味のある活動をしていることが実感できるだろう。そしてあなたの研究がすばらしければすばらしいほど、多くの人に恩恵をもたらすものであるほど、あなたは世界の人々と友達になれる。あなたも一緒に研究に加わらないか?東京女子医科大学総合内科学・総合診療科分野には、世界で活躍したいあなたたちの夢を実現できる環境がある。あなたたちの情熱を有効活用できる仲間がいる。総合診療医学の研究で世界に飛び出してみないか?!
 
(2)授業の到達目標
 自ら研究すべき事項(リサーチクエスチョン)を見出し、プロトコールを構築、研究倫理審査を受け、データ収集を実施する。そして取集されたデータを解析し、それについての考察をする。その内容を英文・和文論文、国内外の学会などで発表し、国内外の総合診療や地域医療の研究者と共有し、今後の総合診療や地域医療、そしてその教育の発展に寄与する。
 
(3)授業方法
 講義においては、研究内容や授業内容を遂行するのに必要な知識レベルの教育を実施する。
演習・実習においては、リサーチクエスチョンの立案、研究プロトコールの書き方、量的データ分析方法、質的研究の方法、質問票の妥当性や信頼性検証方法、学会発表や論文作成の指導、研究費獲得の方法などを随時、指導する。
 
(4)おもな研究内容
 総合診療や地域医療に必要な研究を精力的に実施している。患者の抑うつ度、不安度、医師に対する満足度を、言語ではなく表情や音声などでどのようにして伝達しているかを、大手電機メーカーと共同で調査している。また、総合診療が住民のニーズに応える医療形態であることから、日本の住民にとって最も良い医療がいかなるものであるかを明らかにする疫学研究も実施している。例えば患者中心の医療が患者アウトカムに与える影響、またかかりつけ医の包括性や連携度が住民の健康へ与える影響などを調査している。東京女子医科大学ならではの男女共同参画に係る研究も行っている。その他、総合診療分野推進に必要な様々な研究をしている。
大学院生によるリサーチクエスチョンを共同して研究化する支援も行っている。
研究方法としては、量的研究、質的研究、そしてその両者の手法を使用する混合研究法である。地域医療で遭遇するさまざまなリサーチクエスチョンを、多職種・他学部を含めて各方面から調査探究している。
 
(5)望まれる大学院生
 研究に情熱がある人材を歓迎する。医師に限らず、医療分野、さらには他分野でも我々の研究に興味のある人とともに研究したいと考える。
 
(6)事前に読んでおきたい推薦図書
木原雅子:医学的研究のデザイン(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、澤 智博ら:医学統計データを読む(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、市原清志:バイオサイエンスの統計学(南江堂)、J.W.クレスウェルら:人間科学のための混合研究法(北大路書房)、池上直己ら:臨床のためのQOL評価ハンドブック(医学書院)、安梅勅江:ヒューマン・サービスにおけるグループインタビュー法(医歯薬出版)、林野泰明:実践行動医学(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、その他

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