コラム

あなたの肺は何歳ですか?-肺機能検査のススメ-

2010.04.01

医師 松宮 晴子

 ある日の診察室、咳が出るという男性が訪れました。
"自分ではなんともないんだけれど、妻が『咳をしてるから肺がんじゃないか』って脅かすもんだから‥"
 Aさんは60歳の男性で中小企業の部長です。この不況でストレスがたまり、タバコの本数も増え、1日40本になることもあるそうです。診察中にも時々咳払いをしていますが、自分ではあまり気にしていなかったとの事。聴診すると勢いよく息をはいたときに背中でヒーという音が聴こえます。胸部レントゲン写真では何も異常はみられませんでした。
"あー、良かった。肺がんじゃなかったんですね。"
"おそらく。でも安心してはいけません。AさんはれっきとしたCOPDという病気ですよ。"
"シーオー‥?"
"シーオーピーディーです。"
"何ですか、それは‥?

 COPDとは、慢性閉塞性肺疾患:Chronic Obstructive Pulmonary Diseaseといって、気管支や肺胞が壊れて空気が通りにくくなり、その結果有効なガス交換(血液と肺胞における酸素の取り入れと二酸化炭素の排出(図1))ができなくなる病気です。肺気腫や慢性気管支炎が含まれます。主にタバコの煙が原因で、気管支や肺胞に炎症が起こり空気の通りが悪くなります(図2・図3)。日本にも500万人以上の患者さんがいると推定されているにもかかわらず、適切な診断・治療を受けている人はたった22万人。なぜならば、早期には症状がなく、あるいは咳・痰・息切れという症状があったとしても『歳のせい』として片付けられてしまっているからです。かなり進行すれば胸部レントゲンでも異常がわかりますが、時すでに遅し。早期発見のためには肺機能検査が有効です。
 できるだけたくさん息を吸って、一気に息をはき出した量(努力肺活量)と、はじめの1秒間にはき出した息の量(1秒量)の比率:1秒率を調べます。1秒率が70%未満の場合はCOPDの可能性があります。

1秒率=(1秒量÷努力肺活量)×100(%)
"Aさんの肺機能検査は、努力肺活量が3.62L(リットル)で1秒量が2.46L、1秒率は68%ですからCOPDの可能性があるわけです。"
"なるほどね。でも、COPDとか1秒率とか言われてもなんだか難しくて、よくわからないですね。"
"そうですね、そういう時のために『肺年齢』があるのです。"
"『肺年齢ですか?』"
 健常な人でも加齢とともに肺の働きは低下します。肺年齢とは、自分の肺の働きは何歳の人と同じかということを示すものです。言い換えれば、自分の肺の働きが年齢相応かそうでないかを簡単に知る手段です。以下の式から求めます。

男性:肺年齢=( 0.036×身長(cm)- 1.178 - 1秒量(L))÷ 0.028

女性:肺年齢=( 0.022×身長(cm)- 0.005 - 1秒量(L))÷ 0.022
 ちょっと計算してみましょう。Aさんの身長は168cm、1秒量は2.46Lですから‥、
 肺年齢は86歳ですね。"
"‥‥‥。"
"そんなにがっかりすることはありませんよ。最近、COPDは治療により良くなる病気だということがわかってきました。まずは禁煙から。"
"はい‥。"
 1年後、禁煙し治療をつづけたAさんの肺年齢は6歳も若返っていました。

 皆さんの肺は何歳ですか?
 肺機能検査は10分程度で終わります。予約不要、結果も即刻判明します。この機会に是非、肺機能検査をして自分の肺年齢を調べてみましょう。