コラム

心筋梗塞とその予防について

2013.06.01

循環器内科 医師 藤田 悦子

 早いもので、もう梅雨ですね。このところ、予約外の外来では風邪の患者さんが増えた印象もあります。季節の変わり目には体調を崩しやすいものです。規則正しい生活を心がけ、疲れた時には無理をせずに、早めによく休むように致しましょう。

 さて、先日、女優の天海佑希さんが急性心筋梗塞で入院され、話題になりました。
 まだ若い、天海さんくらいのご年齢の女性が、心筋梗塞になるのは大変珍しいことです。
 心筋梗塞や狭心症(冠動脈疾患)は動脈硬化と関連しており、年齢が高くなるほど発症しやすくなります。

 心筋梗塞は、動脈硬化や血管壁の筋肉の痙攣のために、心臓に血液を送る血管(冠動脈)が詰まり、心臓の筋肉が壊死する病気です。
 典型的には、胸の中央あたりを中心に、手のひら以上の範囲に、絞られる/締め付けられる/重い/詰まる/圧迫される/焼けるよう…などと表現される痛みが出現します。
 20‐30分以上持続する非常に強い痛みで、冷や汗や嘔気・嘔吐を伴ったり、下顎や首・肩・腕などにも痛みがでることがあります。命に関わる危険な不整脈が出現することも多く、病院に着く前に20-30%前後の方が亡くなってしまう、入院してからも7-10%の方が亡くなるという、大変危険な病気です。
 やはり冠動脈が詰まり、心臓の筋肉が壊死はしないまでも、血液不足になって痛みが出るのが狭心症です。痛みの性状は同じですが、やや程度は軽く、肉体的・精神的負荷をきっかけに出現します。安静やニトログリセリン使用で、大体は数分から長くても15-20分以内に改善がみられます。
 痛みの場所を指先の一点で示すことができたり、チクチクとか刺されるようと表現されたりする痛みは、心筋梗塞や狭心症ではありません。呼吸や咳、体位変換で痛みが変化するということもありません。

 心筋梗塞が起きそうだと予測がつくこともありますが、前触れなく突然発症することも少なくはありません。
 発症してしまったら、薬物治療およびカテーテル治療や手術などを行うことになりますが、先ほど述べた通り、命に関わる重篤な病気ですし、その後の心臓の機能が低下して、生活に制限がかかることもあります。発症しないように予防することが一番です。
 では、どうすれば予防ができるのか?
 残念ながら現時点では、一度血管に起こってしまった動脈硬化性の変化を、元に戻す薬などはありません。
 従って、狭心症や心筋梗塞(冠動脈疾患)を起こす危険因子のなかで、薬や生活習慣の改善で良くすることができるものを、しっかりコントロールしていくのが最良の方法になります。

 危険因子には、①年齢 ②喫煙 ③糖尿病 ④高血圧 ⑤脂質異常症 ⑥家族歴:(特に若くして心筋梗塞や狭心症になった、血の繋がった家族がいること)⑦慢性腎臓病 ⑧他の動脈硬化性疾患(心臓疾患が原因でない脳梗塞・末梢動脈疾患)などがあります。
 危険因子の数が多ければ多いほど、冠動脈疾患での死亡率が増えるというデータもあります。(参考:図表 日本人のデータ)
 年齢や家族歴というのは、いかんともしがたいところがありますが、それ以外については改善させることが可能です。現在治療中の方も、健診などで指摘されたけれど治療や生活習慣の改善はまだ…という方も、外来にいらしてご相談いただければと思います。
 その方の状態によって、管理の目標には違いがあります。危険因子を適切に管理して、危険な病気を回避しましょう!

冠動脈疾患絶対リスク評価チャート冠動脈疾患絶対リスク評価チャート

 

図表 青→黄色→赤と右上の枠になるほど冠動脈疾患での死亡率が高い。すなわち、高齢で、糖尿病があり、タバコを吸っている人ほど死亡率が高い。同じ条件なら、血圧が高く、コレステロール値が高いほど、死亡率が上がる。