コラム

乾杯!ちょっとその前に…

2011.08.01

消化器内科 医師 天野 幸子

 暑い夏!暑気払い、納涼会、ビアガーデンとお酒を飲む機会が増える季節です。つめたく冷えたビールは最高!と乾杯しつつ、胃腸の調子や肝臓が心配になる方も少なくないと思います。が…、皆さんは膵臓について心配していますか?
 せっかくの乾杯ですがアルコールを長期間、大量に飲み続ける人は慢性膵炎に要注意です。

慢性膵炎? ~徐々に進行する病気~
 膵臓は約100g、長さ10~15cmの小さな臓器で、胃の後ろに存在する控えめな臓器です。しかし膵臓には大切な役割が大きく分けて2つあります。

① 外分泌機能:食べたもの(たんぱく質・脂質・糖質)を消化する酵素を分泌。
② 内分泌機能:インスリンを代表とするホルモンを分泌。

 慢性膵炎は膵臓から分泌された酵素で、膵臓自体を消化してしまう状態が長期間繰り返され、膵臓が破壊されます。壊れた膵臓の細胞は元には戻らず、膵臓の働きが失われます。
 その原因の多くはアルコールです。アルコールがなぜ膵炎を発症させるのか詳しいことはわかっていません。アルコールだけではなく、一緒に食べる脂っこい食事や、また体質も関係しているといわれます。
 慢性膵炎は徐々に進行する病気です。進行の状態によって症状が異なります。
 初期では、飲酒や過食、ストレスで引き起こされる腹痛や背部痛を繰り返します。病気が進むと腹痛自体は弱まりますが、消化酵素やインスリンの分泌が悪くなり、食べ物の消化吸収不良や糖尿病が出現します。
 "治療は、第一に禁酒です"脂肪摂取制限も重要です。進行した慢性膵炎では膵臓の役割を補う為、膵消化酵素を内服・糖尿病の治療の為にインスリンを注射します。

長期間・大量のアルコール? ~どれだけ飲むと慢性膵炎になるの?~
 お酒は百薬の長と中国古代の史書「漢書」から出た言葉ですが、実際に平均して2日に日本酒を一合程度飲む人のほうが全く飲まない人や、それ以上飲む人に比べて死亡率が低いという研究結果があります。厚生労働省から出された「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」では「節度ある適度な飲酒」を推奨しています。一日平均純アルコールで約20g程度を適度な飲酒量としています。
注:主な酒類の換算の目安

お酒の種類 ビール
(中瓶1本500ml)
清酒
(1合180ml)
ウイスキー・ブランデー
(ダブル60ml)
焼酎(35度)
(1合180ml)
ワイン
(1杯120ml)
アルコール
度数
5% 15% 43% 35% 12%
純アルコール量 20g 22g 20g 50g 12g

 では、どれだけ飲むと慢性膵炎になるのでしょうか?個人差はありますが、一日純アルコール80gを10年以上、毎日飲み続けると明らかに慢性膵炎の原因となります。20歳からアルコール摂取を始め、飲みすぎが続き…知らず知らずに40歳、50歳で「慢性膵炎」と診断されることがあります。

 乾杯の前に…今まで、どれくらいのアルコールを摂取しましたか?
 節度ある飲酒で美味しいお酒を楽しんでください。