コラム

たつ年の息災願う深呼吸

2012.01.01

呼吸器内科 医師 松宮 晴子

●「息」いろいろ、「息」と「災い」で無事な理由
 新しい年を迎えました。年齢を重ねると"無病"とはいかないまでも"息災"でいたいものです…。息災とは平穏無事を意味しますが、なぜ「息」という字と「災い」という字がくっつくと無事になるのでしょうか?「息」という字には止める(とどめる)という意味があり、災いを止める=平穏無事になるそうです。漢字って奥が深いですね。

●動くと「息」が苦しい理由
 さて、私たちが毎日している「息」=呼吸、皆さんは息を意識したことはありますか。もし、成人センターに通じる歩道橋を上ってハアハア息切れすることで息を意識したのであれば要注意、その息切れは病気のサインかもしれません。勿論、健康な人でも激しい運動をすれば息がハアハアしますが、COPD(慢性閉塞性肺疾患)*の人は動くと強い息切れを感じます。

*COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは...
 以前は"肺気腫"、"慢性気管支炎"と呼ばれていた病気ですが、原因や治療が共通であるため、まとめて"COPD:chronic obstructive pulmonary disease"と呼ばれるようになりました。タバコなどの有害な煙を長年吸うことにより、空気の通り道である気管支やその先の肺胞に炎症がおき、空気の通り道が狭くなったり、肺胞が壊れて縮まなくなったりします。炎症が進行すると、咳や痰が出る、息が十分はけず息苦しくなるといった症状がでます。"

人間の身体の中には血液中の酸素(O2)や二酸化炭素(CO2)濃度などを感知するセンサーがあり、脳と協力して身体の状態を常に一定にしようと働いています。
 動くと筋肉が酸素を消費しますので、血中酸素の減少をセンサーが感知し、これを補うように脳は呼吸を速めてたくさん空気(中の酸素)を取り込み、心拍数を多くして筋肉に酸素を運んで対応します。
 COPDの人は、空気の通り道が狭いので古い気体を出す時間(息をはく時間)が長くかかるため、速い呼吸をすると肺にたまった古い気体を出し切る前に空気を吸うことになってしまいます。

●深呼吸が大事なわけ
 しかし、これでは肝心な酸素が血中に取り込めずますます息苦しくなって悪循環です。こんな時、必要なのが深呼吸、ゆっくりと十分に息をはくことで次に新しい空気(中の酸素)を十分取り入れることができます。
 深呼吸は口笛を吹くイメージです。背筋を伸ばして、口をすぼめて、おなかを引っ込めるようにゆっくりと時間をかけて"ふ~~~~~~"と息をはきましょう。
 息を吸うときは普通に鼻から吸って下さい。息をはく時間は吸う時間の2倍以上かけることが大切です。
 最初のうちは息をはく時におなかに手を当てて押すようにしてみましょう。だんだん上手に息をはけるようになったら、歩きながら"ふ~~~~~~(はいて・はいて・はいて・はいて・はいて・はいて)、すーう(吸ってー)…を試し、最も自分にあうリズムを見つけましょう。
 息が苦しいとどうしても動くことが怖くなってしまいます。動かないと食欲や意欲が低下し、やせ、骨粗鬆症、免疫力の低下、うつ状態と実にさまざまな病気も合併します。
 だから、そうなる前に深呼吸。からだは壮快、気持ちも爽快になれますよ。