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2023年11月09日 【プレスリリース】過去最大規模の免疫フェノタイプ解析で自己免疫疾患の患者を層別化

過去最大規模の免疫フェノタイプ解析で自己免疫疾患の患者を層別化
ー関節リウマチもしくは全身性エリテマトーデスの
免疫フェノタイプに近い患者群に分類されることが判明ー

 
 
Point
・11の自己免疫疾患(※1)の患者1,000名の血液を対象に、免疫フェノタイプ解析(※2)で46種類の免疫細胞を定量化し、自己免疫疾患と免疫細胞のつながりを表すネットワークを明らかにした。
・患者層別化解析を行い、関節リウマチ(※3)の免疫フェノタイプに近い患者群と、全身性エリテマトーデス(※4)の免疫フェノタイプに近い患者群の2群に分類され、治療反応性とも関わることが明らかとなった。
・遺伝的背景と免疫フェノタイプを比較することで、関節リウマチに合併する間質性肺疾患(※5)の病態と樹状細胞(※6)の関わりが示唆された。


Ⅰ 概要 
                                                                          
 大阪大学大学院医学系研究科の岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、産業医科大学医学部の田中良哉 教授、中山田真吾 准教授、田中宏明 大学院生(第1内科学講座)、東京女子医科大学 医学部の針谷正祥 教授(膠原病リウマチ内科)、猪狩 勝則 特任教授(整形外科)らの研究グループは、約1,000名の自己免疫疾患の患者を対象に、46種類の免疫細胞の状態を調べる免疫フェノタイプ解析を実施し、詳細な臨床情報や個人のゲノム情報と統合するオミクス解析を実施しました(図1)。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、ANCA関連血管炎、特発性炎症性筋疾患、乾癬、IgG4関連疾患、混合性結合組織病、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、巨細胞性動脈炎、と11種類の自己免疫疾患が対象となる過去最大規模の解析となりました。
 自己免疫疾患の病態や発症には多彩な免疫細胞の働きが複雑に組み合わさり、同じ疾患の患者群の中でも、複数の異なる病態が混在しています。今回、研究グループは、11の自己免疫疾患の患者を対象に免疫フェノタイプ解析を実施し、自己免疫疾患や免疫細胞が構成するネットワークを明らかにすることに成功しました。「どの免疫細胞がどの自己免疫疾患の発症に関わっているのか」、という長年の謎に答える成果となりました。
 自己免疫疾患患者全体を免疫フェノタイプにより分類したところ、主に関節リウマチの免疫フェノタイプに近い患者群と、全身性エリテマトーデスの免疫フェノタイプに近い患者群の2群に大きく分類されることが判明しました。一方で、関節リウマチ患者の中にも、どちらかというと全身性エリテマトーデスに近い免疫フェノタイプを有する患者が少数存在することが判明し、このような患者では特定の免疫細胞の減少(例:制御性T細胞(※7))や治療反応性の悪さ(例:生物学的製剤(※8)投与後の関節炎改善度)が認められることが明らかとなりました。
 さらに、大規模疾患ゲノム解析手法であるゲノムワイド関連解析(GWAS)(※9)の結果に基づき個人のゲノム情報から疾患発症リスクを定量化するポリジェニックリスクスコア(PRS)(※10)を算出し、免疫フェノタイプとの関わりを検討しました。その結果、関節リウマチに合併する間質性肺疾患のGWASに基づくPRSと樹状細胞の関連が明らかとなり、これは同病態における樹状細胞の関与を示す結果と考えられました。
 本研究で同定されたさまざまな自己免疫疾患を特徴づける免疫フェノタイプ情報や、自己免疫疾患患者の分類方法に関する研究が今後加速することで、自己免疫疾患の更なる病態解明と個人の病態に最適な個別化医療(※11)の提供につながることが期待されます。
 
 
 図1:本研究の概要


  Ⅱ 研究の背景

 自己免疫疾患の病態や発症には、免疫反応を司る多数の種類の免疫細胞の働きが複雑に組み合わさっていることが知られています。また、同じ自己免疫疾患として診断される患者群の中においても、複数種類の異なる病態や免疫細胞の働きが混在しており、画一的な治療法を適用しても全ての患者で良好な治療成績が得られないことが課題でした。
 個人の免疫細胞の働きを観察する手法として、患者さんから採取した血液に含まれる免疫細胞の種類や量を定量化する、免疫フェノタイプ解析があります。免疫フェノタイプ解析は疾患の活動性を迅速に反映した免疫反応の状態を知ることができ、自己免疫疾患の個別化医療の鍵として注目されています。しかし、複数の疾患の多数の患者を対象に、数十種類におよぶ免疫細胞を正確かつ迅速に測定し、かつ疾患活動度や治療反応性といった詳細な臨床情報と統合する大規模な解析が必要なことから、自己免疫疾患における免疫フェノタイプの全体像は明らかになっていませんでした。
 自己免疫疾患の発症には個人の遺伝的背景が関与し、GWAS等の大規模疾患ゲノム解析を通じて発症に関わる遺伝子変異が多数同定されてきました。PRSなど個人のヒトゲノム情報に基づく疾患発症予測の試みが始まっていますが、遺伝的背景の個人差と、実際の疾患病態や免疫細胞の働きの個人差とのつながりは明らかになっていませんでした。
 つまり、複数の自己免疫疾患を対象に、免疫フェノタイプと臨床情報や個人のゲノム情報を結び付け、疾患の層別化や再分類を行う大規模なオミクス解析研究が必要とされていました。
 

 
Ⅲ 本研究の成果

 今回、研究グループは、産業医科大学第1内科学講座を代表とする多施設共同研究(FIRSTレジストリ, LOOPSレジストリ, FLOWスタディ)に参加された約1,000名の自己免疫疾患の患者を対象に、末梢血液中に含まれる46種類の免疫細胞の状態を調べる免疫フェノタイプ解析を実施しました。免疫フェノタイプ解析に必要な免疫細胞の分類実験解析過程を自動化するアルゴリズムを構築することで、多数の患者を対象とした免疫フェノタイプ解析の実施を可能としました。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、ANCA関連血管炎、特発性炎症性筋疾患、乾癬、IgG4関連疾患、混合性結合組織病、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、巨細胞性動脈炎、と11種類の主要な自己免疫疾患が網羅され、免疫フェノタイプ解析として過去最大規模の研究報告となりました。
 得られた免疫フェノタイプ情報を自己免疫疾患同士もしくは免疫細胞同士で比較することで、似通った免疫フェノタイプを有する疾患群(例:全身性エリテマトーデスと混合性結合組織病、全身性強皮症とシェーグレン症候群・IgG4関連疾患、関節リウマチと乾癬・強直性脊椎炎)や、共通した免疫動態を有する免疫細胞群(例:T細胞群、B細胞群、自然免疫細胞群)の存在が明らかになりました。さらに、自己免疫疾患や免疫細胞が構成するネットワークを明らかにすることに成功しました(図2)。全身性エリテマトーデスでメモリー制御性T細胞が、関節リウマチでCD4陽性T細胞とTh17細胞が、乾癬でナイーブ制御性T細胞が増加しているなど、「どの免疫細胞がどの自己免疫疾患の発症に関わっているのか」、という長年の謎に答える成果と考えられます。
 
 
図2:免疫フェノタイプ解析に基づく自己免疫疾患と免疫細胞のネットワーク
RA:関節リウマチ、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性強皮症、AAV:ANCA関連血管炎、IIM: 特発性炎症性筋疾患、Prosiaris:乾癬、IgG4RD:IgG4関連疾患、MCTD:混合性結合組織病、AS:強直性脊椎炎、SiS:シェーグレン症候群

 約1,000名の自己免疫疾患患者全体を免疫フェノタイプ情報により分類したところ、6つの患者群に分類されました。このうち3つの患者群では関節リウマチの患者数の割合が高く、残り3つの患者群では全身性エリテマトーデスの患者数の割合が高かったことから、自己免疫疾患患者を、主に関節リウマチの免疫フェノタイプに近い患者群と、全身性エリテマトーデスの免疫フェノタイプに近い患者群の2群に大きく分類できることが判明しました(図3)。関節リウマチと全身性エリテマトーデスは主要な自己免疫疾患ですが、異なる免疫病態反応を有すると以前から考えられており、それに沿った結果が得られたと解釈されます。
 
図3:免疫フェノタイプに基づく自己免疫疾患の患者群層別化
RA:関節リウマチ、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性強皮症、AAV:ANCA関連血管炎、IIM: 特発性炎症性筋疾患、Prosiaris:乾癬、IgG4RD:IgG4関連疾患、MCTD:混合性結合組織病、AS:強直性脊椎炎、SiS:シェーグレン症候群、巨細胞性動脈炎:GCA

 一方で、関節リウマチ患者の中にも、全身性エリテマトーデスが多い患者群に含まれる患者(=どちらかというと全身性エリテマトーデスに近い免疫フェノタイプを有する患者)が少数存在することが判明しました。免疫フェノタイプ情報と詳細な臨床情報を統合する解析を実施した結果、このような関節リウマチ患者では、特定の免疫細胞の減少(例:制御性T細胞の減少)や治療反応性の悪さ(例:生物学的製剤投与後の関節炎改善度の低さ)が認められることが明らかとなりました。これは、画一的な治療を適用しても、一部の自己免疫疾患の患者ではなぜか治療反応性が低いという現象の一部を説明しうる知見と解釈されます。
 さらに研究グループは、関節リウマチに関連したGWAS結果に基づき個人のゲノム情報から疾患発症リスクを定量化するPRSを算出しました。関節リウマチの患者において、免疫フェノタイプや詳細な臨床情報とPRSとの関りを検討しました。その結果、関節リウマチの発症を予測するPRSの値が高い関節リウマチ患者は、比較的低年齢であり、炎症反応や関節破壊の程度といった疾患活動度が高いことが明らかになりました。一方、関節リウマチに合併する間質性肺疾患を予測するPRSの値が高い関節リウマチの患者は、血液中の樹状細胞の量が増えていることが明らかになりました。これは、疾患の発症と合併症を予測するPRSが異なる免疫病態と関わっていることを示し、未だわかっていない点の多い関節リウマチ合併間質性肺疾患の病態解明に貢献する成果と考えられます。


Ⅳ 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究を通じて同定された多彩な自己免疫疾患を特徴づける免疫フェノタイプ情報や、自己免疫疾患患者の層別化分類方法、個人のヒトゲノム情報を組み合わせた活用に関する研究が今後加速することで、未だわかっていない点の多い自己免疫疾患の更なる病態解明や、個人の病態に最適な医療を提供する個別化医療の社会実装につながることが期待されます。


Ⅴ 特記事項

 本研究成果は、2023年10月31日(火)午前0時(日本時間)に英国科学誌「Annals of the Rheumatic Diseases」(オンライン)に掲載されます。
【タイトル】 “Extracting immunological and clinical heterogeneity across autoimmune rheumatic diseases by cohort-wide immuno-phenotyping”
【著者名】Hiroaki Tanaka1,2,#, Yukinori Okada2-6,#,*, Shingo Nakayamada1, Yusuke Miyazaki1, Kyuto Sonehara2-4, Shinichi Namba2, Suguru Honda7, Yuya Shirai2,8, Kenichi Yamamoto2,9,10, Satoshi Kubo1, Katsunori Ikari11, Masayoshi Harigai7, Koshiro Sonomoto1,12, Yoshiya Tanaka1,*.
 
【所属】  1. 産業医科大学医学部 第1内科学講座
          2. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
      3. 東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学
      4. 理化学研究所 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム
          5. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 免疫統計学
          6. 大阪大学 ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(PRIMe)
          7. 東京女子医科大学 膠原病リウマチ内科学
      8. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
              9. 大阪大学大学院医学系研究科 成育小児科学
    10. 大阪大学大学院医学系研究科 小児科学
    11. 東京女子医科大学 整形外科学
          12. 産業医科大学産業保健学部 成人・老年看護学
         (*責任著者、#同等貢献)

DOI:10.1136/ard-2023-224537

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業「全ゲノム・一細胞シークエンス統合解析による関節リウマチの病態層別化と個別化医療実装」、AMEDゲノム医療実現推進プラットフォーム事業「次世代ゲノミクス研究による乾癬の疾患病態解明・個別化医療・創薬」、日本学術振興会(JSPS)科研費「統合シークエンス解析による免疫アレルギー疾患ダイナミクスの解明」、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)、大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(PRIMe)、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)、大阪大学先導的学際研究機構(OTRI)、大阪大学ワクチン拠点先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)、大阪大学大学院医学系研究科バイオインフォマティクスイニシアティブ、武田科学振興財団の協力を得て行われました。


Ⅵ 用語説明

※1 自己免疫疾患
外来微生物から身体を守るための免疫機構に異常が生じ、自己を攻撃することで生じる疾患の総称。
 
※2 免疫フェノタイプ解析
血液中に含まれる多彩な種類の免疫細胞集団の存在と割合を、抗体を用いて解析する手法。
 
※3 関節リウマチ
Rheumatoid Arthritis; RA
自己免疫疾患の一つで、免疫系の異常により全身の関節に炎症が起こり、関節の痛みや破壊を生じる病気。
 
※4 全身性エリテマトーデス
Systemic Lupus Erythematosus; SLE
自己免疫疾患の一つで、免疫系の異常により全身の臓器に炎症を生じる病気。

※5 間質性肺疾患
肺の中でも間質と呼ばれる肺胞の壁に炎症や損傷が起こる病気。自己免疫疾患に合併する間質性肺疾患は有効な治療法に乏しく課題となっている。
 
※6 樹状細胞
免疫細胞の一種で、外来性の異物を認識し取りこむ作用をもつ細胞。
 
※7 制御性T細胞
免疫細胞の一種で、免疫反応を抑制する作用をもつ細胞。
 
※8 生物学的製剤
遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて製造され、特定の分子を標的とした治療薬の総称。
 
※9 ゲノムワイド関連解析(GWAS)
Genome-Wide Association Study
ヒトゲノムの全領域の遺伝子変異と疾患発症リスクとの関連を網羅的に検討する遺伝統計解析手法。
 
※10 ポリジェニックリスクスコア(PRS)
Polygenic Risk Score
ゲノムワイド関連解析が同定した疾患発症リスクを有する遺伝子変異をゲノム全域にわたって統合し、個人のリスクを定量化する方法。
 
※11 個別化医療
疾患毎に定められた画一的な治療に基づく医療を行うのではなく、個別の患者の病態に対して最適化された治療を行うこと。


【研究者のコメント】<岡田随象 教授>
自己免疫疾患の発症には様々な要因が関わるため、個別の疾患病態に即した患者層別化と最適な医療の提供が必要です。今回、11の自己免疫疾患の1,000名の患者さんの免疫フェノタイプ解析により、免疫細胞の状態や治療反応に関わる患者層別化が可能となったことは、将来的な個別化医療の実装の第一歩と期待されます。膨大なデータの解析を進めてくれた大学院生の田中宏明先生や、ご指導頂いた田中良哉先生、中山田真吾先生をはじめ、多くの共同研究者や研究支援機構とともに、検体をご提供していただいた方々に深く感謝を申し上げます。


【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
岡田 随象(おかだ ゆきのり)
大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝統計学 教授
東京大学 大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授
理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー
TEL: 06-6879-3971  FAX: 06-6879-3975
E-mail: yokada@sg.med.osaka-u.ac.jp
 

<報道に関すること>
大阪大学大学院医学系研究科 広報室
TEL: 06-6879-3387  
Email: medpr@office.med.osaka-u.ac.jp
 
産業医科大学 総務部 総務課 広報係
TEL: 093-588‐2030  
Emai: kohokikaku@mbox.pub.uoeh-u.ac.jp
 
東京大学医学部総務チーム 総務担当
Email: ishomu@m.u-tokyo.ac.jp
 
理化学研究所 広報室 報道担当
TEL: 050-3495-0247
Email: ex-press@ml.riken.jp
 
東京女子医科大学 総務部広報室
TEL: 03-3353-8111
Email: kouhou.bm@twmu.ac.jp
 

 

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