各室のご案内

小児がん患者支援室

小児がん患者支援室の役割

小児がん診療室は、小児がんを罹患している患者さんとその家族の方の支援を行うことを目的に2024年に新たに設立されました。当院における小児がん治療は現在、小児脳腫瘍を中心に行っております。小児の患者さんとそのご家族が安心して治療を受けられるように、成長、発育、教育のサポートをしていきたいと思います。

小児がん患者支援室 室長
脳神経外科 藍原 康雄

当院における小児がん治療(脳腫瘍)

 当院では、日本全国さらには海外からも多くの小児脳腫瘍のお子さんを受け入れ、治療を行っています。また、既に他施設で診断・治療を受けられた脳腫瘍のお子さんのセカンドオピニオンも常時対応しています。
 小児脳腫瘍は、病理診断も(グリオーマ、上衣腫、髄芽腫、胚細胞腫瘍、髄膜腫など)発生する部位も(大脳、小脳、脳幹、など)多種多様であり、治療方法も疾患によって異なります。

小児脳腫瘍の治療は、「手術」「化学療法」「放射線療法」の3種類の治療法の組み合わせが非常に大切です。手術だけで完治に至る小児脳腫瘍は残念ながら多くはありません。これまでの症例の経験を基に、化学療法、放射線治療、さらに最近では遺伝子パネル検査などの様々なモダリティーを使って、集約的な治療を行っています。

当院の特徴

  • 髄液中胎盤型アルカリフォスファターゼ(PLAP)による胚細胞腫瘍の治療
    中枢神経系胚細胞腫瘍は性腺の原始生殖細胞に由来する腫瘍です。体の正中線上に発生し、水頭症を合併して頭痛にて発症することが多い脳腫瘍です。水頭症を合併している場合には神経内視鏡を用いた水頭症治療を行った後に組織の生検(一部分を採取)を行うか、あるいは髄液中の特異的なマーカーを測定し診断を確定します。頭蓋内胚腫(ジャーミノーマ)では髄液中PLAPの上昇が認められることを報告しました。診断の特異度が非常に高く、症例によっては組織診断(手術)を行わなくても治療を開始することが可能になりました。また、頭蓋内混合性胚細胞腫瘍の症例ではPLAPの推移を見極め、摘出術・放射線治療・化学療法のタイミングを決定しています。

  • 深部脳腫瘍
    視神経、視床、脳幹など、外科的にアプローチが困難とされる正中構造に発生する深部腫瘍に対しても、限局的な腫瘍(正常の脳と腫瘍との境界が明瞭なもの)の場合は、積極的な摘出や組織診断を行っています。

  • 小児悪性脳腫瘍に対する光線力学療法(Photodynamic Therapy: PDT)
    PDTは、正常組織からは速やかに排泄され腫瘍細胞には残る性質を有する光感受性物質(レザフィリン®)を摘出前に投与し、腫瘍細胞内に残った光感受性物質に特定波長のレーザを照射することで正常細胞を障害することなく腫瘍細胞だけを選択的に治療することを可能にする治療です。PDTでは手術の前の日にレザフィリンを投与します。手術の当日に脳腫瘍を可能な限り外科的に摘出したあと、頭を開けた状態で腫瘍細胞が残っている可能性がある部位に対して手術中にレーザ照射を行います。術後2週間は光に対して過敏な状態が続きますので光を落とした状態で入院を継続していただきます。光過敏性試験(光に対して皮膚の発赤が出現しないかを確認する試験)がクリアされればその後は日常生活に戻ります。PDTを併用しても、標準治療(手術の後に引き続いて行われる放射線・化学療法など)は影響なく行うことが可能です。
    当院では、2018年に小児・若年成人(20歳以下)に対する光線力学療法の臨床研究を実施し、2022年にその結果を報告しました。再発・難治性の症例や、重要な構造物(手足の動き、感覚、見え方などを担う領域)近くの腫瘍に対して適応しています。
  • 「びまん性内在性橋グリオーマ(DIPG)のレジストリ構築および緩和ケアの実態解明を目的とした多施設共同前方視的観察研究(2024年から開始予定)」
    JCCGが主体となり行われる日本全国規模の前方視的観察研究です。当施設も参加予定です。
    DIPGに関して、当院における治療の特徴的として放射線治療中の頭痛・吐き気・水頭症の軽減を目的とした外減圧術(頭蓋骨を一部外して頭の中の圧を軽減する手術)を、治療当初に行うことが挙げられます。減圧術を行うことにより、放射線治療中あるいは再発時の後頭蓋内圧の上昇を可能な限り回避し、患児の疼痛の回避につながっていると考えています。

  • 小児脳腫瘍に対する定位放射線治療(ガンマナイフ)
    標準照射以外の放射線治療として、ガンマナイフ治療は有用な治療の選択肢であり、治療豊富なガンマナイフ治療チームのもと実施しています。従来のピン固定の場合、小児では全身麻酔が必要でありましたが、近年はマスク固定の方法も行っているため、MRI検査などと同じように軽鎮静で実施が可能となりました。そのため、年齢や疾患によっては入院せず、外来での照射を行う場合もあります。また、本人にストレスなく安全に分割法での照射も可能となりました。

院内学級(わかまつ学級)

わかまつ学級は、東京女子医科大学病院における院内学級名であり、平成25年に新宿区余丁町小学校の分級として開級いたしました。院内学級設立に当たり、非常に多くの方々に御尽力いただきましたこと、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。
院内学級設立に至った経緯として、当院で治療を行う小児疾患には手術、化学療法、放射線治療を必要とし、長期にわたる入院生活(長い場合には6ヶ月~1年になることもあります)を余儀なくされるお子様が、学業面を心配することなく安心して治療を受けて頂ければとお願い、わかまつ学級が発足しました。(現在は小学部のみとなります)。
当院に入院中の小学部のこども達は、皆さん(原籍の小学校からの転籍手続き終了後)わかまつ教室まで登校し、授業を受けることができます。体調が優れない時や治療によって感染症が心配な時期には病室には、担任の先生に病室まで訪問していただいて、継続的に授業を受けることも可能となります。入院期間が中長期(2週間以上)となることが予想される場合、元々通っていた小学校とわかまつ学級の教諭が事前に情報を共有した後、一時転校(転籍)をしていただきます。無事に治療が終わり退院の際には、再度情報の共有(原籍校教諭・わかまつ学級教諭・主治医・ご家族を含め)を行った後、もともとの小学校へ再度転籍となります。わかまつ学級での授業はもともと通っていた小学校と同じ授業を受けたことになりますので、治療中も学校を欠席したことにはなりません。
わかまつ学級(小学部)には疾患・学年問わず全員が同じ教室で、学年に併せた授業を受けることが可能となります。日々病気と闘う子供たちにとって、治療と同じ位、勉強や学校という社会生活環境の整備が大切だと我々は考えております。
毎朝病棟から元気に「いってきます」とランドセルを持って笑顔で登校できる病院を、そして体調が悪いときでも「今日はこんなことをわかまつ学級で勉強したよ」とこども達がお話しできる小児医療環境を目指しております。

(わかまつ学級写真)

以上に挙げた疾患は、当科で治療する脳腫瘍の一部です。小児脳腫瘍の特徴は非常に多様であることと、お子様は「成長」するということです。その中で、こども達の成長は身体的な成長・発達の他に学習・知的発達の他に心理面の発達も非常に大切です。その点において、当院では脳外科専属の心理士がお子様の心理面の評価およびサポートを行います。大事なお子様が成長し、疾患を乗り越えられるまで寄り添って見守ることが我々小児脳神経外科医の使命と考えています。