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2023年03月28日 【プレスリリース】新型コロナウイルス感染症に伴う小児の急性脳症の臨床像を解明

新型コロナウイルス感染症に伴う小児の急性脳症の臨床像を解明
 
 
Point
 
○ 東京女子医科大学附属八千代医療センター小児科の高梨潤一教授と東京都医学総合研究所 脳・神経科学研究分野 こどもの脳プロジェクトの佐久間啓プロジェクトリーダーらのグループは、小児のCOVID-19に関連した小児急性脳症の調査を実施し、その臨床像を明らかにしました。
 
1.本件調査(2020年1月1日~2022年5月31日)において、小児(18歳未満)のCOVID-19患者数の増加に伴い急性脳症が増加したことが明らかとなりました。
(本件調査対象者の中で急性脳症発症前に重症の呼吸障害があった人はいませんでした。)
2.急性脳症症候群のタイプとしてはけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多く全体の16%を占めます。
3.急性脳症となった調査対象者の半数以上(31名中19名)は後遺症もなく回復しましたが、残念ながら4名が死亡し5名が重度の後遺症を残しました。      


Ⅰ 研究の背景と目的

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は主に呼吸器に感染し、脳に影響を及ぼすことは稀と考えられてきました。しかし2022年に基礎疾患のない小児がCOVID-19に伴い急性脳症を発症し死亡したというニュースが報道され、社会的関心が急速に高まりました。そこで私たちは我が国の小児におけるCOVID-19に伴う急性脳症の実態を明らかにするために、緊急の全国調査を実施しました。


Ⅱ 研究の方法

 この調査は厚生労働科学研究・難治性疾患政策研究事業「小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備」研究班(通称:小児急性脳症研究班、研究代表者:髙梨潤一)の事業として実施し、日本小児神経学会共同研究支援委員会の支援を受けました。調査方法は日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートで、2022年5月31日までにCOVID-19に伴い急性脳症を発症した18歳未満の方を対象として、患者様の年齢・性別・症状・診断名・転帰などについて調査しました。なおこの研究は「新型コロナウイルス感染症の神経合併症に即応するための臨床研究」(研究代表者:佐久間 啓)として東京都医学総合研究所倫理委員会による審査を受け、適切な研究であると承認されています(承認番号20-28(1))。また脳画像等の臨床情報を提示する際には患者様もしくは保護者の同意を得ています。
 
 
Ⅲ 研究の結果

 217の医療機関より回答があり、39名の患者様の報告がありました。このうち5名は私たちが設定した対象基準を満たしていなかったことから除外され、34名がCOVID-19に伴い急性脳症を発症したことがわかりました。このうち3名は急性脳症の原因となる基礎疾患を持っていたため除外し、31名を検討の対象としました。検討の結果、次のようなことがわかりました。

1.小児のCOVID-19患者数の増加に伴い急性脳症も増加した
 31名中29名はオミクロン株が流行の主体となった2022年1月以降に急性脳症を発症していました。しかし小児のCOVID-19患者数も2022年より急増しており、小児のCOVID-19患者の中から急性脳症を発症した割合を調べてみると、2021年以前と2022年以降でほぼ変わらないことがわかりました。従ってオミクロン株が急性脳症を引き起こしやすいわけではないと考えられました。

表 COVID-19累計感染者数に対する急性脳症の患者数の比較
 
  20歳未満のCOVID-19累計感染者数*(=A) 急性脳症の患者数(=B) B/A
2021年12月31日以前 241,662人 3人 0.0000124
2022年1月1日以後 1,979,153人 28人 0.0000141
*厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」
https://covid19.mhlw.go.jp

2.急性脳症になる前に重症の呼吸障害があった人はいない
 成人、特に高齢者では、COVID-19による重症の肺炎の治療中に脳症を発症することが報告されていますが、今回の調査では急性脳症を発症する前に肺炎などにより既に重い呼吸障害があった人は一人もいませんでした。脳の症状としてはけいれん、意識障害、異常な言動などが多く、COVID-19による発熱に加えてこれらの症状が見られた場合には急性脳症に注意する必要があります。

3.半数以上は後遺症なく回復したが、4名が死亡し5名が重度の後遺症を残した
 急性脳症からの回復の程度を調べてみると、31名中19名は急性脳症になる前の状態まで回復しましたが、4名が死亡し、8名は何らかの神経学的な後遺症を残しました。8名のうち5名は比較的重い後遺症でした。このように急性脳症の中でも患者さんにより回復の程度に大きな差があることがわかり、なぜこのような違いが出てくるのかが問題になります。

図1 急性脳症の転帰

4.急性脳症症候群のタイプとしてはけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多い
 急性脳症は単一の病気ではなく、特徴的な臨床・画像所見を呈する複数の急性脳症症候群の複合体であると考えられています。これまでの我が国における調査結果では、急性脳症症候群の中では、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)というタイプが最も多く、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症(MERS)がこれに続くことが明らかにされています。COVID-19による急性脳症でもAESDが31名中5名と最も多く、過去の報告と一致しています。一方、過去の調査では極めて稀とされていた、劇症脳浮腫を伴う脳症や出血性ショック脳症症候群というタイプが比較的多い(それぞれ3名、2名)ことがわかりました。この二つのタイプではいずれも脳浮腫(脳が腫れ上がる現象)が急速に進行し致死率が高いことから、急性脳症症候群を診療する上で大きな問題になります。

図2 急性脳症のタイプ(急性脳症症候群)
AESD = けいれん重積型(二相性)急性脳症、MERS = 可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症、ANE = 急性壊死性脳症、HSES = 出血性ショック脳症症候群、AFCE = 劇症脳浮腫を伴う脳症

5.急性脳症症候群はその他の急性脳症と比べて重症化する傾向がある
 急性脳症の患者さんの約半数はAESDやMERSなどの急性脳症症候群のいずれかのタイプを示しますが、残りの約半数はいずれの症候群にも分類されません。そこで特定の急性脳症症候群に当てはまる患者さんと当てはまらない患者さん(=その他の急性脳症)に分けて、その特徴を比較しました。すると、その他の急性脳症と比べて、急性脳症症候群では回復の程度が明らかに悪いことがわかりました。つまり急性脳症症候群はその他の急性脳症と比べて重症化する傾向があるということになり、このような結果が統計学的解析によって裏付けられたのはこれが初めてです。

図3 急性脳症症候群とその他の急性脳症における回復の程度の比較


Ⅳ 研究の意義

1.我が国ではインフルエンザなどのウイルス感染症に伴う小児の急性脳症が多いことが知られていますが、欧米では発生が少ないためこの病気は医療関係者の間でもあまり知られておらず、このことがウイルス関連急性脳症に関する研究が進まない原因の一つになっています。今回の研究成果が国際的な医学雑誌に掲載されたことにより、専門家の間でウイルス関連急性脳症に対する理解が深まることが期待されます。

2.インフルエンザなどの一部の例外を除き、年間に何人のこどもがウイルス感染症にかかっているかを示す正確なデータはありません。これに対してCOVID-19ではこの研究の実施期間中の正確な患者数が集計されていることから、急性脳症の発生率を予測しやすいというメリットがあります。

3.ウイルス関連急性脳症の中でも特徴的な臨床・画像所見を示す急性脳症症候群は重症化する傾向が明らか
になったことから、今後はこれらの症候群を重点的に研究することで、より多くの患者様を救うことができるようになることが期待されます。


今後の課題

 ウイルス関連急性脳症の原因は未だに不明であるため、有効な治療方法は確立されていません。今後は今回の研究では調査できなかった治療内容についてもデータを集め、新しい治療法の開発に向けたエビデンスを集めていかなければなりません。また小児に対するワクチン接種が急性脳症の予防につながるかどうかについても検討が必要です。私たちは今後もCOVID-19に関連する急性脳症の調査を継続し、その結果を皆様に発信し続けたいと考えています。さらにこのような研究を進めていくためには、COVID-19をはじめとするウイルス感染症に伴う急性脳症の患者登録システムを作るなど、データを効率的に集めるための体制づくりが必要です。
 

 本研究は、厚生労働科学研究・難治性疾患政策研究事業「小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備」研究班(通称:小児急性脳症研究班、研究代表者:髙梨潤一)の助成を得て実施されました。



【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
髙梨潤一(タカナシジュンイチ)
東京女子医科大学附属八千代医療センター小児科・教授、小児急性脳症研究班・研究代表者
〒276-8524 千葉県八千代市大和田新田477-96
Tel:047-450-6000 Fax:047-458-7047
E-mail: jtaka@twmu.ac.jp
 
<報道に関すること>
東京女子医科大学 広報室
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1 Tel:03-3353-8111 Fax:03-3353-6793
E-mail: kouhou.bm@twmu.ac.jp
 
東京都医学総合研究所 事務局研究推進課
〒156-8506 東京都世田谷区上北沢2-1-6 Tel:03-5316-3109
 
参考サイト(用語説明など掲載)
小児急性脳症研究班ホームページ https://encephalopathy.jp

【プレス情報】
1.掲載誌名:Frontiers in Neuroscience
2.論文タイトル:Severe pediatric acute encephalopathy syndromes related to SARS-CoV-2.
3.著者名:Sakuma H and Takanashi J-I, et al.
4.DOIコード: 10.3389/fnins.2023.1085082
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo) :2023年2月27日


 

2023年03月16日 防災・保安課の福島課長が消防総監賞を受賞!

 このたび、防災・保安課の福島眞次課長が消防総監賞を受賞し、3月13日(月)弥生記念講堂A会議室にて牛込消防署より感謝状が授与されました。

 「あなたは消防に対する深い理解から多年にわたり、消防行政の円滑な推進に協力され都民生活の安全と東京消防の発展に寄与されました」。凛とした近藤景子課長(牛込消防署予防課)の声で読み上げられた感謝状が防災・保安課の福島課長に手渡されました。見守るのは同課の柿沼 均課長ら常日頃苦楽を共に防災・保安業務に勤しむメンバーです。
   
 今年は、東京消防庁が開庁して75周年という節目の年。同庁が管轄する各消防署では消防行政の現場として緊張感が絶えないと聞いています。消防は、消防組織法に定められているように、火災その他の災害から国民の生命、身体および財産を守り、住民生活の安全を確保することを目的としています。また、その責任は、住民に身近な自治体である市区町村とされており、市区町村においては消防行政が重要な位置を占めています。
 
 したがって新宿区を中心に本学のような大規模医療施設と協力しながら防災に注力する牛込消防署にとっても防災活動に熱心な本学を良きパートナーとして位置付けているようです。
 
 感謝状を受け取った福島課長は、「このように本学の防災活動を高く評価していただいたことは、防災・保安課はもとより、本学学生・職員全員が日々の身の回りの点検や定期的な防災訓練に進んで取り組む姿勢があってこそだ。」と語りました。


左から 牛込消防署村信篤史予防課消防司令、近藤景子予防課長、
福島
眞次課長、柿沼 均課長、石井雅久課員、山口義明課員

 

2023年03月10日 足立の岩﨑救急救命士をトルコ救護隊として派遣

 
 附属足立医療センター救命救急センターの岩 恵救急救命士がJICA国際緊急援助隊医療チーム 一次隊として214日からトルコ共和国へ派遣されました。このたび無事14日間の活動期間を終え、重責を果たして帰国いたしました。

救急救命士は、8年前に国際緊急援助隊医療チーム隊員となり、派遣に備えた訓練を重ねてきました。2月中旬に派遣要請があり、本人の希望もあっての実現となりました。

出発前には「今回女子医大の一員として、日本国政府のオフィシャルミッションに参加できることが本当にうれしく、被災された方の力に少しでもなれるように頑張りたい。日本の代表としてこれまで重ねてきた訓練の成果を発揮したい。」と語っていた救急救命士。
今後のますますの活躍が期待されます。

以下、岩﨑救急救命士からの報告です。
 
 
トルコ共和国への国際緊急援助隊派遣にかかる活動報告
 
附属足立医療センター
救急医療科 岩崎 恵

 2月6日にトルコ南部で発生した地震被害に対し、外務省は国際緊急援助隊・医療チーム(以下、JDR)の派遣を決定しました。私は一次隊として2月14日羽田空港を出発し翌15日午後より活動を開始しました。JDRはWHO現地調整本部よりガジアンテップ県オーゼリ市で被災して病院避難を余儀なくされたオーゼリ国立病院の機能を補完する活動を指示され、手術・病棟機能を持つfield hospitalを展開し1日約100人の外来診療を行いました。

 
受付風景(右が岩﨑)

 近年、緊急医療チーム(EMT:Emergency Medical Team)に対するWHOの国際認証制度が開始され、JDRは、24時間手術に対応可能なType 2として、世界で3番目に認証を受けています。今回は、認証取得後の初めてのミッションとなりました。
 チームの一員として私は、トリアージ、受付、バイタル測定、問診などの外来業務を担いました。外傷CPA(心肺機能停止)や重症体幹部外傷が運び込まれる緊迫した場面や、切迫早産に対しチーム一丸となりサポートする場面もありました。文化の違い、CPR(心肺蘇生法)の違い、処方薬の違いなどチーム内で議論する場面は何度もありましたが、現地に寄り添った医療を提供するための前向きなもので、非常に良いチームワークで約2週間の活動を終えることができました。
 なお、一次隊活動期間中の疾病構造としては呼吸器感染症が約40%、外傷が約48%で、災害関連性は30%前後で推移していました。
 




 
 
JDR診療サイトのドローン空撮
(地元メディアvoaturkceサイトより引用)

 朝晩は、氷点下まで冷え込むテントで野営という過酷な環境でしたが、行く先々で示されるトルコの皆さまの温かさに、精神的には非常に充足した気持ちで活動を行うことができました。2週間の活動を終え、2月27日に帰国しましたことをご報告させていただきます。
 
 チームの活動は現在も続いており、3月8日現在、三次隊に引き継がれております。
 今般、日本の代表として被災地で活動した経験を糧に、今後も救急・災害医療に尽力していく所存です。


整形外科の手術風景