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2024年04月24日【プレスリリース】総合医科学研究所
北海道大学病院
学校法人東京女子医科大学

ウィリアムズ症候群に合併する末梢性肺動脈狭窄症の重症化の原因を同定
~ 治療ターゲットとしてのPTGIS遺伝子の可能性 ~


 
 
Point
ウィリアムズ症候群に合併した重症末梢性肺動脈狭窄症の患者さん2名において、PTGIS遺伝子の レアバリアントを同定しました。
PTGIS遺伝子のレアバリアントは、末梢性肺動脈狭窄症の発症メカニズムに関与しています。
PTGIS遺伝子は、末梢性肺動脈狭窄症の有効な治療ターゲットとなる可能性があります。


【概要】 
                                                                          
 北海道大学病院小児科の永井礼子特任助教、武田充人准教授、真部淳特任教授、東京女子医科大学総合医科学研究所の赤川浩之准教授、東京女子医科大学循環器小児・成人先天性心疾患科の稲井慶准教授、広東省医学科学院広東省人民医院循環器内科(中華人民共和国)の荆志成主任教授らの研究グループは、ウィリアムズ症候群に合併した重症末梢性肺動脈狭窄症における、末梢性肺動脈狭窄症の増悪因子として、2名の患者さんでPTGIS遺伝子*のレアバリアント**を同定しました。
 
 
【背景】

 末梢性肺動脈狭窄症は、主肺動脈から分岐した右肺動脈および左肺動脈、そしてそれらの末梢にまで及ぶ血管狭窄による疾患です。先天性心疾患を持つ患者さんの中での、末梢性肺動脈狭窄症の発生率は2〜3%です。一部の軽度の末梢性肺動脈狭窄症は、治療しなくとも自然に改善することがあります。特にウィリアムズ症候群(特徴的な顔貌、精神発達遅延、特徴的な性格などをもつ先天性遺伝性疾患)に合併した末梢性肺動脈狭窄症ではこの傾向が強くみられます。しかし、中等度の末梢性肺動脈狭窄症では、心臓カテーテルによるバルーン血管拡張術や外科的手術がしばしば行われ、それらが複数回必要となることもあります。さらに、重度の末梢性肺動脈狭窄症の場合、これらの治療は困難です。特に、肺の中にある末梢性肺動脈狭窄症は手術で治療することができないことから治療が非常に困難であり、命にかかわることもあります。

 
【研究方法】

 最初に、ウィリアムズ症候群および重度の末梢性肺動脈狭窄症を持つ小児患者さんにおいて、遺伝学的検査と機能解析を行いました。次に、最初の解析結果に基づいて、ウィリアムズ症候群および軽度から重度の末梢性肺動脈狭窄症を持つ患者さん12名、末梢性肺動脈狭窄症を持たないウィリアムズ症候群の患者さん50名、重度の末梢性肺動脈狭窄症のみを有する患者さん21名においても遺伝学的検査を実施しました。


 【研究成果】

 全エクソーム解析により、ウィリアムズ症候群および重度の末梢性肺動脈狭窄症を持つ小児患者さんにおいて、PTGIS遺伝子のレアバリアントが同定されました。この患者さんの肺動脈内皮ではPTGISタンパクの発現量が低下しており、また、尿中プロスタサイクリン***代謝物の量が低下していました。
 ヒト肺動脈平滑筋細胞および内皮細胞を用いた機能解析実験では、このレアバリアント構造体を導入した細胞においては、正常PTGIS構造体を導入された細胞と比較して、PTGISタンパク発現量が有意に低下し、細胞増殖および移動率が有意に増加していました。また、このPTGISレアバリアント構造体はヒト肺動脈内皮細胞による管腔形成能力をも低下させました。
 さらに、別のウィリアムズ症候群および重度の末梢性肺動脈狭窄症を持つ患者さん1名からも、PTGIS遺伝子において別のレアバリアントを同定しました。


  【今後の展望】

 PTGIS遺伝子は、プロスタサイクリン合成酵素を作り出しています。プロスタサイクリンには血管拡張作用があることから、PTGIS遺伝子に異常があると、プロスタサイクリンによって血管を拡張させることができず、結果として血管が狭窄する可能性があると予測されます。
PTGIS遺伝子は、肺動脈性肺高血圧症の原因遺伝子としても報告されています。このPTGISレアバリアントを有する肺動脈性肺高血圧症の患者さんに対してプロスタサイクリン類似化合物の吸入薬を使用したところ、病態が改善したとの報告があります。この報告に基づくと、PTGIS遺伝子レアバリアントを持つ末梢性肺動脈狭窄症の患者さんにおいても、プロスタサイクリン製剤が治療効果をもたらす可能性があると考えられます。
この研究成果は、重症末梢性肺動脈狭窄症と肺動脈性肺高血圧症の発症メカニズムが類似している可能性を示唆しており、さらには、重症末梢性肺動脈狭窄症の新たな治療戦略の開発に役立つことが期待されます。
 

 

 この研究の成果は日本時間 2024年4月19日(金)公開の米国心臓協会誌 Journal of the American Heart Association 誌にオンライン掲載されました。


【謝辞】

 この研究は、第7回Miyata Foundation Award日本小児循環器学会研究奨励賞、中国医学科学院イノベーション基金[2021-I2M-1-018]、中国国家重点研究開発計画 [2022YFC2703902]、中国国家高水準医療機関臨床研究支援 [2022-PUMCH-B-099]、中国国家自然科学基金プロジェクト [82241020]による支援のもとで行われました。


【用語解説】

PTGIS*:プロスタサイクリン合成酵素。プロスタグランジンH2をプロスタサイクリンに変化する
働きを持っています。
レアバリアント**:一般集団の中での発生頻度が、極めて低い遺伝子の変化のことです。レアバリ
アントは特定の病気の発症の原因になっていることがあります。
プロスタサイクリン***:血管を拡げる働きと、血小板の活性化を抑える働きをもつ生理活性物質です。


【論文情報】
論文名: 
Identification of PTGIS rare variants in patients with Williams syndrome and severe peripheral pulmonary stenosis
著者名:永井礼子1,2、赤川浩之3、澤井彩織1、马悦佼4、八鍬聡5、宗内淳6、安田和志7、山澤弘州1、山本俊至8、高桑恵美9、外丸詩野9、古谷喜幸2、加藤達哉10、原田元2、稲井慶2、中西敏雄2、真部淳1、武田充人1、荆志成11
(1 北海道大学病院小児科、2 東京女子医科大学循環器小児・成人先天性心疾患科、3 東京女子医科大学、4 中国医学科学院北京協和医院[中華人民共和国]、5 JA北海道厚生連帯広厚生病院小児科、6 独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児科、7 あいち小児保健医療総合センター循環器科、8 東京女子医科大学病院ゲノム診療科、9 北海道大学病院病理診断科、10 北海道大学病院呼吸器外科、11 広東省医学科学院広東省人民医院)
掲載誌: Journal of the American Heart Association(循環器病学の専門誌)
DOI: 10.1161/JAHA.123.032872
公表日:2024年4月19日(日本時間)



【お問い合わせ先】
北海道大学病院小児科 特任助教 永井 礼子(ながい あやこ)
TEL 011-706-5954  FAX 011-706-7898  メール ayakonagai@med.hokudai.ac.jp
東京女子医科大学総合医科学研究所/メディカルAIセンター 准教授 赤川 浩之(あかがわ ひろゆき)
TEL 03-3353-8111 FAX 03-5367-9948  メール akagawa.hiroyuki@twmu.ac.jp
 
 
【配信元】
北海道大学病院総務課総務係(〒060-8648 札幌市北区北14条西5丁目)
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