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2015年08月17日腎移植・泌尿器腫瘍治療で我が国屈指の実績
腎移植

圧倒的な症例数と治療実績で世界から高評価

 東京女子医科大学病院中央病棟2階の第6・第7手術室。生体腎移植は、室内を行き来できる2つの手術室が使用される。一方の手術室では腎臓提供者(ドナー)からの腎摘出、もう一方ではそれを受ける患者さん(レシピエント)への腎移植が行われる。
 5月某日、50代の男性患者さんへの生体腎移植が実施された。ドナーは親族の60代の男性。午前9時15分、第6手術室においてドナーからの腎臓摘出が腹腔鏡下手術によって始まった。そして、1時間半後の10時45分に腎臓を摘出。179gの決して小さくはない腎臓を、開腹せずに摘出する腹腔鏡下手術のみごとな技を目の当たりにした。
 
  ドナーから摘出されたばかりの腎臓。         腎臓摘出は腹腔鏡下手術によって行われる。
 
 摘出された腎臓はただちに隣の第7手術室へ持ち運ばれ、移植するための処置が施された。11時、すでに開腹されていた患者さんの右下腹部への腎移植がスタート。40分後に腎動脈の吻合が終わり、その後、尿管を膀胱につないで手術が完了したのは午後1時前だった。腎臓摘出から移植までに要した時間はざっと3時間半。想像していたよりもはるかに短いものだった。
 腎移植は、末期腎不全の唯一の根本治療法といえるものだ。親や兄弟姉妹などの血縁者、配偶者から腎臓の提供を受けて移植するのが生体腎移植である。腎臓は1人に2つあり、1つになっても機能には問題がないため、1つを摘出して患者さんへ移植することが可能なのだ。一方、脳死または心肺停止となった人から腎臓の提供を受けて移植するのが献体腎移植である。さらに、腫瘍や結石などの病変を持つ腎臓を体外に取り出し、再建して再び体内に戻す自家腎移植もあるが、この移植例はそれほど多くはない。
 現在、我が国には約31万人の腎不全患者さんが透析療法を受けている。このうち、腎移植を受けたいと願っている患者さんは1万数千人を数える。
だが、実際の腎移植件数は年間約1,600件。透析患者さんのおよそ200人に1人という割合だ。また、このうち献体腎移植の件数はわずか200件にすぎない。臓器の提供があまりにも少ないからだ。腎臓病総合医療センター泌尿器科の田邉一成教授(女子医大病院・病院長)は次のように話す。
 「アメリカでは生体・献体合わせて年間約1万7,000件の腎移植が行われています。日本はアメリカの3分の1の人口ですから、その比率でいけば年間5,000件の腎移植があってもいいはずです。仮に献体ドナーが1,000人出れば、移植できる腎臓が2,000個になりますから、生体と合わせて年間3,500人くらいの患者さんが腎移植を受けることができる計算になります」
泌尿器科の田邊一成教授(女子医大病院・病院長)。

 女子医大病院が最初に腎移植を行ったのは、今から44年前の1971年である。その後、東間紘教授が腎移植術の確固とした基盤を築き、2006年からそれを受け継いだ田邉教授がさらに進化・発展させ、女子医大病院を世界有数の腎移植施設として広く知らしめるに至っている。
 「我々は年間約100件の腎移植手術を行っていますが、我が国の病院の中ではもちろんトップです。また、治療成績を表す10年生着率は95%で、世界でも断トツです」と田邉教授は胸を張る。
 さらに、血液不適合移植に先鞭をつけたのも女子医大病院である。主に夫婦間で行われる血液不適合移植は、腎移植全体の約3割を占めるが、その生着率も90%超と高く、症例数・治療成績とも世界を大きくリードしている。
 こうしたことから、泌尿器科には世界各国から研修や見学のために訪れる医療スタッフが引きも切らない。このため、科内のカンファレンスは英語で行っており、外国人からは大いに感謝されているとのことだ。











英語で行われているカンファレンス

腎がん

群を抜く手術件数で他の病院を大きくリード
 
 女子医大病院は“腎がんに強い病院”としても知られる。
 腎がんの手術件数は年間約270件にのぼるが、この数字は日本の病院の中で群を抜くものである。第2位の病院の年間手術件数が100件強であることからも、突出していることが分かる。単に手術件数が多いというだけでなく、早期の腎がんや小径の腎がんの場合は、腫瘍とその周辺のみを切除する「部分切除術」を推進していることも特徴だ。ちなみに、過去3年間の部分切除術の割合は60%超となっている。また、腹腔鏡下手術を積極的に取り入れ、患者さんの負担を少なくする低侵襲化も進めている。腎臓全摘手術においても、ここ数年は開腹手術より腹腔鏡下手術のほうが多い。
 さらに、2013(平成25)年からは手術支援ロボット「ダビンチサージカルシステム」(以下ダビンチ)を駆使した部分切除術が行われるようになった。同年のダビンチによる手術件数は34件だったが、昨年は75件へと倍以上増加した。まだ医療費が保険適用の対象になっていないため患者さんの費用負担は大きいが、手術を待ち望んでいる患者さんが少なくないためコンスタントに週2~3回のペースでダビンチによる手術を行っており、今年は100件の大台を突破してくるのは間違いない。
保険が適用されるようになれば、ダビンチによる腎がんの部分切除術はさらに増えてくるだろう。
  
前立腺がん

ロボットによる手術の推進で良好な成績を実現

 心地よいポップスのBGMが小さく流れる中、ときおり「カシャ、カシャ」という軽快な音が鳴り響く。ここは中央病棟2階のダビンチが設置されている手術室。青森からやってきた前立腺がん患者さんの手術が行われているところだ。「カシャ、カシャ」という音は、ロボットアームを操作するコンソールの足元のペダルを操作したときに発せられるものである。患者さんの腹部に開けられた穴には3Dカメラと手術用鉗子が挿入され、コンソールに座った田邉教授が3D画像を見ながらロボットアームを遠隔操作する。田邉教授はダビンチ手術の先駆者でもある。
 モニターに映し出された鮮明な画像を目にすると、患部が正確に切除されていくのが見てとれる。まるでオペレーターが患者さんの体の中に入り込んで手術を行っているような錯覚を覚える。通常、ダビンチによる前立腺がん手術は1.5~2時間で終わるが、この日の患者さんはリンパ節の切除も行ったため手術時間は3時間を要した。
 女子医大病院にダビンチが導入されたのは2011(平成23)年。その年の8月に前立腺全摘術の一例目が行われ、これまでのダビンチによる手術件数は約250件を数える。田邉教授とともにダビンチ手術の指導的立場にある飯塚淳平助教は、「今では前立腺がん手術のほぼすべてをダビンチによって行っています。おおむね週2回のペースで行い、年間の手術件数は80件程度となっています」という。
 ダビンチは腹腔鏡を発展させたものといえるが、腹腔鏡による手術は全般的に出血が少なく、術後の回復が早いというメリットがある。出血量は開腹手術の1~2割にすぎないという。加えてダビンチは、「ロボットアームの手術用鉗子先端部を細かく動かすことができるうえ、手ぶれを自動的に補正する機能もあるため、より精緻な手術操作が可能です」と飯塚助教は指摘。さらに、「これまでの症例はいずれも術後の経過が良好で、手術の成績は従来の方法に比べてダビンチのほうが良いという結果が出ています」とのことだ。
ダビンチ手術の熟達者・飯塚淳平助教。

「広報誌 Sincere4号より」