【プレスリリース】脳神経外科

学校法人 東京女子医科大学
 

パーキンソン病の集束超音波治療における
「両側治療の重い後遺症」を防ぐ新戦略を世界に提言

 
 
 世界で普及が進むパーキンソン病の集束超音波治療。しかし、両側を治療する場合には、歩行や姿勢、発話に関わる重い後遺症が課題となっています。2026年に発表された国際臨床試験では、両側治療を受けた40例中10例(25%)に、12か月後も中等度以上の有害事象が持続しました。
 この課題に対し、東京女子医科大学医学部脳神経外科学分野の堀澤士朗助教は、左右で同じ場所を治療せず、同じ運動回路上の異なる場所を組み合わせる「非対称両側治療」を提言しました。本学では2016年からこの戦略を実践しており、今回、その10年間の経験と考え方が『The Lancet Neurology』誌のCorrespondence(学術的提言)として掲載されました。
 
Point
 
1. 【世界が直面する安全性の課題】Dalviらの国際臨床試験では、両側集束超音波治療により運動症状が改善した一方、40例中10例(25%)で12か月後も中等度以上の有害事象が持続しました。
2. 【東京女子医科大学が10年間実践してきた方法】同じ運動回路を左右の異なる場所から治療。初期11例で症状が約74%改善し、その後の非対称両側治療56例でも新たな姿勢反射障害・歩行障害を経験していません。
3.【世界に提示した解決策】同じ運動回路への治療効果を維持しながら、他の神経回路の両側性損傷を避ける。この発想が両側集束超音波治療の安全性向上につながる可能性があります。
 
 
Ⅰ 研究の背景と経緯                                                                          
 パーキンソン病は、ふるえや動作の遅さ、筋肉のこわばりなどを生じる病気です。薬物治療だけでは
十分な改善が得られない場合、脳の運動回路の一部に働きかける手術が選択肢となります。集束超音波治療は、頭蓋骨を切開せず、超音波の熱で脳内の標的を治療する方法として普及が進んでいます。
 一方、同じ標的を左右両側で治療すると、目的とする回路だけでなく、周辺にある別の神経回路も両側で障害される可能性があります。本学は以前から、この問題を臨床で経験してきました。両側の淡蒼球を治療したジストニア患者20例では、症状の重症度スコアが平均約74%改善した一方、5例(25%)に薬物治療で改善しない姿勢反射障害・歩行障害が発生し、うち2例は頻回の転倒を伴う重症例でした。この結果は2021年に報告しています。

 
Ⅱ 研究の内容
 こうした重い後遺症を避けるため、本学では2016年から、片側の淡蒼球と反対側の淡蒼球視床路(PTT)という、解剖学的に異なる部位を組み合わせる非対称両側治療を実践してきました。両者は同じ運動回路上にあり、治療する場所が左右で異なっても、同じ運動回路に働きかけて運動症状を改善できます。
 重要なのは、脳の各部位には治療の目的となる回路だけでなく、姿勢や歩行など別の機能を支える回路も存在することです。左右で同じ場所を損傷すると、周辺の回路まで両側性に機能を失い、重い後遺症につながる可能性があります。これに対して、同じ運動回路を異なる場所から治療すれば、目的とする効果を保ちながら、周辺回路の両側性損傷を減らせると考えられます。
 本学は2019年、片側淡蒼球破壊術と反対側PTTを組み合わせたジストニア11例において、症状の重症度スコアが74.3%改善し、術後のパーキンソニズムを生じなかったことを報告しました。一方、両側淡蒼球破壊術20例では改善率が74.0%であり、症状改善が得られても重い姿勢反射障害・歩行障害が課題でした。これらは別の患者群の結果であり、治療効果の同等性を直接証明するものではありませんが、異なる標的の組み合わせでも良好な治療効果を得られることを示しています。現在までに本学はPTTを500例以上行い、非対称両側治療56例では新たな姿勢反射障害や歩行障害を経験していません。この方法は将来構想ではなく、日々の診療で実践している治療戦略です。
 これに対し、Dalviらが2026年7月に報告したパーキンソン病の前向き多施設共同試験では、54例が片側PTTを受け、そのうち40例が反対側も治療されました。両側治療3か月後、服薬していない状態での上下肢運動スコアは治療前から中央値32%改善しました。一方、両側治療後に22例(55%)で治療関連の有害事象が認められ、10例(25%)には12か月後も中等度以上の障害が持続しました。主な障害は発話・歩行・バランスに関するもので、1例には重度で持続的な発語不能が生じました。
 両研究は対象疾患や評価項目が異なるため、合併症の発生率を直接比較することはできません。ただし、本学の経験は、両側治療の安全性を考える際に、左右で標的を選び分けるという具体的な選択肢を示しています。
 
 
 Ⅲ  今後の展開
 本学が10年かけて培ってきた非対称両側治療は、世界が現在直面している両側集束超音波治療の安全性の課題に対する、有力な解決策となる可能性があります。治療効果を得るために左右で同じ場所を破壊する必要はありません。大切なのは、同じ運動回路の適切な場所を左右で選び分け、目的とする効果を維持しながら、重い後遺症につながる周辺回路の両側性損傷を避けることです。
 今後、さらに有効性と安全性が検証されれば、世界の両側集束超音波治療は、左右同じ標的を治療する方法から、同一回路上の異なる標的を組み合わせる方法へと移行する可能性があります。東京女子医科大学は、世界に先駆けて積み重ねてきた臨床経験を共有し、より安全な治療の普及に貢献していきます。
 


【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
堀澤 ⼠朗(ホリサワ シロウ)
東京⼥⼦医科⼤学 医学部 脳神経外科学分野 助教
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel&Fax:03-3353-8111
E-mail: horisawa.shiro@twmu.ac.jp
 
<報道担当>
東京女子医科大学 広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel:03-3353-8111 Fax:03-3353-6793
E-mail: kouhou.bm@twmu.ac.jp
 
【プレス情報】
1.掲載誌名︓The Lancet Neurology(Correspondence)
2.論⽂タイトル︓Staged bilateral focused ultrasound pallidothalamic tractotomy for Parkinson’s disease
3.著者名︓Shiro Horisawa*、Takaomi Taira(*責任著者)
4.DOIコード︓10.1016/S1474-4422(26)00362-5
5.論⽂のオンライン掲載⽇︓2026年10月15日