お知らせ

2017年03月30日 ヒトiPS細胞由来心筋組織移植を用いた新たな循環補助治療の可能性

ヒトiPS細胞由来チューブ状心筋組織が生体で脈圧を形成する
~心筋組織移植による新たな循環補助~

 

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 ヒトiPS細胞由来心筋組織の血管周囲への移植により、移植心筋の拍動に伴う脈圧形成に成功し、
 先天性心疾患をはじめとした心不全に対する補助循環治療開発の可能性を見出しました。

東京女子医科大学先端生命医科学研究所・同医学部循環器内科の松浦勝久准教授らの研究グループは、東京女子医科大学心臓血管外科との共同研究により、下大静脈周囲に移植したヒトiPS細胞由来心筋組織が、その拍動に伴い血管内に脈圧が生み出せることを見出し、心筋組織移植の循環補助への応用の可能性を示しました。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業「立体造形による機能的な生体組織製造技術の開発」における研究開発課題「細胞シート工学を基盤とした革新的立体臓器製造技術の開発」(研究開発代表者:清水達也)の一環で行われました。また、公益財団法人日本心臓血圧研究振興会の支援も受けており、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2017年3月30日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。
 
【研究の背景】


重症心不全に対する新たな医療として、ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞を用いた再生医療研究が世界的に進められています。心筋細胞移植の効果としては、その拍動に伴う循環への補助が期待されますが、心臓への移植による解析では、心臓自体が拍動していることから、移植心筋の物理的効果が必ずしも明らかではありませんでした。
拡張型心筋症や陳旧性心筋梗塞など、左心系の機能不全に伴う心不全だけでなく、右心系の機能不全に対しても補助循環の開発が期待されています。中でも先天性心疾患の一つである単心室症は、フォンタン手術により生命予後は改善していますが、手術後には、これまで心臓が担ってきたポンプ機能がなくなるため、特に肺高血圧を伴う症例では、静脈の鬱滞を来し、肝臓線維化、蛋白漏出性胃腸症や血栓症などの合併症が課題です。
研究グループは、東京女子医科大学発の細胞シート技術およびiPS細胞大量培養技術により、ヒト心筋組織開発を行い、心臓再生医療や疾患・創薬研究への応用を進めており、今回、ヒトiPS細胞由来心筋シートを、免疫不全ラット下大静脈にチューブ状に移植することで、移植した心筋組織の拍動が下大静脈内圧へ及ぼす効果について検討を行いました。
 
【研究成果の概要】


研究グループは、ヒトiPS細胞より分化誘導した心筋細胞を用いて心筋シートを作成し、免疫不全ラットの下大静脈を包むように計6枚移植しました。下大静脈周囲には、肉眼的および超音波を用いた観察でも拍動が観察され、組織学的にも500μmを超えるチューブ状心筋組織が構築されました(図1)。
移植心筋組織の遠位部と近位部を結紮することで下大静脈の基礎内圧を上昇させ、ラット鼠径静脈より挿入したカテーテルを用いて下大静脈内圧を測定すると、移植心筋組織の拍動に伴う血管内の内圧変化(脈圧)が観察されました(図2)。さらに、下大静脈の基礎内圧が上昇するに伴い移植心筋組織拍動による脈圧が増大することも確認されました(図2)。これは、生体の心臓に準じた特性(フランクスターリング則:負荷の増加に伴い心拍出量が増加する)をヒトiPS細胞由来心筋組織も有することを示すものです。
また、移植後のヒト心筋組織は、同期間培養した心筋組織に比して成熟度が高く、さらに時間依存性に成熟度が高くなることも明らかとなりました(図3)。これは、分化誘導直後は幼弱であったiPS細胞由来心筋組織が生体内で成熟し、機能性が向上することを示すものです。
 
 
 
 
【研究成果の意義と今後の展開】

本研究は、ヒトiPS細胞由来心筋組織移植を用いた新たな循環補助治療の可能性を示すものと考えます。1)人工弁付き人工血管周囲への移植方法、2)より厚い心筋組織構築、3)ペースメーカーによる移植心筋と生体心臓との電気的同期、などの課題を解決することにより、単心室症に対する新たな治療法に繋がることが期待されます。
また重症心不全における心臓へのiPS細胞由来心筋組織移植においても、不全心筋を補助して直接的に機能向上に貢献できることを示唆するものです。

 
【用語解説】

‣単心室症
単心室症とは、体循環と肺循環の両方を、機能的に一つの心室のみに依存する血行動態を有する疾患です。先天性心疾患は、新生児約100人に1人の割合で発症し、単心室症は先天性心疾患の約0.5~2%と言われています。
 
‣フォンタン手術
上大静脈と下大静脈を直接肺動脈に繋ぐ手術で、単心室など心室が一つしかない疾患に対して行われます。
 
‣心筋シート
心筋細胞等を温度応答性培養皿に播種し、一定期間培養後に温度降下処理にて回収される単層の心筋組織のことです。
 

【論文名、著者およびその所属】

論文名:
Tubular cardiac tissues derived from human induced pluripotent stem cells generate pulse pressure in vivo
 
掲載誌:
Scientific Reports
 
著者:
Hiroyoshi Seta1,2, Katsuhisa Matsuura2,3, Hidekazu Sekine2, Kenji Yamazaki1, Tatsuya Shimizu2
著者の所属
1. 東京女子医科大学心臓血管外科
2. 東京女子医科大学先端生命医科学研究所
3. 東京女子医科大学循環器内科
 
【問い合わせ先】


<研究に関すること>
東京女子医科大学先端生命医科学研究所
松浦勝久
TEL:03-3353-8112 内線 43213 FAX:03-3356-6041
Email: matsuura.katsuhisa”AT”twmu.ac.jp
 
<報道に関すること>
東京女子医科大学 広報室
TEL: 0303353-8112 内線41112  FAX: 03-5269-7326 内線41113
E-mail: kouhou.bm”AT”twmu.ac.jp
 
<AMED事業に関すること>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 産学連携部 医療機器研究課
TEL: 03-6870-2213
E-mail: miraiiryou”AT”amed.go.jp
 
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

2017年03月13日 平成28年度卒業式を挙行しました

 医学部第64回卒業証書授与式が3月11日(土)午後1時より、看護学部第15回卒業証書授与式が3月8日(水)午前11時より、弥生記念講堂において挙行され、卒業生父母をはじめ、理事および教職員、在学生が参列して卒業生の門出を祝いました。


 式終了後は、卒業生が保護者や在学生とともに卒業の歓びを分かち合う姿が見受けられました。
 女性医療人として、専門職として、そして誇り高き職業人として社会に貢献していただき、活躍されることを願っております。