お知らせ
2026年03月04日 【プレスリリース】一般民間人の健康・快適宇宙空間を実現する宇宙QOL向上を目指した研究を開始
早稲田大学
慶應義塾大学
東京理科大学
東京女子医科大学
慶應義塾大学
東京理科大学
東京女子医科大学
一般民間人の健康・快適宇宙空間を実現する宇宙QOL向上を目指した研究を開始
~JAXA・宇宙戦略基金「SX-CRANE」に私大で唯一の代表機関として採択決定~
| Point
● JAXAの「宇宙戦略基金:宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」」の採択を受け、国内の産官学9機関で、2030年以降に民間活動の拡大が期待される地球低軌道の宇宙空間を対象に、宇宙QOL向上を目指した有人宇宙滞在技術開発を推進します。
● 地上とは異なるECLSS※1(環境制御・生命維持システム)に支えられる宇宙空間において、十分な訓練を経ずに滞在する一般民間人がどう感じるのかの視点から、認知・感覚・生理反応に基づく人間中心のアプローチによりQOL向上を目指します。また、同空間における健康・快適性を維持する技術と環境条件に制約されない快適性を統合し、宇宙滞在における新しい宇宙QOL像の提示を目指します。 ● 地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのデータを一体的に統合した統合データ解析プラットフォームを構築し、人の生理・認知・行動反応を多角的に再現・評価できる、新しい研究基盤の確立を目指します。 |
学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、理事長:田中愛治)は、2026年2月6日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「宇宙戦略基金:宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」」に代表機関として採択されました。代表機関として採択された中では、私立大学で唯一の採択となります。
2030年以降、地球低軌道の宇宙空間において、民間活動の拡大が期待されており、そこには訓練された宇宙飛行士だけでなく、民間人も活動対象のスコープに入ることが予想されます。本課題の採択を受けて、学校法人早稲田大学は慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、学校法人東京女子医科大学、公立大学法人名古屋市立大学、国立大学法人大阪大学、有人宇宙システム株式会社、パナソニック株式会社、株式会社ジャムコの各連携機関とともに、宇宙QOL向上を目指した有人宇宙滞在技術開発を推進します。また、地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのデータを一体的に統合した、統合データ解析プラットフォームを構築し、宇宙と地上双方に価値を還元する新たな研究拠点の実現を目指します。
また、本課題の研究代表者が、別に研究代表を務めている教育・人材育成プログラム(文部科学省「宇宙人材育成事業」令和7年度採択「ECLSS環境における人間の快適性を支える製品・サービスデザイン人材育成プログラム」)と連携し、非宇宙分野からの人材育成、裾野拡大、社会受容の向上を推進します。

図1:人間中心の研究アプローチによる宇宙QOL研究開発
(1)採択事業について
■研究費の名称:JAXA 宇宙戦略基金 宇宙転用・新産業シーズ創出拠点「SX-CRANE」
■技術開発課題の名称:一般民間人の健康・快適宇宙生活を実現する宇宙QOL研究開発拠点
■代表機関名:学校法人早稲田大学
■研究代表者:早稲田大学 理工学術院 野中 朋美(のなか ともみ)
■連携機関(予定):慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、学校法人東京女子医科大学、
公立大学法人名古屋市立大学、国立大学法人大阪大学、有人宇宙システム株式会社、
パナソニック株式会社、株式会社ジャムコ
■支援予定期間:2026年4月~2034年3月(最長8年)
※当初契約期間は、契約日から最初のステージゲート評価が終了する日の属する年度末日まで。
現在、宇宙における有人活動は宇宙飛行士が担っており、ECLSS(エクルス:環境制御・生命維持システム)は、高度に選抜され長期訓練を受けた宇宙飛行士が生命維持を可能とすることを前提に、設計・開発されてきました。
その一方、一般民間人の宇宙旅行や商業宇宙ステーション構想の実現など、今後の民間活動の拡大が予測される地球低軌道の宇宙空間においては、健康維持に加え、快適に過ごせる環境の確保が不可欠となります。十分な訓練を受けずに宇宙空間に渡航する一般民間人にとって、快適性・QOLの向上や健康維持を支える製品・サービスは不可欠であり、今後、そのために必要な技術開発と研究拠点が必要となります。
その一方、一般民間人の宇宙旅行や商業宇宙ステーション構想の実現など、今後の民間活動の拡大が予測される地球低軌道の宇宙空間においては、健康維持に加え、快適に過ごせる環境の確保が不可欠となります。十分な訓練を受けずに宇宙空間に渡航する一般民間人にとって、快適性・QOLの向上や健康維持を支える製品・サービスは不可欠であり、今後、そのために必要な技術開発と研究拠点が必要となります。
(3)本研究開発内容と実施体制について
本研究開発は、「人がどう感じるのか」の視点から、認知・知覚・生理反応に基づく人間中心のアプローチを導入し、宇宙拠点での健康・快適・QOL体験を統合的に設計する世界初の挑戦となります。以下の9つのグループによる3つの研究グループ群で、具体的な本研究開発項目を推進します。
本研究開発は、「人がどう感じるのか」の視点から、認知・知覚・生理反応に基づく人間中心のアプローチを導入し、宇宙拠点での健康・快適・QOL体験を統合的に設計する世界初の挑戦となります。以下の9つのグループによる3つの研究グループ群で、具体的な本研究開発項目を推進します。

図2:本研究開発を推進する研究グループおよび研究グループ群
<システムデザイングループ群>
1.民間宇宙ビジネス・サービスデザインG:
宇宙旅行や居住における利用者の選好・評価・心理的要因を定量化し、指標・ガイドラインGが各グループと連携して開発する「宇宙QOL指標」と結びつけることで、新しいサービスやビジネスの設計とともに、行動経済学の知見を応用し、宇宙環境において望ましい行動変容を促すサービスデザインの構築を目指します。さらに、サービスレベルごとの費用対効果を検証し、社会実装可能なビジネスモデルの提示を目指します。
2.システムデザインG:
居住空間に提供するQOL基盤のデザイン、各グループが開発するQOLアイテムにおけるQOL基盤および外部システムとのインターフェース設計を担当します。また、単にものが動くだけでなく、地上や宇宙でどのような試験を実施して社会実装していくか、社会実装を実現する分野融合研究開発のマネジメントを担当します。
3.宇宙実証G:
各研究グループにより創出された技術アイテム群を統合し、実際の宇宙環境あるいは模擬環境において段階的に検証・実装を目指す際に、開発した技術を宇宙実証および実装計画立案につなぐ役割を担います。また、「きぼう」有償フライト枠組みを活用し、技術成果を軌道上実証・社会実装に結びつけることを目指します。
<健康・QOL・快適グループ群>
4.快適・スポーツG:
運動・身体活動を通じた健康維持・ストレス軽減技術の開発を目指します。健康・快適度を評価する指標として、宇宙滞在における清潔評価指標、QOL-Fitnessスコアの開発、また、開発した技術を実装した空気・空間清浄装置、宇宙トイレ・宇宙エアシャワー、宇宙eスポーツ・フィットネスサービスプログラム、宇宙ヨガ・リラクゼーションプログラムの開発を目指します。
5.人間工学・クロスモーダル・アートG:
人間の感覚機能や多感覚の統合(クロスモーダル)にかかる特性を活用し、XR(クロスリアリティ)技術を用いた宇宙酔いの訓練対策プログラムや、宇宙での狭隘な住空間におけるアートの視座を取り入れたリラクゼーションの試みなどを通して、快適な宇宙旅行のUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザインを目指します。
6.健康・医学G:
民間人の宇宙滞在における健康維持を目的に、宇宙環境を模擬した細胞/組織培養実験から一般民間人を対象とした閉鎖環境下での研究まで、包括的に展開できる研究開発プラットフォームを構築しつつ、階層的に宇宙環境の影響を解明し、その改善策の創出を目指します。
<基盤技術グループ群>
7.統合実験プラットフォームG:
AI技術を駆使し、人の生理・心理状態を仮想的に再現する「生理・心理デジタルツイン」、民間宇宙ステーションや宇宙ホテルを模擬する「ヴァーチャルQOL空間」を統合した、次世代の「仮想実験環境」の開発を目指します。
8.解析・デバイスG:
外的環境(温度・湿度・O2/CO2・宇宙放射線など)と内的環境(体温・心拍・脳波・ホルモンなど生体データ)の両面を網羅的に計測・解析し、軽微な体調変化を早期検知して、健康リスクを未然に防ぐこと、また、微小重力や宇宙特有の制約条件に適応した計測技術・解析モデルの開発を目指します。
9.指標・ガイドラインG:
健康・快適性・QOLの評価指標と標準化ガイドラインを設計・検証・規格化を目指します。宇宙飛行士の健康・心理モニタリング、閉鎖環境知見、航空宇宙医学、国際機関文書を統合し、サービスレベル別に実装可能な枠組みの提示を目指します。
これらの研究開発内容は、「快適・スポーツ」、「人間工学・クロスモーダル・アート」、「健康・医学」を核とした人間中心の研究アプローチで行い、それらを統合・実証する「システムデザイン技術」、「サービス・システムデザイン」、「宇宙実証」等の基盤技術を柱として開発を進めることで、単なる要素技術の寄せ集めではなく、システムアーキテクチャ設計に基づく「しくみのデザイン」によって、宇宙拠点と地球における生理・認知・行動データを統合的に活用する新たな有人宇宙滞在技術の創出を目指すことができます。このことにより、「宇宙QOL基盤」と「宇宙QOLアイテム群」の開発につなげ、民間宇宙ステーションや宇宙ホテルの事業者が構築する居住モジュール内部の体験空間に導入される独立・分散型の要素技術を、宇宙QOL基盤上に製品・サービスのアイテム群として供給することを目指します。

図3:宇宙QOL研究開発の成果となるQOLアイテム群の一例
また、地球での実験データ、宇宙拠点での実証データ、ヴァーチャル環境でのシミュレーションデータを一体的に統合し、AI解析によって知見を抽出する統合データ解析プラットフォームの構築も目指します。これにより、現実環境と仮想環境を横断した新しい研究基盤を確立し、人の生理・認知・行動反応を多角的に再現・評価することを目指します。
(4)研究者のコメント
宇宙空間における民間活動の拡大に向けて、これまでの「生命維持」を前提とした技術から、「一般民間人が快適に過ごすための環境と体験」を設計する新たな段階へと移行しています。
早稲田大学は、システム工学および人間中心設計の知見を基盤として、人の認知・感覚・生理反応を統合的に捉え、宇宙における健康・快適・生活の質(QOL)を科学的に設計する研究に取り組んできました。本研究では、これまで宇宙飛行士を前提として構築されてきたECLSSを、「人がどう感じ、どのように快適に過ごすか」という人間中心の視点から、宇宙QOLを科学的に設計し、宇宙空間における快適性を拡張することを目指します。
日本は、環境制御技術、健康管理技術、精緻なセンシング・解析技術、そしてきめ細やかなサービス設計に代表される高度なサービス産業において、世界的に高い競争力を有しています。これらの非宇宙分野で培われた技術と知見を宇宙分野へ体系的に接続し、人間中心の宇宙生活設計という新たな研究領域を切り拓く挑戦です。そのため、医学、工学、人間工学、スポーツ科学、宇宙実証、システム工学、行動経済学・経営工学・サービス工学、産業技術を横断する、国内でも類を見ない大規模かつ統合的な研究体制のもとで本研究を推進します。大学、研究機関、企業がそれぞれの強みを結集した圧倒的な研究体制により、基礎研究から宇宙実証、社会実装までを一体的に推進できる点が大きな特徴です。
早稲田大学は、本研究開発拠点の代表機関として、日本の強みを結集した宇宙QOL・ECLSS研究の国際的な中核研究拠点を形成し、宇宙における人間中心の快適設計を世界に先駆けて実現を目指します。そして、宇宙で培われた技術と知見を地上社会へ還元することで、都市環境、建築、サービス産業など幅広い分野の革新にも貢献し、宇宙と地上の双方に新たな価値を創出してまいります。
(5)用語解説
※1 ECLSS(エクルス:Environmental Control and Life Support System/環境制御・生命維持システム)
宇宙船や宇宙ステーションなどの閉鎖環境において、人が安全に生活するために必要な酸素の供給、水の再生、二酸化炭素の除去、温度・湿度・気圧の調整などを行い、居住環境を維持する基盤システムです。
宇宙空間における民間活動の拡大に向けて、これまでの「生命維持」を前提とした技術から、「一般民間人が快適に過ごすための環境と体験」を設計する新たな段階へと移行しています。
早稲田大学は、システム工学および人間中心設計の知見を基盤として、人の認知・感覚・生理反応を統合的に捉え、宇宙における健康・快適・生活の質(QOL)を科学的に設計する研究に取り組んできました。本研究では、これまで宇宙飛行士を前提として構築されてきたECLSSを、「人がどう感じ、どのように快適に過ごすか」という人間中心の視点から、宇宙QOLを科学的に設計し、宇宙空間における快適性を拡張することを目指します。
日本は、環境制御技術、健康管理技術、精緻なセンシング・解析技術、そしてきめ細やかなサービス設計に代表される高度なサービス産業において、世界的に高い競争力を有しています。これらの非宇宙分野で培われた技術と知見を宇宙分野へ体系的に接続し、人間中心の宇宙生活設計という新たな研究領域を切り拓く挑戦です。そのため、医学、工学、人間工学、スポーツ科学、宇宙実証、システム工学、行動経済学・経営工学・サービス工学、産業技術を横断する、国内でも類を見ない大規模かつ統合的な研究体制のもとで本研究を推進します。大学、研究機関、企業がそれぞれの強みを結集した圧倒的な研究体制により、基礎研究から宇宙実証、社会実装までを一体的に推進できる点が大きな特徴です。
早稲田大学は、本研究開発拠点の代表機関として、日本の強みを結集した宇宙QOL・ECLSS研究の国際的な中核研究拠点を形成し、宇宙における人間中心の快適設計を世界に先駆けて実現を目指します。そして、宇宙で培われた技術と知見を地上社会へ還元することで、都市環境、建築、サービス産業など幅広い分野の革新にも貢献し、宇宙と地上の双方に新たな価値を創出してまいります。
(5)用語解説
※1 ECLSS(エクルス:Environmental Control and Life Support System/環境制御・生命維持システム)
宇宙船や宇宙ステーションなどの閉鎖環境において、人が安全に生活するために必要な酸素の供給、水の再生、二酸化炭素の除去、温度・湿度・気圧の調整などを行い、居住環境を維持する基盤システムです。
【研究内容に関するお問い合わせ先】
早稲田大学理工学術院 教授 野中 朋美
Tel:03-5843-9546 E-mail:nonaka@waseda.jp
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 白坂 成功
Tel:045-564-2581 E-mail: shirasaka@keio.jp
東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授 木村 真一
Tel:04-7122-9546 E-mail:skimura@rs.tus.ac.jp
東京女子医科大学先端生命医科学研究所 教授 清水 達也
Tel:03-3353-8111 E-mail:shimizu.tatsuya@twmu.ac.jp
【本報道に関するお問い合わせ先】
早稲田大学 広報室
Tel:03-3202-5454 E-mail:koho@list.waseda.jp
慶應義塾 広報室
Tel:03-5427-1541 E-mail:m-pr@adst.keio.ac.jp
東京理科大学 経営企画部 広報課
Tel:03-5228-8107 E-mail:koho@admin.tus.ac.jp
東京女子医科大学 広報課
Tel:03-3357-4804 E-mail:kouhou.bm@twmu.ac.jp
早稲田大学理工学術院 教授 野中 朋美
Tel:03-5843-9546 E-mail:nonaka@waseda.jp
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 白坂 成功
Tel:045-564-2581 E-mail: shirasaka@keio.jp
東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授 木村 真一
Tel:04-7122-9546 E-mail:skimura@rs.tus.ac.jp
東京女子医科大学先端生命医科学研究所 教授 清水 達也
Tel:03-3353-8111 E-mail:shimizu.tatsuya@twmu.ac.jp
【本報道に関するお問い合わせ先】
早稲田大学 広報室
Tel:03-3202-5454 E-mail:koho@list.waseda.jp
慶應義塾 広報室
Tel:03-5427-1541 E-mail:m-pr@adst.keio.ac.jp
東京理科大学 経営企画部 広報課
Tel:03-5228-8107 E-mail:koho@admin.tus.ac.jp
東京女子医科大学 広報課
Tel:03-3357-4804 E-mail:kouhou.bm@twmu.ac.jp
2026年03月02日 【プレスリリース】網膜の血管地図を再現する数理モデル-目の病気の理解を前へ-
九州大学
東京女子医科大学
東京女子医科大学
網膜の血管地図を再現する数理モデル
-目の病気の理解を前へ-
| Point
① ヒト網膜には、中心窩*1を取り囲む中心窩無血管域(FAZ*2)など、臨床的に重要な特徴構造があるが、霊長類での実験的制約から形成メカニズムの理解が遅れている。
② 血管新生(VEGF*3勾配に従う頂端細胞*4運動)と、血管の足場となる網膜アストロサイト分布*5の時間発展を結合したモデルにより、ヒト網膜に特徴的な複数の血管パターンを同時に再現した。 ③ 本モデルは、未熟児網膜症(ROP)など網膜疾患に見られる異常血管パターン形成の理解・仮説検証にも応用できる可能性がある。 |
【概要】
ヒト網膜には黄斑*6・中心窩があり、その中心には血管が存在しない領域である中心窩無血管域(FAZ)が形成されます。FAZの形状や周囲血管の配列は視機能や疾患とも関わりますが、霊長類網膜の実験的アプローチが難しいため、ヒト特有の血管構造がどのように形成されるかは十分に解明されていません。
九州大学と東京女子医科大学の共同研究グループは、血管新生と網膜アストロサイトの分布拡張を結合した数理モデルにより、FAZを含むヒト網膜に特徴的な血管パターン形成過程を説明できることを示しました。
九州大学大学院医学系学府系統解剖学分野の吉村公太朗大学院生(研究当時)と同大学院医学研究院系統解剖学分野の三浦岳教授、東京女子医科大学眼科の飯田知弘教授と丸子一朗准教授の共同研究にて、光干渉断層血管撮影(OCTA*7)画像解析と数理モデル構築を行いました。研究グループは、血管先端の細胞がランダムウォークと化学走化性により移動し、その軌跡に血管が形成されるという仮定に基づき、本モデルを構築しました。さらに、血管形成の足場となる網膜アストロサイトが時間とともに拡張し、中心窩近傍では阻害因子の存在により網膜アストロサイトの分布が制限される、という仮定を導入しました。
この結合モデルは、視神経円板(OD*8)から放射状に拡がる血管、上下の耳側アーケード血管*9、FAZ、FAZへ向かう求心的走行、FAZ耳側で上下からかみ合うように並ぶ血管構造など、ヒト網膜で観察される複数の特徴を同時に再現しました。特に、アストロサイト分布の“拡張のタイミング”がFAZ周囲パターン形成に重要であることが示唆され、疾患(未熟児網膜症など)における異常パターン形成の理解・検証に利用できる可能性があります。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Translational Vision Science & Technology』(TVST)に2026年3月2日(月)午後10時30分(日本時間)に掲載されます。
本研究グループからひとこと:
実験で追うことが難しいヒト網膜の発生過程を、数理モデルで“ビデオを再生する”ように検討できる枠組みを目指しました。アストロサイトの拡がり方が血管の“道筋”を規定するという見方は、疾患の異常パターン理解にもつながると考えます。
網膜血管発生はこれまで主にマウスを用いて研究され、網膜アストロサイトがODから網膜内へ先行して拡がり、その後に内皮細胞がVEGF勾配に沿って進展して血管網を形成する、という枠組みが明らかにされてきました。一方で、ヒト網膜には黄斑と中心窩が存在し、その中心には血管が存在しない中心窩無血管域(FAZ)が形成されるなど、マウスには見られない特徴的な構造があります。FAZの形状やその周囲の血管配列は視機能や病態とも深く関わると考えられますが、霊長類網膜の発生過程を実験的に追跡することには制約が大きく、ヒト特有の血管パターンがどのように生じるのかは十分に解明されていません。
近年、光干渉断層血管撮影(OCTA)の発展により、従来法では捉えにくかった毛細血管を含む網膜血管構造を非侵襲的に高解像度で観察できるようになりました。これにより、観察されたパターンを定量化し、それと整合する形成メカニズムを数理モデル側から検証することが現実的になってきました。しかし、これまでに提案されてきた血管新生の数理モデルは腫瘍血管などを対象とした枠組みが中心であり、ヒト網膜発生、とりわけFAZ周囲の特徴的構造を説明するモデルは確立していませんでした。そこで本研究では、ヒト網膜血管の形成過程、特にFAZ周囲のパターンがどのように立ち上がるのかを、OCTAによる観察像と照合しながら数理的に検討することを目的としました。
近年、光干渉断層血管撮影(OCTA)の発展により、従来法では捉えにくかった毛細血管を含む網膜血管構造を非侵襲的に高解像度で観察できるようになりました。これにより、観察されたパターンを定量化し、それと整合する形成メカニズムを数理モデル側から検証することが現実的になってきました。しかし、これまでに提案されてきた血管新生の数理モデルは腫瘍血管などを対象とした枠組みが中心であり、ヒト網膜発生、とりわけFAZ周囲の特徴的構造を説明するモデルは確立していませんでした。そこで本研究では、ヒト網膜血管の形成過程、特にFAZ周囲のパターンがどのように立ち上がるのかを、OCTAによる観察像と照合しながら数理的に検討することを目的としました。
【研究の内容と成果】
本研究ではまず、FAZ形成に関与し得る要因として想定される四つの仮説を検証しました。すなわち、中心窩から内皮阻害因子が分泌される仮説、中心窩で内皮誘引因子が欠損する仮説、組織変形に伴って血管が中心窩から引き離される仮説、そして中心窩への進入が単純に遮断される仮説です。これらを、頂端細胞の運動に基づく血管新生モデルの枠組みの中で実装し比較したところ、FAZを避ける現象そのものは生じても、ヒト網膜に特徴的な「FAZへ向かう求心的走行」や「FAZ耳側で上下からかみ合うように配列する構造」などを十分に再現できませんでした。
次に、血管新生の過程に網膜アストロサイトの効果を明示的に組み込みました。数理モデルでは、血管先端である内皮頂端細胞がランダムウォークと化学走化性により移動し、その軌跡に血管が形成されると仮定しました。化学走化性因子としてはVEGFを想定し、低酸素ほどVEGF発現が高いという関係を踏まえて、計算では酸素勾配を代替指標として用いました。さらに、網膜アストロサイトが時間とともに網膜内へ拡張し、その分布域が血管形成の足場となって、頂端細胞は網膜アストロサイトが存在する領域でのみ進める、という仮定を導入しました。加えて、発生中の中心窩領域に網膜アストロサイトが分布しにくいという観察事実を反映させるため、中心窩近傍に網膜アストロサイト拡張を抑制する阻害因子の分布を仮定しました。
このように血管新生と網膜アストロサイト動態を結合させた数理モデルは、ODから放射状に拡がる血管構造、上下の耳側アーケード血管、FAZ構造、FAZへ向かう求心的走行、そしてFAZ耳側で上下から対面し境界が形成されるような配列など、ヒト網膜に特徴的な複数の構造を同時に再現しました。特に、網膜アストロサイト分布を時間的に固定してしまうとFAZ周囲の特徴が弱まることから、網膜アストロサイトの「存在」だけではなく「拡張のタイミング」を含む動態そのものがパターン形成に本質的であることが示唆されました。
【今後の展開】
本研究で示した枠組みは、生体内で直接観察することが難しいヒト網膜血管の発生過程を、数理モデル上で時間発展として提示できる点に強みがあります。したがって、未熟児網膜症をはじめとする疾患で見られる異常血管パターンについて、酸素環境や分枝条件、網膜アストロサイト動態の遅れや変調といった仮説を、計算機上で系統的に検証するための基盤として応用できる可能性があります。将来的には、血流に伴うリモデリングや血管径の階層性、網膜外からの酸素供給など、現実の要素をモデルへ段階的に組み込み、再現性と予測力を高めることが重要です。また、OCTA画像から推定される特徴量とモデルパラメータを接続することで、画像に基づく「解釈可能な」メカニズム推定へ展開できれば、発生異常や疾患病態の理解に資する枠組みへ発展し得ると考えられます。
【参考図】
本研究ではまず、FAZ形成に関与し得る要因として想定される四つの仮説を検証しました。すなわち、中心窩から内皮阻害因子が分泌される仮説、中心窩で内皮誘引因子が欠損する仮説、組織変形に伴って血管が中心窩から引き離される仮説、そして中心窩への進入が単純に遮断される仮説です。これらを、頂端細胞の運動に基づく血管新生モデルの枠組みの中で実装し比較したところ、FAZを避ける現象そのものは生じても、ヒト網膜に特徴的な「FAZへ向かう求心的走行」や「FAZ耳側で上下からかみ合うように配列する構造」などを十分に再現できませんでした。
次に、血管新生の過程に網膜アストロサイトの効果を明示的に組み込みました。数理モデルでは、血管先端である内皮頂端細胞がランダムウォークと化学走化性により移動し、その軌跡に血管が形成されると仮定しました。化学走化性因子としてはVEGFを想定し、低酸素ほどVEGF発現が高いという関係を踏まえて、計算では酸素勾配を代替指標として用いました。さらに、網膜アストロサイトが時間とともに網膜内へ拡張し、その分布域が血管形成の足場となって、頂端細胞は網膜アストロサイトが存在する領域でのみ進める、という仮定を導入しました。加えて、発生中の中心窩領域に網膜アストロサイトが分布しにくいという観察事実を反映させるため、中心窩近傍に網膜アストロサイト拡張を抑制する阻害因子の分布を仮定しました。
このように血管新生と網膜アストロサイト動態を結合させた数理モデルは、ODから放射状に拡がる血管構造、上下の耳側アーケード血管、FAZ構造、FAZへ向かう求心的走行、そしてFAZ耳側で上下から対面し境界が形成されるような配列など、ヒト網膜に特徴的な複数の構造を同時に再現しました。特に、網膜アストロサイト分布を時間的に固定してしまうとFAZ周囲の特徴が弱まることから、網膜アストロサイトの「存在」だけではなく「拡張のタイミング」を含む動態そのものがパターン形成に本質的であることが示唆されました。
【今後の展開】
本研究で示した枠組みは、生体内で直接観察することが難しいヒト網膜血管の発生過程を、数理モデル上で時間発展として提示できる点に強みがあります。したがって、未熟児網膜症をはじめとする疾患で見られる異常血管パターンについて、酸素環境や分枝条件、網膜アストロサイト動態の遅れや変調といった仮説を、計算機上で系統的に検証するための基盤として応用できる可能性があります。将来的には、血流に伴うリモデリングや血管径の階層性、網膜外からの酸素供給など、現実の要素をモデルへ段階的に組み込み、再現性と予測力を高めることが重要です。また、OCTA画像から推定される特徴量とモデルパラメータを接続することで、画像に基づく「解釈可能な」メカニズム推定へ展開できれば、発生異常や疾患病態の理解に資する枠組みへ発展し得ると考えられます。
【参考図】

図1 数理モデル模式図
血管伸長に先行して網膜アストロサイト(緑楕円)が拡がり、これを足場として頂端細胞(Tip cell)が運動した経路上に血管構造(赤楕円)が形成されると仮定した。この頂端細胞の運動は、血管から供給される酸素によって決定されるVEGF分布の勾配に誘引されると仮定した。

図2 OCTA画像と数理モデル結果図の比較
血管伸長に先行して網膜アストロサイト(緑楕円)が拡がり、これを足場として頂端細胞(Tip cell)が運動した経路上に血管構造(赤楕円)が形成されると仮定した。この頂端細胞の運動は、血管から供給される酸素によって決定されるVEGF分布の勾配に誘引されると仮定した。

図2 OCTA画像と数理モデル結果図の比較
(a): OCTA画像。(b): 数理モデル結果図。研究グループが構築した数理モデルは、① ODから放射状に拡がる血管構造、② 上下の耳側アーケード血管、③FAZ構造、④ FAZへ向かう求心的走行、⑤ FAZ耳側で上下から対面し境界が形成されるような配列といった複数の構造的特徴を再現した。
【用語解説】
(*1) 中心窩(ちゅうしんか):視野の中心に該当する網膜領域に存在する、網膜の層構造が薄くなっている領域。
(*2) 中心窩無血管域(FAZ):中心窩の周囲に形成される、血管が存在しない領域。
(*3) 血管内皮増殖因子(VEGF):低酸素環境で発現が増加し、血管新生を促進する因子。
(*4) 頂端細胞(Tip cell):血管新生の先端で伸長を先導する内皮細胞。周囲の環境(化学走化性など)に応答して移動し、血管の伸長方向を決める。
(*5) 網膜アストロサイト:神経系のグリア細胞。発生期網膜では血管伸長の足場提供や因子分泌などを通して血管形成を支える役割が示唆されている。
(*6) 黄斑:明所での視力や色覚を担う錐体細胞が高密度に存在する網膜の中心領域。
(*7) 光干渉断層血管撮影(OCTA):光干渉断層計(OCT)を応用し網膜血管など眼底の血管に特化した撮像法。OCT信号の時間変化から血流を推定し、網膜血管を非侵襲的に可視化する。
(*8) 視神経円板(OD):視神経乳頭(ONH)とも呼ばれる、視神経繊維が網膜から脳へつながる際の“出口”となっている網膜上の構造。網膜内の動静脈の“出入口”でもあり、ヒトではやや鼻側に存在する。
(*9) 耳側アーケード血管:黄斑の上下を取り囲むようにODから弓なりに伸びる血管構造。
【謝辞】
本研究では、植村明嘉氏(名古屋市立大学)に有益な助言や議論をしていただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。
【論文情報】
掲載誌:Translational Vision Science & Technology
タイトル:Mathematical modeling of human retinal vascular pattern around the foveal avascular zone
著者名:Kotaro Yoshimura, Kei Sugihara, Ichiro Maruko, Tomohiro Iida, Takashi Miura
DOI:10.1167/tvst.15.3.1
(*1) 中心窩(ちゅうしんか):視野の中心に該当する網膜領域に存在する、網膜の層構造が薄くなっている領域。
(*2) 中心窩無血管域(FAZ):中心窩の周囲に形成される、血管が存在しない領域。
(*3) 血管内皮増殖因子(VEGF):低酸素環境で発現が増加し、血管新生を促進する因子。
(*4) 頂端細胞(Tip cell):血管新生の先端で伸長を先導する内皮細胞。周囲の環境(化学走化性など)に応答して移動し、血管の伸長方向を決める。
(*5) 網膜アストロサイト:神経系のグリア細胞。発生期網膜では血管伸長の足場提供や因子分泌などを通して血管形成を支える役割が示唆されている。
(*6) 黄斑:明所での視力や色覚を担う錐体細胞が高密度に存在する網膜の中心領域。
(*7) 光干渉断層血管撮影(OCTA):光干渉断層計(OCT)を応用し網膜血管など眼底の血管に特化した撮像法。OCT信号の時間変化から血流を推定し、網膜血管を非侵襲的に可視化する。
(*8) 視神経円板(OD):視神経乳頭(ONH)とも呼ばれる、視神経繊維が網膜から脳へつながる際の“出口”となっている網膜上の構造。網膜内の動静脈の“出入口”でもあり、ヒトではやや鼻側に存在する。
(*9) 耳側アーケード血管:黄斑の上下を取り囲むようにODから弓なりに伸びる血管構造。
【謝辞】
本研究では、植村明嘉氏(名古屋市立大学)に有益な助言や議論をしていただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。
【論文情報】
掲載誌:Translational Vision Science & Technology
タイトル:Mathematical modeling of human retinal vascular pattern around the foveal avascular zone
著者名:Kotaro Yoshimura, Kei Sugihara, Ichiro Maruko, Tomohiro Iida, Takashi Miura
DOI:10.1167/tvst.15.3.1
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