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2021年07月02日研究成果神経生理学分野
FoxG1 因子は自閉スペクトラム症の生後発症臨界期を司る抑制回路を制御する
 
学校法人 東京女子医科大学
 
Point
自閉スペクトラム症の発症を制御する生後臨界期および抑制回路機構を明らかにしました。
1. 遺伝子重複およびハプロ不全により発症する自閉症FOXG1症候群のモデル動物群を新たに樹立し、自閉症様の皮質回路機構や社会性行動異常などを確認しました。
2. 生後2週目が発症の臨界期であり、この時期の正常なFoxG1制御および回路興奮抑制バランスによって皮質回路や社会性行動が形成されることを明らかにしました。
3. 自閉症モデルマウスでは、発症の臨界期に抑制系へと介入することで自閉症様表現型を治療回復すること、また逆に悪化も可能であることを示しました。

 
Ⅰ 研究の背景と経緯
今回の研究成果は、2021年6月18日18時(日本時間)にオンラインジャーナルNature Communicationsに掲載された。自閉スペクトラム症は50-100人に1人の子供に発症するといわれており、発症メカニズムの解明は早期診断、予防や療育を見据えた上でも社会的に急務である。ところがこれまで、発症を左右するような発達期はいつなのか、どのような回路機構により発症するのかは明らかにされていなかった。
 
Ⅱ 研究の内容
本研究で着目したFOXG1因子は、特発性自閉スペクトラム患者のゲノムやiPS細胞における制御異常が報告されいる。FOXG1変異によるコピー数の増加(遺伝子重複)・減少(ハプロ不全)のいずれの場合も自閉スペクトラムFOXG1症候群を発症することが近年明らかになり、国際FOXG1研究機構(www.foxg1research.org)や国内家族会の尽力により本症候群の発症機構が注目されている。そこで、時期および脳回路特異的にFoxG1因子を操作したモデルマウスを新たに開発し、まずはマウスにおいてもヒト同様にFoxG1増加・減少いずれのケースも自閉症様表現型である社会性行動の異常や、患者と同様の脳波異常が現れることを解明した。樹立したモデルマウス群の発達期を解析することによって、生後離乳前に自閉スペクトラム発症を左右する臨界期があり、この時期にみられる抑制回路の減弱によって発症に至ることを明らかにした。実際、自閉スペクトラムモデルマウスの抑制系をさらに弱めると症状が悪化し、抑制系を強めると症状が回復し治療効果が現れることを見出した。
 
Ⅲ 今後の展開
本研究では、新たに自閉スペクトラム症モデルと治療モデルを樹立することに成功し、また将来の自閉スペクトラム症治療に向けての適切なタイミングおよび抑制回路機構を新たに提案することができた。今後は、自閉スペクトラム発症の臨界期機構の詳細を明らかにする基礎研究に鋭意尽力し、医療シーズ提案に繋げたい。FOXG1症候群の社会への認知がより広がることで、我が国におけるサポート体制がより充実することを期待している。
 
【プレス情報】
1.掲載誌名 
Nature Communications
2.論文タイトル 
FoxG1 regulates the formation of cortical GABAergic circuit during an early postnatal critical period resulting in autism spectrum disorder-like phenotypes
3.著者名(*はcorresponding author、アンダーラインは本学所属の著者)
Goichi MiyoshiYoshifumi Ueta, Akiyo Natsubori, Kou HiragaHironobu OsakiYuki Yagasaki, Yusuke Kishi, Yuchio Yanagawa, Gord Fishell, Robert P. Machold and Mariko Miyata
(和名)三好悟一*植田禎史、夏堀晃世、平賀孔尾崎弘展矢ケ崎有希、岸雄介、柳川右千夫、ゴード・フィッシェル、ロブ・マッコルド、宮田麻理子         
4.DOIコード
   10.1038/s41467-021-23987-z. 
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo)
2021年6月18日 日本時間 18時

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