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2021年01月25日母親の偉大さと生命の尊さを実感
東京女子医科大学看護学部の学生は、3年次に母性看護学実習を行う。
出産に立ち会い、母親と赤ちゃんを看護する基礎的な技術を養うとともに、女性のさまざまなライフステージにおける母性看護の役割を理解するきっかけとなるのがこの実習である。


■ ビデオ学習と演習で実習に備える
 2018年10月中旬から12月初旬にかけて、看護学部の学生が4つのグループに分かれ、それぞれ10日間の日程で東京女子医科大学病院をはじめ東医療センター、八千代医療センター、至誠会第二病院を舞台に母性看護学実習を行った。
 母性看護は妊婦、産婦、出産した褥婦、そして新生児が対象となるが、女子医大の母性看護学ではそうした母子(児)の看護だけでなく、ウーマンズヘルスの視点から女性の健康をとらえ、思春期や更年期のヘルスケア、ライフステージにおけるホルモンの変化、世界の母子保健など幅広い教育を行っているのが特徴だ。
 母性看護学実習は、妊・産・褥婦および新生児それぞれの特性を理解して看護を実践する基礎的能力を養うとともに、そうした女性のさまざまなライフステージにおける健康支援に、母性看護がどのように関わっていけばよいかを理解することに主眼が置かれている。
 では、11月12日から実習を行ったグループ(22人)の動きを追ってみよう。実習初日、学生たちは学内の実習室で終日、ビデオ学習と技術演習に取り組んだ。


 午前はまず、「妊娠末期の健康診査」と「母乳の出る仕組み」をテーマとしたビデオを見ながら学習。そのあと3つの班に分かれ、それぞれ妊・産・褥婦および新生児に必要な基本的看護技術の理解・実施を目標とした演習にチャレンジした。
 具体的には、「妊婦の腹部触診・計測」や「胎児心音聴取」、「褥婦の回復観察」、「新生児の抱き方と授乳方法」などである。
 午後は、「新生児の呼吸・循環・代謝」と「沐浴支援の手順・方法」についてのビデオを見たあと、「産痛緩和のための呼吸法・圧迫法」と「産褥体操」を体験。最後に、「新生児の沐浴」と「新生児のフィジカルアセスメント」演習を行った。

■ コミュニケーション能力不足を痛感
 技術演習は、精巧な人形やシミュレーターを駆使して行われる。新生児の人形はかわいらしく、学生たちはいとおしそうに4種類の抱き方や授乳のポジショニングを学び、沐浴演習では皆例外なく楽しそうに挑戦していたのがほほえましかった。また、妊婦のシミュレーターを用いた腹部触診で胎児の位置を確認したり、トラウベ(胎児心音聴診器)を使って胎児の心音を聴いたりした。
 こうした事前学習や演習を経て、翌日から3つの班はそれぞれ女子医大病院、東医療センター、至誠会第二病院に分散し、実際の母性看護学実習に臨んだ。実習は外来と病棟の双方で行い、外来では妊婦さんの看護、病棟では産婦さんの分娩に立ち会うとともに、出産した褥婦さんと産まれた赤ちゃんを受け持って看護を実践した。
 至誠会第二病院で実習を行った学生たちの声を拾ってみよう。H.O.さんは、「初めて分娩に立ち会い、赤ちゃんの産声を聞いたときはとても感動しました。その後の看護では、母子双方の視点からアプローチしなければならないことを学びました。特に、赤ちゃんがなぜ泣いているのか、そのサインを発見していくヒントを先輩ナースから教わったのが大きな収穫でした」といい、「私も赤ちゃんがほしくなりました」とはにかむ。
 N.Y.さんは、「すべてが初めての経験で、受け持ったお母さんと赤ちゃんの日々の変化をフォローしていくのが大変でした。自分の親もきっと苦労しながら私を育ててくれたのだろうと思い、感謝の気持ちがわいてきました」という真情を吐露し、「将来の社会復帰を考えながら、20代後半には私も子どもを産みたいですね」と語る。
 A.K.さんは、「赤ちゃんの沐浴は演習のときと違って泣いたり動いたりするので大変でした。でも、演習をしていなかったらもっと大変だったでしょうね」とその効果を指摘する一方、「妊婦さんも褥婦さんも基本的に病人ではなく健康な人ですから、その人の意見や性格に合わせて対応しなければなりません。それが難しくて、コミュニケーション能力の低さをつくづく感じました」と反省する。



■母性看護の守備範囲の広さを理解
 病院での7日間の実習を終えた学生たちは、その翌日、学内で「女性のライフステージを通した健康支援における母性看護の役割」をテーマにカンファレンスを行った。活発な意見が交わされたが、その中のいくつかを紹介しよう。
 「望まない妊娠を避けるための情報提供や、不妊治療を受けている人への精神的なサポートも母性看護の役割」、「家族の支援がなければ安定した育児環境は保てないと思いますが、私が受け持ったお母さんのダンナさんは仕事で海外へ行ってしまいました。そういうケースでのサポートはどうしたらよいかを考えさせら
れました」、「子どもを育てるには経済的な負担もかかってきますから、その覚悟と家族計画が大切です」、「外来で付き添った妊婦さんは自営業で、出産したらすぐに社会復帰したいといっていましたが、どんな仕事をしているのか、その内容まで把握するべきでした」
 さらに、「至誠会第二病院には、退院後も継続して母子を看護する“すくすく外来”というのがあり、母性看護の役割を担っていることを知りました」、「高齢出産のリスクなどを説明するのも看護師の役割ですね」、「子どもの虐待が起きたときの対応やその予防的ケアも母性看護と関わってくると思います」といった意見が聞かれた。
 学生たちを指導した竹内道子講師は、「実習を通してきちんと計画を立てながらケアしようという態度や責任感が養われるとともに、褥婦さんへの倫理的な配慮や尊厳の意識も培われ、わずか1週間で学生たちはグンと成長しました。
 また、出産に立ち会った学生から『母親の偉大さと生命の尊さに感動しました』といった言葉も聞かれ、自分の親子関係を振り返るチャンスにもなったようです」と総括してくれた。