呼吸器内科
九州大学病院
東京女子医科大学
東京女子医科大学
重症喘息の治療薬「テゼペルマブ」で約3分の1の患者が臨床的寛解を達成
―世界初の前向き多施設共同介入試験 (TERESA試験) ―
九州大学の岡本勇教授(大学院医学研究院呼吸器内科学分野)、東京女子医科大学の神尾敬子講師(内科学講座呼吸器内科学分野)らの研究グループは, コントロール不良な重症喘息患者を対象に, 生物学的製剤テゼペルマブ(商品名:テゼスパイア)による「臨床的寛解」の達成率を, 世界で初めて前向きに検証した医師主導多施設共同介入試験(TERESA試験)を実施しました.
その結果, テゼペルマブ投与52週後に34.6%の患者が臨床的寛解を達成しました.また, 生物学的製剤未使用であること, および血中好酸球数が高いことが, 臨床的寛解達成の独立した予測因子であることが明らかになりました.
本成果は, American Academy of Allergy, Asthma & Immunologyの機関誌であるThe Journal of Allergy and Clinical Immunologyに2026年5月20日にオンライン掲載されました.
全世界で推定3憶6,300万人が喘息に罹患しており, そのうち5~10%は吸入ステロイド薬などによる治療を行っても十分なコントロールが得られない重症喘息です. 近年, 重症喘息治療では, 増悪がなく, 症状が安定し, 経口ステロイド薬連用がなく, 呼吸機能が良好な状態を長期間維持する「臨床的寛解」の達成が新たな治療目標として注目されています. しかし, これまでの臨床的寛解に関する研究報告は, 後ろ向き解析や無作為化比較試験の事後解析に限られており, 生物学的製剤使用歴のある患者を含む実臨床を反映した前向き臨床研究は実施されていませんでした.
【研究内容】
TERESA試験(jRCTs071230026)は, 日本国内24施設で実施されたオープンラベル単群介入試験です.2023年6月から2024年1月までに登録された, コントロール不良な重症喘息患者107例(うち46.7%は生物学的製剤使用歴あり)を対象に, テゼペルマブ210mgを4週間ごとに52週間皮下投与し, 臨床的寛解達成率を前向きに評価しました.
【主な研究成果】
テゼペルマブ投与52週後, 34.6%(約3人に1人)の患者が臨床的寛解を達成しました.生物学的製剤未使用患者および血中好酸球数300 cells/μL以上の患者で, 臨床的寛解を達成しやすいことが示されました.一方、臨床的寛解に加え血中好酸球数かつ呼気一酸化窒素の炎症指標も正常化した「完全寛解」達成率は9.3%にとどまりました.この結果から, 症状や増悪の改善と, 血中好酸球を主体とした現在の炎症指標の正常化は必ずしも一致しない可能性が示唆されました.
テゼペルマブ投与52週後, 34.6%(約3人に1人)の患者が臨床的寛解を達成しました.生物学的製剤未使用患者および血中好酸球数300 cells/μL以上の患者で, 臨床的寛解を達成しやすいことが示されました.一方、臨床的寛解に加え血中好酸球数かつ呼気一酸化窒素の炎症指標も正常化した「完全寛解」達成率は9.3%にとどまりました.この結果から, 症状や増悪の改善と, 血中好酸球を主体とした現在の炎症指標の正常化は必ずしも一致しない可能性が示唆されました.
【用語解説】
生物学的製剤:特定の炎症性物質を標的とする抗体製剤
TERESA試験:Tezepelumab-induced Clinical Remission in Severe Asthma (TERESA) study
テゼペルマブ:上皮サイトカインTSLPに対するヒトモノクローナル抗体
オープンラベル単群介入試験:全参加者が公開された同じ薬剤の投与を受ける臨床試験
【研究参加施設】
九州大学病院, 東京女子医科大学病院, 慶應義塾大学病院, 国立病院機構東京病院, 昭和医科大学病院, 東海大学医学部付属病院, 国立病院機構福岡東医療センター, 国立病院機構沖縄病院, 鹿児島大学病院, 産業医科大学病院, 日本大学医学部附属板橋病院, 帝京大学医学部附属病院, 国立病院機構福岡病院, 長崎大学病院, 佐賀大学医学部附属病院, 名古屋大学医学部附属病院, 東京科学大学病院, 久留米大学病院, 福井大学医学部附属病院, 山口大学医学部附属病院, 北海道大学病院, 大阪大学医学部附属病院, 福岡青洲会病院, 国立国際医療センター
【謝辞】
本研究は, アストラゼネカ株式会社からの資金提供により実施しました.研究の実施にあたり, ご協力いただいた患者さんおよび研究協力者の皆様, 九州臨床研究支援センター(CReS九州)の皆様に深く感謝申し上げます.
【論文情報】
掲載誌:The Journal of Allergy and Clinical Immunology
論文名:One-Year Clinical Remission with Tezepelumab in Severe Asthma: TERESA Single-Arm Prospective Study
著者名:Keiko Kan-o*, Hiroko Watanabe, Kenji Chibana, Maho Suzukawa, Akihiko Tanaka, Katsunori Masaki, Shin Ohta, Hiroki Kabata, Koichiro Asano, Reiko Ito, Hiromasa Inoue, Takako Nakano, Hideki Kanda, Takafumi Yamashita, Yasushi Obase, Konomi Kobayashi, Naoya Sugimoto, Yoko Ito, Hiroaki Ogata, Koichi Takagi, Nobuharu Ohshima, Takashi Kinoshita, Hiroki Tashiro, Koichiro Takahashi, Keiji Oishi, Tsunahiko Hirano, Hideki Sakakibara, Konomi Sennari, Yukihiro Sugimoto, Takayuki Shiroyama, Susumu Fukahori, Tsuyoshi Oguma, Katsuyoshi Tomomatsu, Sho Shimada, Mitsuko Kondo, Tomohiro Akaba, Michihiro Yoshimi, Yuki Moriuchi, Mari Ujike, Miho Mitsui, Kaoruko Shimizu, Yuichiro Shindo, Seiko Takasawa, Keiko Wakahara, Tomoki Uno, Jun Miyata, Akane Ishida, Mayoko Tsuji, Akikazu Shimada, Isamu Okamoto.
DOI:10.1016/j.jaci.2026.05.006

| 研究者からひとこと:
TERESA試験の名称は, 治癒が難しい病気を抱える人々に寄り添い続けたマザー・テレサ (Mother Teresa)に由来し研究者が命名しました.喘息は「治らない病気」と考えられてきましたが, 生物学的製剤の登場により, 寛解や治癒を目指せる時代になりつつあります.
本研究では, テゼペルマブがどのような患者さんに対して特に高い効果を発揮するかを明らかにしました.一方で, 複数の生物学的製剤や経口ステロイド薬を使用しても寛解の達成が難しい患者さんが一定数存在することも示されました. こうした患者さんへの新たな治療法の開発に向けて, 治療効果を予測できる炎症指標の探索や、ゲノム(遺伝子)・エピゲノム(遺伝子の働きを調節する仕組み)解析を通じた病態の解明が, 今後の重要な課題と考えられます. 東京女子医科大学 神尾 敬子
|
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
東京女子医科大学内科学講座呼吸器内科学分野 講師 神尾敬子
〒162-8666 新宿区河田町 8-1
Tel:03-3353-8112(内線28892)
E-mail: kano.keiko@twmu.ac.jp
<報道に関すること>
九州大学病院 企画広報室
〒812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1
TEL:092-642-5205 FAX:092-642-5008
E-mail:ibskoho@jimu.kyushu-u.ac.jp
東京女子医科大学 広報課
〒162-8666 新宿区河田町 8-1
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総合医科学研究所
東京女子医科大学
再発性頚部内頚動脈攣縮症の原因遺伝子を発見!
― 新たな治療標的PTGISを同定 ―
| Point
1. 再発性頚部内頚動脈攣縮症は、冠動脈攣縮も合併する重篤な稀少疾患で、これまで有効な治療法がありませんでした。
2. 本疾患が常染色体潜性遺伝性疾患であることを、世界で初めて明らかにしました。 3. 血管拡張因子プロスタサイクリンの合成酵素をコードする PTGIS 遺伝子の両アリルに生じた機能喪失型変異が原因であることを突き止めました。これらの変異により血管内皮細胞でのプロスタサイクリン産生が障害され、動脈の異常攣縮が引き起こされます。本成果は、既存のプロスタサイクリン作動薬を含む新たな治療法開発の基盤となることが期待されます。 |
Ⅰ 研究の背景と経緯
再発性頚部内頚動脈攣縮症は、頭蓋外の頚部内頚動脈が攣縮することで、頭痛や片麻痺などの一過性脳虚血発作や脳梗塞を反復して生じる稀少疾患です。これまで世界でも少数の症例報告があるのみで、原因や治療法は明らかになっていませんでした。また、冠攣縮性狭心症を合併したり、片麻痺性片頭痛として誤って診断されてしまう例も報告されています。本疾患はこれまで遺伝性疾患として認識されていませんでしたが、家族性発症例を経験したことから、次世代シーケンシングを用いた網羅的遺伝子解析を実施し、原因遺伝子の同定を試みました。
本研究では、日本人の4つの患者家族を対象に5人の患者さんで遺伝子解析を行いました。いずれも頚部の内頚動脈に可逆性の血管攣縮を認め、頭痛や片麻痺などの神経症状を呈しました。2例の患者さんでは冠状動脈の攣縮も合併し、緊急のカテーテル処置が行われました(図1)。第1家系では兄妹で発症していたことから、ゲノム全域を対象とした網羅的遺伝子探索を実施し、残りの3家系で同定候補の検証を行いました。その結果、本疾患は常染色体潜性遺伝形式をとることが明らかとなり、血管平滑筋の弛緩因子であるプロスタサイクリンの合成酵素をコードするPTGIS遺伝子における両アリルの機能喪失型変異が原因であることを突き止めました。 ヒト頚動脈内皮細胞を用いた機能解析では、患者由来変異型PTGISを導入した細胞において、正常型PTGISを導入した細胞と比較してPTGISタンパク質の発現量が有意に低下していました(図2A)。さらに、この発現低下に伴い、プロスタサイクリン産生が著明に減少することが確認されました(図2B)。.png)
Ⅲ 今後の展開
プロスタサイクリンには血管拡張作用に加えて、血管平滑筋の増殖を抑制する機能が知られています。これまでの我々の研究では、PTGIS遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型変異が末梢性肺動脈狭窄症の重症化(Chida-Nagai A, Akagawa H, et al., JAHA, 2024)や、頭蓋内モヤモヤ血管症の発症に寄与することを明らかにしてきました(Nakamura A, Akagawa H, et al., Sci. Rep., 2024)。すなわち、ハプロ不全では動脈内腔の閉塞性病変が形成される一方、両アリルの機能喪失では動脈壁の異常攣縮が引き起こされることが示唆されます。これらの知見は、「プロスタサイクリン合成酵素欠乏症」という新たな疾患概念を提示するものであり、脳・循環器領域における多様な疾患群の病態に介入し得る有望な分子標的となる可能性を示しています。現在、Ptgis遺伝子をノックアウトしたラットモデルを作製し、病態メカニズムの詳細な解析を進めています。
Ⅳ 本研究のご協力について
本研究はJSPS科研費23K08576の助成を受けたものです。
【プレス情報】
1.掲載誌名:International Journal of Stroke(世界脳卒中協会の公式ジャーナル)
2.論文タイトル: Biallelic loss-of-function variants in PTGIS cause recurrent cervical internal carotid artery vasospasm
3.著者名: *Hiroyuki Akagawa, Hideaki Onda, Yosuke Moteki, Takatoshi Sorimachi,
Ryoichi Saito, Atsuko Nihira, Takahiro Hori, Akikazu Nakamura, Makiko Terada, Takamura Nagasaka, Ayako Chida-Nagai, Tomohiro Aoki, Yuichi Kubota
4.DOIコード:10.1177/17474930261449005
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo) :2026年5月15日
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
赤川浩之
東京女子医科大学 総合医科学研究所 副所長・准教授
(足立医療センター脳神経外科・兼務)
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel:03-3353-8111 Fax:03- 5269-7308
E-mail: akagawa.hiroyuki@twmu.ac.jp
<報道に関すること>
東京女子医科大学 広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel:03-3353-8111 Fax:03-3353-6793
E-mail: kouhou.bm@twmu.ac.jp
こちら
生化学
東京女子医科大学
大脳皮質樹状突起形成を制御する
新たなリン酸化シグナル機構を解明
東京女子医科大学・生化学分野の若槻実祐(大学院生)、瀧澤光太郎助教、中村史雄教授らの研究グループは、横浜市立大学・先端医科学研究センターの木村鮎子特任助教(現、群馬パース大学)、平野久教授らと共に、大脳皮質樹状突起形成においてチロシンホスファターゼPTPδがSIRPαのリン酸化状態を制御していることを発見しました。脳の神経細胞が複雑なネットワークを形成するためには、樹状突起が正しく伸び、配置される必要があります。しかしその形成を制御する分子メカニズム、特にチロシンリン酸化・脱リン酸化シグナルの役割は十分には解明されていませんでした。
本研究では、チロシンホスファターゼPTPδが、免疫分子として知られるSIRPαのリン酸化状態を精密に制御することで、大脳皮質ニューロンの樹状突起形成を調節していることを明らかにしました。さらに、SIRPαのリン酸化異常をもつマウスでは、神経回路形成に重要な樹状突起の向きや枝分かれに異常が生じることを発見しました。本成果は、脳神経回路がどのように形成されるかという基礎的理解を深めるだけでなく、自閉スペクトラム症や統合失調症など、神経回路形成異常が関与する神経精神疾患の新たな理解につながる可能性があります。
脳の神経細胞は、「樹状突起」と呼ばれる枝状構造を形成することで複雑な神経回路を構築しています。細胞内シグナル伝達では、「チロシンリン酸化」と「脱リン酸化」が重要な役割を果たしています。これらは、それぞれチロシンキナーゼとプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)によって制御されます。これまで、チロシンキナーゼ側の研究は数多く進められてきましたが、PTPがどの分子を基質として働き、神経発達にどのように関与しているかについては、十分に明らかになっていませんでした。
PTPδ(PTPRD)は脳に豊富に発現するPTPの一つであり、空間学習やシナプス可塑性に関与することが知られています。また近年では、自閉スペクトラム症、統合失調症、むずむず脚症候群などの神経疾患との関連も報告されています。しかし、PTPδが神経回路形成をどのように制御しているか、その詳細な分子機構は未解明でした。神経回路形成の過程では軸索ガイダンス因子の一つ、Semaphorin 3A(Sema3A)が大脳皮質錐体ニューロンの樹状突起形成を促進することが知られています。PTPδはSema3Aの細胞内シグナル伝達に関与し、Fynチロシンキナーゼを活性化することで、大脳皮質錐体ニューロンの樹状突起形成を促進します(Nakamura F. et al., 2017. J Neurosci 37:7125-7139)。しかし、PTPδがどの分子を脱リン酸化しているのか、すなわち「PTPδの生体内基質」は明らかになっていませんでした。
Signal Regulatory Protein α(SIRPα)は免疫系で“don’t eat me signal”に関与する分子として知られていますが、神経系においても神経細胞の成長円錐やシナプス豊富領域に局在することが報告されています。しかしSIRPαの神経発達における役割はほとんど分かっていませんでした。そこで本研究では、PTPδの新たな基質として同定したSIRPαに着目し、SIRPαのリン酸化・脱リン酸化がSema3A依存性の樹状突起形成にどのように関与するかを解析しました。
PTPδ欠損マウス脳では野生型マウスに比していくつかのタンパク質が過剰にリン酸化されています(図1A)。リン酸化プロテオーム解析により矢印の100kDa蛋白はSignal Regulatory Protein α(SIRPα)であること(図1B)、SIRPαのTyr501残基が著しく過剰リン酸化されていることを見出しました。さらに解析を進めた結果、SIRPαはチロシンキナーゼFynでリン酸化され、PTPδはSIRPαを直接脱リン酸化することから、SIRPαはPTPδの新たな生体内基質であることが示されました。
次に研究グループは、大脳皮質ニューロンの初代培養を用いてSIRPαの役割を解析しました。その結果、PTPδが発現するニューロンではSema3A刺激によってSIRPα Tyr501の脱リン酸化が誘導されることを見出しました(図1C)。またSema3A刺激は野生型ニューロンの樹状突起を伸長させるのに対して、SIRPα欠損ニューロンでは刺激に伴う伸長が消失しました。(図1D左側)。このSIRPα欠損ニューロンに、野生型のSIRPαを再導入すると樹状突起形成は回復しますが(図1D中央)、Tyr501がリン酸化されないSIRPα変異体(Y501F)の導入では回復しませんでした(図1D右側)。生体内解析では、Y501F変異体を発現した大脳皮質錐体ニューロンにおいて、基底樹状突起形成の低下などの異常が認められました(図1E右側)。またSIRPα欠損マウス脳においても皮質ニューロンの樹状突起形成の低下が認められました。
Sema3A刺激による樹状突起伸長の消失や、基底樹状突起の低発達はFynやPTPδの欠損ニューロンでも生じます。これらの結果からFyn, PTPδによるSIRPαのリン酸化・脱リン酸化サイクル、すなわちリン酸化・脱リン酸化の動的変化が樹状突起形成や神経回路発達に重要であることが示されました(図1F)。
次に研究グループは、大脳皮質ニューロンの初代培養を用いてSIRPαの役割を解析しました。その結果、PTPδが発現するニューロンではSema3A刺激によってSIRPα Tyr501の脱リン酸化が誘導されることを見出しました(図1C)。またSema3A刺激は野生型ニューロンの樹状突起を伸長させるのに対して、SIRPα欠損ニューロンでは刺激に伴う伸長が消失しました。(図1D左側)。このSIRPα欠損ニューロンに、野生型のSIRPαを再導入すると樹状突起形成は回復しますが(図1D中央)、Tyr501がリン酸化されないSIRPα変異体(Y501F)の導入では回復しませんでした(図1D右側)。生体内解析では、Y501F変異体を発現した大脳皮質錐体ニューロンにおいて、基底樹状突起形成の低下などの異常が認められました(図1E右側)。またSIRPα欠損マウス脳においても皮質ニューロンの樹状突起形成の低下が認められました。
Sema3A刺激による樹状突起伸長の消失や、基底樹状突起の低発達はFynやPTPδの欠損ニューロンでも生じます。これらの結果からFyn, PTPδによるSIRPαのリン酸化・脱リン酸化サイクル、すなわちリン酸化・脱リン酸化の動的変化が樹状突起形成や神経回路発達に重要であることが示されました(図1F)。
Ⅲ 今後の展開
本研究により、PTPδによるSIRPαのリン酸化制御が、大脳皮質ニューロンの樹状突起形成に重要であることが明らかとなりました。今後は、SIRPαのリン酸化・脱リン酸化が樹状突起形成においてどのように時空間的に制御されているかを解明し、さらにPTPδの活性制御機構の解明を目指します。また、PTPRD遺伝子異常は自閉スペクトラム症や統合失調症などとの関連が報告されていることから、本研究成果は、これら神経発達疾患の新たな分子病態理解や治療戦略の開発につながることが期待されます。
本研究により、PTPδによるSIRPαのリン酸化制御が、大脳皮質ニューロンの樹状突起形成に重要であることが明らかとなりました。今後は、SIRPαのリン酸化・脱リン酸化が樹状突起形成においてどのように時空間的に制御されているかを解明し、さらにPTPδの活性制御機構の解明を目指します。また、PTPRD遺伝子異常は自閉スペクトラム症や統合失調症などとの関連が報告されていることから、本研究成果は、これら神経発達疾患の新たな分子病態理解や治療戦略の開発につながることが期待されます。

図1. PTPδによるSIRPα脱リン酸化はSema3A誘導性樹状突起形成を制御する。
A) 野生型(wild-type)、PTPδ欠損(Ptpδ -/-)脳におけるリン酸化チロシンブロット。PTPδ欠損脳において複数タンパク質が過剰にリン酸化されている。100kDaタンパク質はプロテオーム解析によりSIRPαと同定された。B) SIRPα模式図。細胞外に3つのイムノグロブリン様領域、細胞内に4つのチロシン残基(Y)を有する。数字はアミノ酸の位置。C) PTPδを発現するニューロンの初代培養。樹状突起(矢頭)の先端にリン酸化SIRPαの緑シグナル(pY501)とSIRPαの赤シグナルが共在し黄色になる。Sema3A刺激により樹状突起のSIRPαは脱リン酸化され、赤シグナルのみになる(矢頭)。D) SIRPα欠損(Sirpα -/-)ニューロンの初代培養。Sema3Aによる樹状突起(赤の突起)伸長は生じない(左列)。SIRPα野生型を再発現させると、Sema3A刺激により樹状突起が伸長する(中央列)。SIRPαリン酸化変異体(Y501F)の発現では、Sema3Aによる樹状突起伸長は生じない。E) SIRPα野生型、Y501F変異型を導入した大脳皮質ニューロンの樹状突起。SIRPα野生型(中央)の導入は空ベクター(mock, 左側)導入と同様に樹状突起が発達する。一方、Y501F変異体導入は樹状突起発達を抑制した(右側)。F) SIRPαのリン酸化・脱リン酸化による樹状突起伸長模式図。Sema3AはSema3A受容体に結合し、PTPδを活性化する。PTPδはFynを活性化し、FynはSIRPαをリン酸化する。またPTPδはSIRPαを脱リン酸化することから、リン酸化・脱リン酸化の代謝回転の増加が樹状突起の伸長を引き起こすと考えられる。
A) 野生型(wild-type)、PTPδ欠損(Ptpδ -/-)脳におけるリン酸化チロシンブロット。PTPδ欠損脳において複数タンパク質が過剰にリン酸化されている。100kDaタンパク質はプロテオーム解析によりSIRPαと同定された。B) SIRPα模式図。細胞外に3つのイムノグロブリン様領域、細胞内に4つのチロシン残基(Y)を有する。数字はアミノ酸の位置。C) PTPδを発現するニューロンの初代培養。樹状突起(矢頭)の先端にリン酸化SIRPαの緑シグナル(pY501)とSIRPαの赤シグナルが共在し黄色になる。Sema3A刺激により樹状突起のSIRPαは脱リン酸化され、赤シグナルのみになる(矢頭)。D) SIRPα欠損(Sirpα -/-)ニューロンの初代培養。Sema3Aによる樹状突起(赤の突起)伸長は生じない(左列)。SIRPα野生型を再発現させると、Sema3A刺激により樹状突起が伸長する(中央列)。SIRPαリン酸化変異体(Y501F)の発現では、Sema3Aによる樹状突起伸長は生じない。E) SIRPα野生型、Y501F変異型を導入した大脳皮質ニューロンの樹状突起。SIRPα野生型(中央)の導入は空ベクター(mock, 左側)導入と同様に樹状突起が発達する。一方、Y501F変異体導入は樹状突起発達を抑制した(右側)。F) SIRPαのリン酸化・脱リン酸化による樹状突起伸長模式図。Sema3AはSema3A受容体に結合し、PTPδを活性化する。PTPδはFynを活性化し、FynはSIRPαをリン酸化する。またPTPδはSIRPαを脱リン酸化することから、リン酸化・脱リン酸化の代謝回転の増加が樹状突起の伸長を引き起こすと考えられる。
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
中村 史雄(ナカムラ フミオ)
東京女子医科大学 医学部生化学分野 教授
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel&Fax:03-3353-8112 (Ext: 31525) 直通 03-5269-7415
E-mail: nakamura.fumio@twmu.ac.jp
<報道に関すること>
東京女子医科大学 広報課
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel:03-3353-8111 Fax:03-3353-6793
E-mail: kouhou.bm@twmu.ac.jp
【プレス情報】
1.掲載誌名:Journal of Neuroscience
2.論文タイトル: Elaboration of cortical pyramidal dendrites requires dephosphorylation of Signal Regulatory Protein α by Protein Tyrosine Phosphatase δ
3.著者名: Miyu Wakatsuki, Kohtaro Takizawa, Aoi Jitsuki-Takahashi, Ayuko Kimura, Nobuto Arashiki, Hiroko Makihara, Yoichiro Iwakura, Takuya Takahashi, Hisashi Hirano, Yoshio Goshima, Fumio Nakamura*
(*はcorresponding author、アンダーラインは本学所属の著者)
4.DOIコード:10.1523/JNEUROSCI.2043-25.2026
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo) :2026年5月20日
中村 史雄(ナカムラ フミオ)
東京女子医科大学 医学部生化学分野 教授
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
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東京女子医科大学 広報課
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【プレス情報】
1.掲載誌名:Journal of Neuroscience
2.論文タイトル: Elaboration of cortical pyramidal dendrites requires dephosphorylation of Signal Regulatory Protein α by Protein Tyrosine Phosphatase δ
3.著者名: Miyu Wakatsuki, Kohtaro Takizawa, Aoi Jitsuki-Takahashi, Ayuko Kimura, Nobuto Arashiki, Hiroko Makihara, Yoichiro Iwakura, Takuya Takahashi, Hisashi Hirano, Yoshio Goshima, Fumio Nakamura*
(*はcorresponding author、アンダーラインは本学所属の著者)
4.DOIコード:10.1523/JNEUROSCI.2043-25.2026
5.論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo) :2026年5月20日
附属八千代医療センター
東京女子医科大学附属八千代医療センター
川崎重工業株式会社
川崎重工業株式会社
東京女子医科大学附属八千代医療センターにて
屋内配送ロボット「FORRO(フォーロ)」の運用を開始
~ロボットとのタスクシェアの効果検証を通じて「未来型看護」の実現へ~

院内を「FORRO」が走行する様子 エレベータに人と相乗りする様子
学校法人東京女子医科大学(東京都新宿区、以下、東京女子医科大学)と川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)は、東京女子医科大学附属八千代医療センター(千葉県八千代市、以下、八千代医療センター)における院内配送業務の効率化と医療従事者の負担軽減を目的として、2026年4月6日より屋内配送ロボット「FORRO(フォーロ)」※による院内配送を開始しました。
今回、八千代医療センターで運用を開始した「FORRO」は、広範囲をセンシングすることにより安全かつ安定して走行するだけではなく、メーカーの異なるエレベータを活用したフロア間移動や、各所のセキュリティドアと連動しながら、複数棟にまたがる長距離配送を可能とする配送ロボットです。
病院内外の関係者の往来や、医療機器などの運搬が頻繁にあり、複数階にわたって大きな面積を有する大学病院特有の環境下においても、安全性と安定性を両立した院内配送を実現します。
これにより、これまで医療従事者が担っていた検体および薬剤の配送業務を、ロボットが代わりに行い、医療従事者が専門性の高い業務や患者さんへの対応に集中できる環境を構築することで、病院が提供する医療の質の向上や業務全体の効率化を実現します。さらに、病院内の医療従事者が限られる夜間や休日の配送業務にも活用することで、医療従事者の負担を軽減するなど、働き方改革を推進にも寄与します。
なお、本ロボットの愛称は、院内で開催された地域向けイベントにおいて来場者の皆さまから募集し、「やちまる」に決定しました。地域の皆さまに親しみを持っていただける存在として、より身近な医療環境づくりに貢献していきます。
また、今回の導入においては、東京女子医科大学 看護学部(駒形朋子准教授)と川崎重工が連携し、「FORRO」の導入効果に関する検証(JSPS科研費基盤研究(B)25K02955)も実施します。具体的には、院内配送業務の自動化による業務への影響を多角的に分析し、医療従事者の業務負担軽減効果や業務効率の向上について評価を行う予定です。これらの検証を通じて、看護現場におけるロボット活用の有効性を明らかにすることで、持続可能な「未来型」の医療現場の改善モデルの構築を目指します。
学校法人東京女子医科大学について
今回、八千代医療センターで運用を開始した「FORRO」は、広範囲をセンシングすることにより安全かつ安定して走行するだけではなく、メーカーの異なるエレベータを活用したフロア間移動や、各所のセキュリティドアと連動しながら、複数棟にまたがる長距離配送を可能とする配送ロボットです。
病院内外の関係者の往来や、医療機器などの運搬が頻繁にあり、複数階にわたって大きな面積を有する大学病院特有の環境下においても、安全性と安定性を両立した院内配送を実現します。
これにより、これまで医療従事者が担っていた検体および薬剤の配送業務を、ロボットが代わりに行い、医療従事者が専門性の高い業務や患者さんへの対応に集中できる環境を構築することで、病院が提供する医療の質の向上や業務全体の効率化を実現します。さらに、病院内の医療従事者が限られる夜間や休日の配送業務にも活用することで、医療従事者の負担を軽減するなど、働き方改革を推進にも寄与します。
なお、本ロボットの愛称は、院内で開催された地域向けイベントにおいて来場者の皆さまから募集し、「やちまる」に決定しました。地域の皆さまに親しみを持っていただける存在として、より身近な医療環境づくりに貢献していきます。
また、今回の導入においては、東京女子医科大学 看護学部(駒形朋子准教授)と川崎重工が連携し、「FORRO」の導入効果に関する検証(JSPS科研費基盤研究(B)25K02955)も実施します。具体的には、院内配送業務の自動化による業務への影響を多角的に分析し、医療従事者の業務負担軽減効果や業務効率の向上について評価を行う予定です。これらの検証を通じて、看護現場におけるロボット活用の有効性を明らかにすることで、持続可能な「未来型」の医療現場の改善モデルの構築を目指します。
学校法人東京女子医科大学について

1900年に吉岡彌生が創立した日本唯一の私立女子医科大学です。本学の使命を達成するための教育・研究・診療の基盤となる理念は、「至誠と愛」です。至誠は、「常住不断私が患者に接するときの根本的な心構えを短い二つの文字のなかに言い現したもの(吉岡彌生傅)」という創立者・吉岡彌生の座右の銘であり、「きわめて誠実であること」「慈しむ心(愛)」を教育・研究・診療の総ての場において求めています。
〇Webサイト: https://www.twmu.ac.jp/univ/
学校法人東京女子医科大学附属八千代医療センターについて
〇Webサイト: https://www.twmu.ac.jp/univ/
学校法人東京女子医科大学附属八千代医療センターについて

「地域社会に信頼される病院としての心温まる医療と急性期・高機能・先進医療との調和」、および、本学の理念である「至誠と愛」に基づき、皆さまに信頼される病院を目指しています。 患者さんのプライバシーを守り、一人ひとりの権利を尊重するとともに、つねに最新の医療技術と知識を用いて、安全で良質の医療を提供しています。また、患者さんに寄り添ったチーム医療を行っています。 地域の中核病院として、近隣の診療所・病院等との連携を推進し、皆さまの健康の維持・増進に取り組んでいます。
〇Webサイト: https://www.twmu.ac.jp/TYMC/index.html
川崎重工業株式会社について
国内外の100に及ぶ関連企業とともに"技術の企業集団"川崎重工グループを形成しています。
技術の歴史は100年を越え、磨きあげてきた先端技術をもって新たな価値を創造し、社会の発展に貢献するという理念のもと、陸・海・空はもとより、遥かな宇宙から深海にまで、多彩な製品を送り出しています。
〇Webサイト:https://www.khi.co.jp/
※ 屋内配送用ロボット「FORRO(フォーロ)」
「FORRO」は、川崎重工が「ヒトは、ヒトにしかできないことを。」をコンセプトに、深刻化する労働力不足に対するこたえのひとつとして創出したサービスロボットです。医療従事者とともに働くパートナーであるとともに、患者様からも親しみを持って迎えられる外観を備えています。
(参考リンク)川崎重工「FORRO」オフィシャル HP
https://forro-service.com/
(参考リンク)川崎重工「FORRO」オフィシャルムービー
https://www.youtube.com/watch?v=ziMds-eM4rU
【本件に関するお問い合わせ先】
〇本件の静止画の提供が可能です。ご希望の方はお問い合わせください。
川崎重工業株式会社 コーポレートコミュニケーション総括部PR部
Tel:03-3435-2130
〇Webサイト: https://www.twmu.ac.jp/TYMC/index.html
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