当院のPET/CT

はじめに

当院では、2020年4月にがんをはじめとしたさまざまな疾患の早期発見や治療効果の判定に威力を発揮する半導体検出器を搭載した高性能デジタルPET・CT装置を導入しました。これにより、検査をお受けになる方々に安全で質の高い画像の提供し、画像診断の充実を図っております。

 

1.FDG-PETとは

陽電子(ポジトロン)を放出する放射性同位元素からは、180度正反対の方向に2本のγ線が同時に放出されます。これらをリング状に検出器を配列したカメラ内の相対する検出器同士で同時にとらえ画像化するのがPET (positron emission tomography: 陽電子断層撮影法)の原理です。
がん細胞では糖代謝が亢進している事実は、1930年代から知られていました。FDG (2-deoxy-2 [F-18] fluoro-deoxy glucose) はブドウ糖の一部を陽電子放出核種であるF-18に置き換えた物質です。細胞内にブドウ糖と同じように取り込まれるが、糖代謝の途中で留まり細胞内に蓄積されます。したがって、体内でブドウ糖の代謝が亢進している部位では、周囲よりもより強くFDGが集積します。
2010 年4月からは、早期胃癌を除く全ての悪性腫瘍に関して一定の条件を満たせば健康保険の適用になりました。

 

2.がん診断におけるFDG-PETの役割

FDG-PETの臨床的な有用性は、すでに存在が認められている病変に対する質的な診断的情報を加えることと、未発見の病変に対する全身検索が容易であるという2点にあります。

(1)悪性度診断

形態的画像診断 (超音波、CT、MRIなど) を用いて、その形態上の特徴から質的な診断をつけることは必ずしも容易でありません。FDG-PETはブドウ糖代謝が活発かどうかという情報をつけ加えます。たとえばCTは肺結節の存在を感度良く(90%以上) 検出しますが、FDG-PETは病変の活動性を評価します。これらを合わせることで病変の質的診断に有用な情報となります。
FDG-PETは、治療後の効果判定にも有用です。たとえば、悪性リンパ腫では化学療法開始後、腫瘍が小さくなるのに先立ってFDG集積が低下し、形態的な変化よりもより正確に遺残病変の有無や予後を反映し、治療方針の決定や変更に寄与します。
一方、FDG-PETはブドウ糖代謝を捉える機能画像であるために、特有の限界が存在します。たとえば、高集積となるのは悪性腫瘍に限らず、活動性の炎症や、一部の良性疾患(膿瘍、結核、サルコイドーシスなど)についても認められます。逆に、FDG集積が少ないか見られない場合は、細胞成分の少ない悪性腫瘍や分化度が高く糖代謝が高くない悪性腫瘍などで認められます。また、PETの空間分解能はCTなどに比べてかなり劣るため、9mm未満の病変は一般的に評価困難です。さらに高血糖やインスリン投与時、脳、腎、膀胱などの生理的集積部位に近接している場合にも、FDG集積の評価が難しくなります。
ブドウ糖代謝の亢進程度は腫瘍細胞の増殖能を反映します。FDG-PETは増殖性の高い腫瘍でより強く集積し、予後の悪さと関連します。最近では、 FDG-PETの意義としては良悪性の明確な鑑別に役立つというよりは、腫瘍の病気診断や治療後の再発、転移の有無を評価するという方がより妥当であると考えられています。

(2)全身検索

FDG-PETの優れた特徴として、一度に全身(多くは、頭から大腿)の検索ができることがあります。病変部位を陽性に描出するので発見が容易であり、しかも多臓器の病変を同時に観察できます。したがって、臨床的に予想しない部位への転移、あるいは予期しない別の悪性腫瘍が、しばしば発見されます (図1)。他の多くの診断法(内視鏡、超音波、CT、MRIなど)が観察部位を限定した上で部分的に詳細に見るのに対して、FDG-PETは反対の特性を持っています。そのため、FDG-PETで全体をまず大きくとらえ、次いで他の診 断法で細かく調べるというお互い補い合うような使い方が可能になり、悪性腫瘍の効率的で正確な診断に役立ちます。

FDG-PET

図1:乳癌術後経過観察中、腫瘍マーカーCEAが上昇。乳癌再発を疑いPET/CTを行ったところ、予期していなかった大腸回盲部と大動脈近傍のリンパ節に異常集積を認め(矢印)、回盲部悪性腫瘍とリンパ節転移が強く疑われた。大腸内視鏡検査の結果、回盲部大腸癌と判明して大腸切除術を行った。

 

(3)PET/CT

腫瘍診断にはPETとCTを同一の装置に組み合わせたPET/CTを使用することが標準的になりました (図2)。PETの画像は体内のブドウ糖代謝を反映した機能画像であるために空間分解能が劣ります。PETのみでは病変部位の解剖学的な位置を正確に同定することが通常は困難です。
これまで述べたように、PETとCTはそれぞれの弱点を補いあい、病変部位を効率よく検出し、周囲との位置関係ならびに質的な診断をするのに役立ちます。さらに、CT画像上の形態上の特徴がPETの質的な情報と組合わされて鑑別診断に役立つこともあります。PET/CT 装置は、PET画像の吸収補正(注)にX線CTを用いるためより正確なPET画像が得られます。

(注)吸収補正:体の中心部に近い所から発する信号は周囲の臓器に遮られて減弱するのを、本来の信号の強さに是正する技術

 

(4)PETがん検診

PETは全身の多種類の悪性腫瘍を、負担が少なく一度に評価できる利点があります。しかし、悪性腫瘍の種類によってはPETが有用な場合と、そうでない場合が存在します。日本核医学会から2019年度に発表された「大きさの小さいもの、中枢神経系、尿路系に近接するもの、腫瘍組織内の 細胞密度の低いもの、分化度の高いもの、glucose-6 phosphatase活性の高いものなどは FDG-PET検査偽陰性になりやすい傾向が認められる。具体的には、腎細胞癌、前立腺癌、膀胱癌、胃硬癌(スキルス)、気管支肺胞型腺癌(高分化型肺腺癌)、高分化型肝細胞癌などがFDGの集積が乏しい」とあり、一部にはスクリーニングに不向きな疾患もあります。
また、胃癌、食道癌の発見には上部消化管内視鏡がFDG-PETに優先します。逆に頭頚部癌、悪性リンパ腫ではFDG PETが最も優れた方法とされます。したがって、がん検診に用いる場合にはPET単独で行うのは適当でなく、対象の持つリスクに応じて他の検査との使い分けや併用が必要です。

FDG-PET

図2:PET/CT装置 PET部分とCT部分が一体型になり、患者は移動しないでCTに続けてPETの撮影ができる。CT部分は通常の診断用CT装置と同等の性能を持っている。

 

 

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