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平成21年度 二松学舎大学「図書館サービス論」レポート

─医療情報サービスの現状と展望─

二松学舎大学4年  Bさん


患者図書室は、医療従事者に医学の情報を提供するばかりでなく、病院にいる患者や、その家族に対して、自分の病気について知るための情報源を提供する、医療情報サービスを行っている。インフォームド・コンセントが取り組まれる様になり、患者や、その家族に対して、医療情報サービスの充実が図られている。最近では、一般の人々が、セカンド・オピニオンについての情報を得るために、図書館を利用する場合が増えている。病院内図書室だけでなく、公共図書館や大学図書館においても、医療情報サービスは実践されなければならない。

見学した東京女子医科大学病院「からだ情報館」は、病院内に併設されている。大学図書館の司書や、看護ボランティア、病院ボランティア、運営委員会によって、運営されている。医学に関する書籍やAVメディア等を積極的に収集し、情報検索の支援を行っている。患者が利用する事を配慮し、専門的な資料だけでなく、一般にも使える医学資料を揃えている。パソコンの医学関係のデータベースやリンク集等も、豊富で信頼性が高いものになっていた。殆どの資料が館内利用になっており、唯一持ち帰る事が出来る資料は、病院や医学会社が製作したパンフレットである。パンフレットは、医学関連施設に置かれているものが多く、病気や薬の内容毎に整理されていた。こうしたパンフレットの収集・提供は、病院内図書室という特徴を生かした、資料構築となっている。
病院内図書室の特徴を生かした他のサービスは、年に三回程行われる講演会がある。医師を招いた講演会は、医療情報サービスを一般に広める機会であると同時に、患者以外の人々と医師が交流を図る機会となる、地域の交流を図る場としての機能を果たしているのである。

患者やその家族を中心に、医療情報を提供する場を形成する、というのが医療情報サービスの現状である。からだ情報館の様に、医師と講演会を開催したり、地域の交流を図る事は、医学知識の専門性が高く、まだあまり普及していないと考えられるからである。公共図書館の医療情報サービスの現状としては、闘病記や、一般の人々にも理解出来る様な書籍の収集が、一般的だと思われる。<br />市川市中央図書館では、「医学関連資料分類・件名検索医学関連サイトリンク」があり、関連するインターネットのリンクを紹介している。常設の医療情報コーナーはないが、二ヶ月毎に変化する特集展示で、闘病記や、病気に関する資料の展示を行っていた。公共図書館は、患者図書室とは違って、多様な利用者が多いので、どんな人にもわかりやすい資料、一般的な資料の収集に偏ってしまう傾向がある。医療情報サービスの拡充を試みは、医学的な専門知識が必要となり、公共図書館の職員だけでは、困難な場合が多いからである。患者図書室の場合、医師への情報提供がある場合、専門的な資料が収集される。当然、患者やその家族の支援として、一般にも使える資料を収集するのだが、「死」を扱った資料は別置される等の配慮が必要となってくる。患者図書室は、利用者が病気やケガをしている患者なので、病気の悪化や、感染の予防に配慮し、患者の負担にならない運営をしなければならないのである。患者が不安に陥ったり、混乱する様な資料の収集は避けられ、公共図書館の資料収集の方針とは違ってくると考える。こういった意識や、運営に対する姿勢の違いが、公共図書館と患者図書室の違いである。

医療情報サービスは、患者図書室を筆頭に、公共図書館においても、取り組みが行われ始めている。しかし、医療の知識や方法は多岐に渡り、常に知識が更新されていく。医療情報サービスが普及し充実するには、専門知識を備えた医師、医学図書館員や病院との協力関係が築かれなければならない。病院側は、こういった背景を把握し、積極的に患者図書館の設置、医学図書館員の養成を推進していくべきである。患者図書館が設置されている場合は、患者やその家族、医師へのサービスは勿論の事、患者図書館に行く事が困難なベッドに寝たきりの患者にも、資料提供をしていくよう努力すべきである。『みんなの図書館』の2009年3月号「入院中の子どもと本」では、塚田薫代氏が、「わくわくぶんこ」の取り組みを紹介している。入院中のベッドの上の児童に、本を手に取り読んで貰おうと、児童書をブックトラックに乗せて届けているのである。字を書けない児童がいる事を配慮し、貸出手続きを省いている。そして、入院は通過点であるとし、退院した児童が、学校の学習に臨める様に、学校との連携や、司書教諭設置の必要性を述べている。
医療情報サービスの提供を受ける利用者の事を考えると、医療関係の知識だけでなく、多様な知識や技術が必要となる事がわかる。退院した後、生活する上で必要な仕事や情報提供も、医療情報のサービスとして行われるべきである。それには、地域や、館種を越えたネットワーク形成が重要である。患者図書館が中心となって、病院と地域との交流を図り、相互の協力関係を図ると共に、患者図書館の存在を広く知って貰う機会をつくるべきだと考える。

≪引用文献≫
『みんなの図書館』図書館問題研究会編、教育史料出版会出版、2009年3月号(No.383)「入院中の子どもと本-小児病院における患者図書サービス」塚田薫代(21~27ページ)

≪参考文献≫
日本図書館情報学会研究委員会編『図書館情報専門職のあり方とその養成』初版、東京、勉誠出版、2006年10月

ディスアドバンティジド・パーソンズ図書館分科会作業部会編、日本図書館協会障害者サービス委員会訳『IFLA病院患者図書館ガイドライン2000』初版、東京、2001年10月

市川市中央図書館ホームページ

 

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