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2026年02月25日  【プレスリリース】角膜炎の形を「数式」で説明 -角膜ヘルペスの多様な病変の形を数理モデルで再現-
九州大学
東京女子医科大学

角膜炎の形を「数式」で説明
-角膜ヘルペスの多様な病変の形を数理モデルで再現-

 
 
Point
① 角膜に感染や炎症が起こる角膜ヘルペス(※1)は、病変の形の見た目をもとに診断されている
② その形が生じる理由を説明できる数理モデル(※2)の開発に成功した
③ 今後角膜ヘルペスのさらなる病態理解につながることが期待される


【概要】 
                                                                          
 角膜ヘルペスは、枝分かれした形や、先端が膨らんだ形、免疫抑制状態で見られる大きく広がった形など、特徴的な病変の見た目を示す角膜(※3)の感染症です。臨床現場では、こうした病変の形の違いを手がかりに診断が行われています。しかし、これらの病変の形がなぜ生じるのかについては、ウイルス感染の広がりと宿主の免疫反応の相互作用が関係していると考えられてきたものの、その仕組みを具体的に説明できる理論的な枠組みはこれまで示されていませんでした。
 本研究では、感染と免疫の相互作用に着目した数理モデルを用いることで、角膜ヘルペスに見られる多様な病変の形を再現できることを示しました。
 今回、九州大学大学院医学研究院系統解剖学分野の三浦岳教授、同大学院医学系学府博士課程2年の増永真理、同修士課程1年の島谷玲央、東京女子医科大学医学部眼科の飯田知弘客員教授および篠崎和美准教授らの研究グループは、ウイルスの感染拡大と免疫反応の影響を取り入れた数理モデルを構築しました。このモデルでは、パラメータの違いによって、枝状の病変、先端が丸く膨らんだ病変、さらには免疫抑制状態で見られる大きく広がった病変まで、角膜ヘルペスに特徴的な病変パターンを再現できることを示しました。さらに、先端が丸い膨らみを呈さない偽樹枝状角膜炎(※4)のパターンについても再現可能であることを示しました。これにより、これまで経験的に理解されてきた病変の見た目の違いを、理論的に説明する枠組みが提示されました。
 本研究成果は、医師が見た目をもとに診断してきた角膜ヘルペスの病変の形に、理論的な背景を与えるものです。病変の広がり方と免疫状態の関係を整理して理解する手がかりとなり、今後の病態理解や関連する基礎研究・臨床研究の基盤として活用されることが期待されます。
 本研究成果は、米国の学術雑誌『Bulletin of Mathematical Biology』に2026年2月25日(水)午前11時(日本時間)に掲載されます。

研究者からひとこと:
角膜ヘルペスは、枝分かれしたり、先端が丸く膨らんだりと、見た目に特徴のある病気です。医師は病変の形を手がかりに診断を行いますが、なぜそのような形が生じるのかについては、十分に分かっていませんでした。角膜ヘルペスに限らず、病変の「形」は医療において重要な情報を含んでいます。形ができる仕組みを説明する数理モデルの開発が臨床医学の理解につながればと考えています。
(増永 真理)
 
 
【研究の背景と経緯】
 
 角膜ヘルペスでは、枝分かれした形や先端が膨らんだ形、大きく広がった形など、特徴的な病変が現れます。医療現場では、こうした病変の見た目が診断の重要な手がかりとなっており、治療の選択にも関わります。一方で、病変の形がどのように生じるのかについては、感染の広がりと免疫反応の関係が指摘されてきたものの、それらを説明できる枠組みはこれまで示されていませんでした。
 

 
 【研究の内容と成果】

 本研究では、角膜ヘルペスに見られる特徴的な病変の形を再現する数理モデルを構築しました。このモデルでは、ウイルスの感染拡大と免疫反応の相互作用を取り入れることで、免疫反応が比較的強い場合には枝分かれした病変が形成され、免疫反応が弱い場合には病変が大きく広がるといった、臨床で知られている病変の形の違いを再現することに成功しました。
 研究グループはさらに、免疫反応の強さだけでなく、起こり方の違いにも着目しました。角膜ヘルペスでは枝の先端が丸く膨らむ一方で、同じウイルス科に属し、似た感染形式をとる水痘・帯状疱疹ウイルスによる偽樹枝状角膜炎では、枝分かれは見られても先端の丸い膨らみは生じません。本研究では、免疫反応の起こり方の違いを取り入れることで、こうした病変形状の違いも数理モデルで再現しました。


  【今後の展開】

 本研究で示した数理モデルは、角膜ヘルペスに見られる病変の形の違いを理解するための理論的な枠組みを提供するものです。今後、実験系を用いた研究と組み合わせることで、免疫状態の違いによって生じる病変形状の変化を再現・検証することができれば、病変の成り立ちに対する理解がさらに深まると考えられます。
 また、病変の形がどのような仕組みで生じるのかを整理して理解できるようになれば、角膜炎の病変をより理由づけて捉えることができるようになり、診断に役立つ可能性もあります。
 さらに、本研究で用いた数理モデルの考え方は、角膜炎に限らず、病変の形が重要な意味を持つさまざまな疾患の理解にも応用できると考えられます。異なる条件を数理モデル上でシミュレーションすることで、どのような状況が重要かを事前に検討できるようになれば、実験や観察の対象を絞り込むことが可能となり、研究全体の効率化にもつながります。
 このように、数理モデルと実験・臨床研究を組み合わせたアプローチは、病気の理解を深めるための手法として、今後の医学研究の発展に貢献することが期待されます。
 


【用語解説】

(※1) 角膜ヘルペス
ヘルペスウイルスによって、角膜に感染や炎症が起こる病気です。枝分かれして先端が丸く膨らんだ形など、特徴的な病変の見た目を示すことが知られており、診断の手がかりとなります。
 
(※2) 数理モデル
生理的・物理的現象を数式で表したものです。現象の再現や予測、介入の効果検証などに活用されます。
 
(※3) 角膜
目の表面を覆う透明な組織で、光を取り込み、視力を保つために重要な役割を担っています。
 
(※4) 偽樹枝状角膜炎
角膜ヘルペスと似た枝分かれ状の病変を作りますが、角膜ヘルペスとは異なり、病変の先端が丸く膨らまないのが特徴の角膜炎です。水痘・帯状疱疹ウイルスの 感染など、さまざまな原因で生じます。


【論文情報】
掲載誌:Bulletin of Mathematical Biology
タイトル:Mathematical Modeling of Lesion Pattern Formation in Dendritic Keratitis
著者名:Mari Masunaga, Reo Shimatani, Kazumi Shinozaki, Tomohiro Iida, Yoshinao Oda, Takashi Miura
DOI:10.1007/s11538-026-01598-3



【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
九州大学 大学院医学研究院 系統解剖学分野 教授 三浦 岳(ミウラ タカシ)
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Mail:miura.takashi.869@m.kyushu-u.ac.jp
 
東京女子医科大学 医学部眼科学講座 准教授 篠崎 和美(シノザキ カズミ)
TEL&FAX:03-3353-8111
Mail:shinozaki.kazumi@twmu.ac.jp

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