桑島海人

当科で行っている膝関節周囲矯正骨切り術に関してご説明します。(桑島海人)

一般的な話(膝周囲骨切り術とは?)

下肢のなかで、体重の通るラインは大腿骨頭の中心から足関節の中心までと考えられており、正常な膝の場合、このラインは膝のほぼ中心を通ります。しかし、変形性膝関節症の方は、このラインが膝の内側(O脚)、もしくは外側(X脚)に傾いていることが多く、歩くたびに膝の内側・外側どちらか一方に偏って負担がかかっている状態です。それを膝の中心から正常な部分に体重がかかるように矯正する治療が、「膝周囲骨切り術」です。
O脚やX脚に変形した膝では、内側あるいは外側のどちらか片側だけが傷んでいる場合が多く見られます。「膝周囲骨切り術」とは、正常の軟骨が残っている部分に体重がかかるようにO脚やX脚の変形を矯正する手術です。この手術では自分の膝が残りますので、手術後、特に生活上の制限はなく、スポーツや趣味、職場復帰することが可能です。
健康寿命が延び、『スポーツや趣味を継続したい』『もっと活動的に行動したい』という患者さんが増えてきています。そのような患者さんの意思を尊重し、1人1人の膝の状態に応じて当科では自らの膝を残す関節温存手術「膝周囲骨切り術」の様々な術式の中から選択して提供しています。

手術適応(どのような患者様がこの手術に適しているか)

「膝周囲骨切り術」が適応となる患者さんは、まず膝の動きが比較的よい方です。膝をまっすぐ伸ばすことができ、深く曲げることができることが条件になります。膝の曲げ伸ばしが十分にできないほど膝が硬くなってしまった方は、「膝周囲骨切り術」による治療が難しく、人工関節の適応となります。合わせて、骨の質がある程後よい患者さんのほうが、術後の回復は良好になるため適しているといえます。さらに、膝の内側か外側、どちらかの関節軟骨が残っている方に「膝周囲骨切り術」は適応されます。関節軟骨のすり減りがひどい方は、人工関節の方がよいこともあります。また、手術後のリハビリや痛みの取れ方が人工関節よりも時間がかかるため、「膝周囲骨切り術」に対する患者さんの理解があることも手術を行う上では重要になります。

当院での手術内容と特徴(実際の手術の様子)

「膝周囲骨切り術」は、患者さんに合わせてさまざまな手術法を組み合わせることができます。そのため、手術法は患者さんの年齢や症状、体型、希望する活動などを考慮し決定されます。たとえば、積極的にスポーツをしたいと希望する方には、それに適した手術を選択することができますし、最小限の治療を希望する方にはそのように実施することが可能です。「膝周囲骨切り術」の最大のメリットは、自分の膝が残るということです。自分の関節ですから、患者様によっては手術後に正座やランニングなどもスムーズに行える方もいらっしゃいます。
実際の手術は、大きく分けて太ももの骨(大腿骨)またすねの骨(脛骨)に対する楔状(けつじょう)閉鎖型骨切り術(Closed wedge osteotomy)と楔状開大型骨切り術(Open wedge osteotomy)があります。楔状閉鎖型骨切り術は骨にくさび型の切れ込みを入れて取り出すことでO脚やX脚を矯正する手術で、楔状開大型骨切り術は、逆に骨に切れ目をいれてくさび型に広げることで矯正する手術です。「膝周囲骨切り術」、特に脛骨の楔状閉鎖型骨切り術について、実は日本では、以前は比較的多く行われていましたが、術後の痛みが取れるまでに2〜3カ月かかり、膝をギプス等で固定する期間や入院期間も長いという理由から、人工関節の成績が安定するにつれて、徐々に手術数は減っていきました。しかし、金属プレートによる強固な固定でギプス固定が不要となり、また手術法の改善によってここ10年ほどで徐々に、この治療法が再び注目されるようになっています。事実、ここ数年の日本全体での手術件数は右肩上がりで増加しており、当科での手術件数も年々増加しています(表)
実際の手術方法ですが、ここでは現在最も多く行われている脛骨の楔状開大型骨切り術(Open wedge high tibial osteotomy : OWHTO)を例に説明します。
まず、膝用の内視鏡カメラ(関節鏡)を使って膝関節の中の余分な骨を削ったり切れた半月板を整えたりします。その後、すねの内側に5~7cmの傷を作って、すねの骨に内側から切り込みを入れて目標の矯正分だけ開き、人工骨を挿入します。最近使われているβ-TCPという人工骨は、吸収されて3〜5年で自分の骨に置き換わります。最後に、骨との親和性がよいチタン合金のプレートとボルトで固定します。チタンはMRI検査の際にも問題がない素材です。高齢者に多い骨粗しょう症の方でも問題ありません。チタンプレートとボルトは手術後約1年で体内から取り出しますが、ボルトで開いた穴は自然と埋まります。

手術例

内側楔状開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO)

内側楔状開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO) 術前
術前
内側楔状開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO) 術後
術後
内側楔状開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO) 抜釘後(術後1年1ヶ月)
抜釘後
(術後1年1ヶ月)

外側楔状閉鎖型高位脛骨骨切り術(Closed wedge HTO:CWHTO)

外側楔状閉鎖型高位脛骨骨切り術(Closed wedge HTO:CWHTO)
外側楔状閉鎖型高位脛骨骨切り術(Closed wedge HTO:CWHTO)

逆V字型高位脛骨骨切り術(逆V字型HTO)

逆V字型高位脛骨骨切り術(逆V字型HTO)

遠位大腿骨骨切り術(Distal femoral osteotomy:DFO)

遠位大腿骨骨切り術(Distal femoral osteotomy:DFO)
遠位大腿骨骨切り術(Distal femoral osteotomy:DFO)

大腿骨脛骨骨切り術(Double level osteotomy:DLO)

大腿骨脛骨骨切り術(Double level osteotomy:DLO)

術後リハビリ、術後の活動(スポーツ復帰等)

OWHTOの場合、手術の所要時間は関節鏡を含めて約1時間半となります。骨を切っているので、歩いたり体重がかかったりすると痛みますが、特に固定は不要で、翌日には膝を曲げることができ、約3~6カ月で骨がくっついて完全に痛みが引くと、そこからは普通の生活に戻れます。入院期間も以前より短縮されて、2〜3週間が目安になります。その後、しばらくは杖の使用が必要となることが多いですが、自分で歩いて退院できます。リハビリは、筋力トレーニングや関節の曲げ伸ばしなど、基本的にご自身で行っていただき、定期的なチェックを含めて理学療法士がサポートします。プレートを外す手術は40分ほどで、翌日には歩くことができ、早ければ翌々日には退院できます。
「膝周囲骨切り術」は、骨がついた後はどんな運動をしてもいいという手術です。骨がつき、内部に入れた金属を抜いたら、もう完全に自分の膝として使うことができます。手術後に卓球やテニス、マラソン、山登りなどのスポーツも期待できます。サッカーやラグビーへの復帰も制限はありません。

研究について

我々は、これまで「膝周囲骨切り術」に関して様々な研究を行い、その成果を下記のような英語論文の形で世界へ発信しています。「膝周囲骨切り術」に関しては現在も様々な研究を行っており、より安全な手術と良好な成績の確立、そして患者さんの満足度の向上のため今後も研究を続けていきます。

  • Comparison of the impact of closing wedge versus opening wedge high tibial osteotomy on proximal tibial deformity and subsequent revision to total knee arthroplasty. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2017;25(3):869-875
  • Patient reported outcomes after high tibial osteotomy show comparable results at different ages in the mid-term to long-term follow-up. J Orthop Sci. 2019;24(5):855-860.
  • Comparison of torsional changes in the tibia following a lateral closed or medial open wedge high tibial osteotomy. Knee. 2019;26(2):374-381.
  • Deep peroneal nerve has a potential risk of injury during open-wedge high tibial osteotomy. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2019 [Epub ahead of print].
  • Deep peroneal nerve injury during plate fixation for medial open-wedge high tibial osteotomy: A case report and cadaveric study. Clin Case Rep. 2019;7(11):2225-2230.

最後に

「膝周囲骨切り術」は日本人の健康寿命の延長と生活スタイルの変化に伴い、現在非常に注目されている治療法です。今後、膝関節分野で飛躍的な発展が期待される軟骨や半月板などの再生医療との併用も期待されています。「膝周囲骨切り術」に関して興味のある方、運動したいのに膝の痛みで思うようにできなくて困っている方は、いつでもご相談ください。