音楽家外来

酒井直隆(さかいなおたか)

酒井直隆(さかいなおたか)
卒業年と卒業大学
1979年 山形大学
専門医などの資格
  • 日本整形外科学会専門医
  • 日本リハビリテーション医学会専門医
  • 日本リウマチ学会専門医
  • 日本手外科学会専門医
  • 日本体育協会公認スポーツドクター
  • 日本医師会認定産業医
専門領域と主な術式
  • 手外科 スポーツ整形外科 音楽家医学 ダンス医学

診療概要

音楽家は楽器演奏においてきわめて特殊で精緻な身体運動を強いられ、その結果通常の人では考えられない軽い症状でも演奏に重大な支障をきたします。
音楽家外来は東京女子医科大学附属青山病院でわが国最初の音楽家のための専門外来として始まりました。その後同大学附属成人医学センターを経て、当院で、演奏家のための幅広い専門外来として新たなスタートをきっています。

診療概要

練習を休まずに治療する原則

音楽家外来の最大の特徴は、「練習を休まずに治療する」ことを原則としていることです。楽器演奏には究極の巧みさを求められるため、音楽家は演奏テクニック維持のために毎日の練習を欠かすことができません。特に弾きすぎによるオーバーユース障害は、休めば症状が良くなるかもしれませんが、練習を再開して再発すれば休んだ意味がなくなってしまいます。骨折でギプス固定を要した場合は反対側の健康な手の練習に集中させるなど、毎日の練習を休まずに治療することを第一の原則にしています。
音楽家の体の障害には疾病や外傷によるものと、弾きすぎによるオーバーユース障害とに大別されます。

練習を休まずに治療する原則

音楽家のオーバーユース障害

楽器には鍵盤楽器・管楽器・弦楽器・打楽器があり、各々の種類によって操作方法が異なります。しかし演奏によって酷使される身体部位には共通点があり、多くは上肢に集中しています。
音楽家のオーバーユース障害でもっとも多いのが腱鞘炎で30%を占め、次いで筋肉が骨に付着する部分の付着部炎25%、筋肉痛15%、神経障害15%、関節痛10%が続きます。いずれも手術をせずに、保存的に治療することを原則としています。
神経障害で問題になるのがフォーカル・ジストニアで、これは演奏動作で特定の指が無意識に巻き込んだり、伸びきったりする特殊な疾患です。現在治療法は確立されていませんが、当外来では楽器を使ったリハビリテーションを中心に取り組んでいます。

音楽家のオーバーユース障害

疾病や外傷による障害

音楽家の疾病でもっとも問題になるのは、加齢による疾患です。手指の変形性関節症で代表的なものがへバーデン結節ですが、母指CM関節症や五十肩も演奏動作に大きな支障をもたらします。また最近は演奏家の腰痛や肩こりも問題になっており、骨粗鬆症の治療を受ける音楽家も珍しくありません。
加齢疾患以外で問題になるのは膠原病です。これは音楽家に女性が多いことと関連しますが、膠原病のなかでも代表的な関節リウマチは近年、薬物治療の急速な進歩によって、多くの音楽家が問題なく演奏できるようになりました。

疾病や外傷による障害

バレエダンサーの障害

音楽家外来は今後、バレエダンサーの障害も治療対象にすることを視野に入れています。ダンサーの障害は楽器演奏家とは対照的に、下肢が80%以上を占めます。足関節捻挫や膝の半月板損傷などは一般のスポーツ外傷と同様ですが、ポワントで立つ、股関節を大きく開いて足を高く掲げるなどといった動作はバレエに特有のもので、足の腱鞘炎や股関節の引っかかり感の要因になっています。
そのほかバレエで特徴的なことは、基本ポジションにおける股関節外旋位、男性ダンサーが女性ダンサーを両腕で持ち上げるエレベーション等があります。またバレエダンサーは幼少期から訓練を受けている場合が多い一方で、最近は成人期以降にバレエを習い始める人も増えており、ダンサーの障害に新たな一因をもたらしています。

バレエダンサーの障害