膝前十字靭帯(ACL)を痛めた方へ|新しい治療法の治験について

この治験について

東京女子医科大学病院 整形外科では、膝前十字靭帯(膝を支える大事な靭帯のひとつ)を痛めた方を対象に、新しい再建材料を使った治験を行っています。

今回の治験で使うのは、患者さんご自身の腱を採らずに使える、特殊な処理をした腱です。

今の標準治療について

膝前十字靭帯の手術では、これまで患者さんご自身の腱(太ももやすねの一部)を採って、靭帯の代わりに使う方法が広く行われてきました。

自分の腱を使うので体になじみやすいという良さがありますが、健康な腱を切り取るため、採った場所に痛みやしびれ、力の入りにくさが残ることがあります。

これまでの研究をまとめると、腱を採ったことによる何らかの症状は、およそ2人に1人(約47%)にみられたと報告されています。症状の程度はさまざまで、日常生活にほとんど影響しない方もいます。

採る腱の場所によって、出やすい症状が違います。

  • 膝のお皿の下の腱を採った場合:床に膝をつく動作がつらいと感じる方が、約5人に1人(21%)と報告されています。
  • 太ももの裏の腱を採った場合:採った場所の周りのしびれが多く報告されており、研究によって4割から9割近くと幅があります。また、膝を曲げる力が手術から18年たっても約1割低いままだったという報告もあります。

自家腱を採取する場合の詳しい情報はこちら

今回の治験の特徴

今回の治験で使う腱は、動物由来の腱から、拒絶反応の原因になる部分だけを取り除いて作られています。腱そのものの丈夫さやしなやかさは、できるだけそのまま残しています。

これまでの動物での研究では、体に入れた後、時間とともにご自身の細胞がその腱の中に入り込み、少しずつ自分の組織に置き換わっていくことが確認されています。

この治療法のいちばんの特徴は、靭帯の再建のために、患者さんご自身の健康な腱を採る必要がないことです。そのため、上に書いたような採った場所の痛みやしびれを、避けられる可能性があります。

まだわかっていないこと

この治療法は、今、効果と安全性を確かめている段階です。今までの治療法と比べて、同じくらいかそれ以上に良い結果が得られるかどうかは、まだわかっていません。それを確かめるのが、今回の治験の目的です。

治験に参加するかどうかは、担当医から治験の目的や方法、良い点・注意する点、他の治療法についてよく説明を受けたうえで、患者さんご自身で決めていただきます。

膝前十字靭帯損傷に対する「脱細胞化腱」を用いた治験について(詳細情報)

自家腱を採取することの負担

採取する腱の種類を問わず、自家腱採取に伴う何らかの症状(痛み、しびれ、筋力低下など)は、複数の研究をまとめた報告では対象者全体の47.3%にみられたとされています[1]。症状の内容や頻度は、採取する腱の種類によって異なります。

骨付き膝蓋腱(BTB)を採取した場合、術後の膝前面痛は5.4~48.4%、膝をついたときの痛みは4.0~75.6%と報告されています[2]。膝をつく動作に強い困難を感じる方の割合は、BTBで21.3%、ハムストリング腱で9.4%との報告もあります[3]。

ハムストリング腱(HT、太ももの裏の腱)を採取した場合、採取部周辺の感覚障害やしびれは39.7~88%の方にみられたと報告されています[4]。膝を曲げる力の低下は長期間残ることがあり、ある無作為化比較試験では、術後18年が経過した時点でも、BTBを採取した方と比べて膝を曲げる力が約1割低い状態が続いていたと報告されています[5]。

大腿四頭筋腱(QT)を採取した場合、採取部の合併症はBTBやハムストリング腱より少ない可能性が報告されていますが[6,8]、膝蓋骨骨折(QT採取後2.03% vs BTB採取後0.57%)や大腿四頭筋腱断裂(QT採取後0.52%)などの合併症もまれに報告されています[7]。

脱細胞化腱とは

今回の治験で使用する脱細胞化腱は、生体由来の腱から拒絶反応の原因となる細胞成分を取り除き、腱本来の微細な構造と強度をできる限りそのまま生かすように作られた治験機器です。ラット、ヒツジ、サルを用いた非臨床試験では、移植後に時間の経過とともに患者さんご自身の細胞がグラフト内部に入り込み、自己の組織へ置き換わっていく様子が確認されています。

この治療法の最大の特徴は、前十字靭帯の再建に患者さんご自身の健康な腱を採取する必要がないことです。上記のような採取部位の痛み・しびれ・筋力低下といった負担を、原理的に避けられる可能性があります。

一方で、この治療法は現在、有効性と安全性を確認している段階にあります。標準治療と同等以上の効果が確認されているわけではなく、それを確かめることが今回の治験の目的です。治験への参加をご検討いただく場合は、担当医から治験の目的、方法、期待される利益と起こり得る不利益、他の治療選択肢について十分な説明を受けたうえで、患者さんご自身の意思で参加を決めていただきます。

対象となる可能性がある方

  • 18歳以上45歳未満の方
  • 膝前十字靭帯損傷または断裂と診断され、手術が必要と判断された方

参加には上記以外にも条件があります。詳しくは当科医師にご相談ください。

お問い合わせ

膝前十字靭帯損傷と診断され、脱細胞化腱を用いた治験について詳しく知りたい方は、東京女子医科大学病院 整形外科までお問い合わせください。

東京女子医科大学病院 代表電話:03-3353-8111

整形外科医局 内線:37313

参考文献

1. Kunze KN, et al. Lower donor site morbidity with hamstring and quadriceps tendon autograft compared with bone-patellar tendon-bone autograft after anterior cruciate ligament reconstruction: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2023.

2. Peebles LA, et al. Following anterior cruciate ligament reconstruction with bone-patellar tendon-bone autograft, the incidence of anterior knee pain ranges from 5.4% to 48.4% and the incidence of kneeling pain ranges from 4.0% to 75.6%: a systematic review of level I studies. Arthrosc Sports Med Rehabil. 2024.

3. Rahardja R, et al. Severe kneeling difficulty after anterior cruciate ligament reconstruction: comparison of bone-patellar tendon-bone and hamstring tendon autografts. Am J Sports Med. 2023.

4. Hardy A, et al. Complications following harvesting of patellar tendon or hamstring tendon autografts for anterior cruciate ligament reconstruction: a systematic review. Orthop Traumatol Surg Res. 2017.

5. Popovic N, et al. Long-term (18-year) results of a prospective randomized study comparing bone-patellar tendon-bone and hamstring tendon autografts for anterior cruciate ligament reconstruction. Am J Sports Med. 2024.

6. Dai W, et al. Quadriceps tendon autograft versus bone-patellar tendon-bone and hamstring tendon autografts for anterior cruciate ligament reconstruction: a systematic review and meta-analysis of comparative studies. Am J Sports Med. 2022.

7. Trasolini NA, et al. Knee extensor mechanism complications after autograft harvest in ACL reconstruction: a systematic review and meta-analysis. Orthop J Sports Med. 2023.

8. Jackson GR, et al. Adverse events and complications after primary ACL reconstruction with quadriceps tendon autograft: a systematic review. Orthop J Sports Med. 2023.