頭痛によく使われる漢方薬

代表的なものを概説しますが、実際は問診と腹診などの漢方的診察から総合的に判断し、下記も含めた数多くの種類の漢方薬を使い分けています。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

片頭痛や常習性の頭痛に頻用されますが、頓服的に用いても良いし、頭痛のないときに継続服用で頭痛の頻度の低下を期待して使うことも多いです。体質的には冷え症で嘔気、嘔吐、げっぷを伴う場合によいです。また体を温めますし、月経痛にも効果があります。昭和の漢方の大家である大塚敬節先生は、はげしい頭痛、肩から首にかけて凝る、嘔気、嘔吐などに用いていたようです。漢方薬の中でも特に苦いのは注意です。

五苓散(ごれいさん)

水のバランスを調整する利水作用をもつ生薬でほとんどを構成しており、いわゆる「水毒(あるいは水滞)」に対する薬で、様々な症状に頻用される代表的な漢方薬です。天気の悪い日に起こる、気圧の変化で起こるといような場合は水毒と考えられ、そのような傾向のある頭痛、めまいなどの症状によく使われます。診察上は体のむくみ、舌の歯痕なども参考に使用します。

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

漢方的には水毒に加え、気逆(急な気の上衝)の状態に使用します。頭痛、めまい、のぼせ、動悸などに使用しますが、特に立ちくらみ傾向のある人にはよく効く薬で、個人的にはよく処方する薬です。

釣藤散(ちょうとうさん)

慢性の頭痛、頭重感、頭冒感、めまい感などに用いますが、早朝の覚醒時に症状が強く、神経質で愁訴が多く、焦燥感、抑うつ傾向の場合によく効きます。中心生薬である釣藤鈎は鎮静作用があり、また目に良い菊花という生薬が入っているのも特徴です。健胃生薬も複数入っており胃腸にもやさしいです。

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

胃腸虚弱者の水毒体質で手足が冷え、肩こりのある頭痛、めまいに用いる漢方薬です。健胃生薬も多く入っており、他の漢方薬にはない天麻という生薬が、鎮痛・鎮静作用を持ち、特に頭上の症状によいと考えられています。生薬数は12種類以上と多いですが、各製薬会社により、生薬構成に若干の違いがあります。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

漢方的には水毒、血虚(血が足らない)、瘀血(おけつ: 血の巡りが悪い)などを使用目標にして女性によく頻用されている漢方薬です。色白、皮膚はもち肌で、月経障害、冷え、腹痛、立ちくらみ、めまいがあるかたの頭痛にもよく用いられます。男性にも使用できます。

川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)

古医学書には感冒時の頭痛、頭重感、鼻閉に用いていたようですが、慢性の頭痛一般に効果があります。構成生薬の川芎、薄荷(はっか)、香附子(こうぶし)は鎮静作用、防風、白芷(びゃくし)は鎮痛作用と構成生薬のほとんどに鎮静鎮痛作用があり、茶葉には頭と目に明らかにするという効能があることから、ストレスをかかえ、目と鼻に症状のある頭痛に用いています。

葛根湯(かっこんとう)

風邪のひきはじめで、寒気がして汗をまだかいておらず、項背がこわばる時に用いることで有名な漢方薬ですが、慢性的な頭痛、肩こり等にも用います。生薬の葛根に頸部の筋緊張を緩める作用があり、後頸部から背中にかけての凝りが目立つような緊張型頭痛に有効です。構成生薬の麻黄(まおう)にエフェドリンという交感神経を亢進させる成分があることから、動悸、頻脈、不眠、排尿障害、胃部不快感の副作用および狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患の既往のあるかたには注意が必要です。また葛根の量は各製薬会社によって異なります。

柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

本来は急性発熱性疾患に罹患後、数日経てまだこじらしているような呼吸症状、胃腸症状などに使う漢方薬ですが、慢性的な頭痛など多くの症状にも有効です。特徴的な腹部所見(胸脇苦満、腹直筋攣急)をもとに使用されることが多いのですが、心因的な疼痛、心身症によく効きます。個人的には小児、思春期の頭痛によく効く印象をもっています。

桂枝加桂湯(けいしかけいとう)

古医学書には奔豚(ほんとん)とよばれる、腹部から衝きあがってくる感じの頭痛、のぼせ、めまい、精神症状に使用されていました。実際にそのような傾向のある慢性的な頭痛やめまいにも効果があります。医療用エキス製剤にはない薬ので、当院では煎じ薬で対応しています。

清上蠲痛湯(せいじょうけんつうとう)

気うつ、瘀血、水毒で冷えによる疼痛を訴える場合によいと考えられていますが、『寿世保元』という古医学書に一切の頭痛に効くとあるように、治療に難渋していたけれども、これで治ってしまったという例が散見されます。医療用エキス製剤にはないので、当院では煎じ薬で対応しています。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

古典的には腎虚の薬で、腰以下の運動器、泌尿器科的な諸症状があり、下腹部の筋緊張が低下している小腹不仁とよばれる腹部所見をもとに使用します。腰以下、下半身の症状に着目しがちな薬なのですが、意外にも頭痛に効く例があり、昭和の漢方の大家である大塚敬節先生も頭痛に使用していたようです。腎虚と考えた場合に使用することがあります。

参考文献: 稲木一元・著 『臨床医のための漢方薬概論』 南山堂