細胞シート工学による再生医療

細胞シートは縫合糸を使わずに、短時間で生体組織に移植することができます。この細胞シートの特性を利用し様々な疾患の治療や組織再生を展開しています。

口腔粘膜上皮細胞シートによる角膜再生

 外傷やスティーブンス・ジョンソン症候群などにより角膜上皮幹細胞が消失すると、角膜上皮幹細胞疲弊症となり角膜表面が結膜上皮等に被覆され、角膜が濁ることで視力が低下します。大阪大学眼科学教室の西田幸二教授らの研究グループと共同で作製した自己培養口腔粘膜上皮細胞シートを損傷した角膜部位に移植することで、角膜上皮幹細胞疲弊症を治療する方法を開発しました。

口腔粘膜上皮細胞シートによる食道粘膜再生

 表在性食道癌の内視鏡的粘膜切除術による食道狭窄は、患者さんのQOLを下げる原因となっていました。本学消化器外科山本雅一教授、大木岳志講師らとの共同研究において、培養自己口腔粘膜上皮細胞シートは食道狭窄を予防することを見出し、本学および長崎大学病院にて臨床研究が実施されました。現在、株式会社セルシード社では同細胞シートによる治療を実施しています。一方で、食道狭窄拡張術後の口腔粘膜シート移植は狭窄再発を抑制することが前臨床試験にて示されました。この手法は、友愛会豊見城中央病院および国立成育医療研究センターにて実施されている臨床研究に応用されています。

軟骨細胞シートによる関節軟骨再生

 変形性膝関節症は罹患率の高い進行性かつ難治性疾患で、高齢化社会において根治療法が期待されている疾患のひとつです。東海大学医学部外科学系整形外科学の佐藤正人教授らと共に自己軟骨細胞シート移植による関節軟骨再生の臨床研究から同治療の有効性を確認しています。本治療は先進医療として認可を受け、新しい軟骨再生治療としての普及が期待されます。

細胞シートによる心臓の再生医療

 重症化した心不全に対する心臓移植については依然としてドナー不足の問題や免疫拒絶の問題などが残っています。心臓移植に代わる治療法として大阪大学心臓血管外科の澤芳樹教授らの研究グループと共同で骨格筋芽細胞シート移植による心不全治療法を開発しました。同手法はテルモ株式会社により2015年に厚生労働省から初めて細胞シートによる再生医療製品として条件付き承認を得ました。さらに2020年には、ヒトiPS細胞由来心筋シート移植が世界で初めて実施されました。このように、これまで心臓移植しかなかった重症心不全治療に新たな可能性を開いています。

鼻粘膜上皮細胞シートによる鼓室形成術

 鼓室形成術は真珠腫除去や癒着性中耳炎の治療で行われる手術療法です。術後に障害された中耳粘膜の早期再生は、鼓膜の再癒着や真珠腫の再発防止に重要であることが知られています。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科の小島博己教授らのグループと共同で鼻粘膜上皮細胞シート移植による中耳粘膜再生治療を開発し、臨床研究で良好な結果を得ました。現在、本治療の普及を目指し、株式会社J-TECHとの治験実施にむけた準備を進めています。

歯根膜由来細胞シートによる歯周組織再生治療

 40歳以上の約4割が罹患している歯槽骨の破壊をともなう歯周炎において、広範な欠損に対しては高い治療法が存在しませんでした。本学の石川烈教授と岩田隆紀教授(現在は東京医科歯科大学に所属)らは、歯根膜組織由来の細胞シートの歯周病患部への移植が歯周組織再生に有効であることを臨床試験で確認しました。現在、既存のち療法では治すことのできない重度の歯周炎患者を対象に医師主導治験を本学歯科口腔外科学講座の安藤智博教授らと共に実施しています。また、ヒト歯根膜細胞バンクで保存した他家細胞から製造した細胞シートによる治験を株式会社セルシードと東京医科歯科大学と共同で実施しています。

線維芽細胞シートによる肺気漏閉鎖

 術後肺気漏は、肺切除に伴う呼吸器外科手術の合併症の一つですが、現在でも肺気漏を完全に予防する術式は開発されていません。本学呼吸器外科学の神崎正人教授らは、線維芽細胞シートが術後気漏防止のバイオシーラントとして有効であることを前臨床試験にて示してきました。現在、自己皮膚由来線維芽細胞シート移植による肺気漏閉鎖治療の安全性、有用性を確認するための臨床研究を実施しています。

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