温度応答性培養皿の発明と次世代バイオマテリアル界面

温度応答性培養皿UpCell®の開発とさらなる次世代型温度応答性培養皿のプラットフォーム技術の開発

 1989年に岡野光夫教授らは、均一な20ナノメートル膜厚の温度応答性高分子ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)を電子線重合法で表面修飾した温度応答性培養皿を発明しました(UpCell®の製品名で販売中)。この培養皿は、37℃で細胞を培養、単層化させた後に、20℃に低下するだけで細胞シートをその構造と機能を損なうことなく剥離、回収することができ、この発明により単層細胞シートの生体移植、積層化三次元組織の構築が可能です。

 現在、電子線照射装置などの大型設備が不要な、製造コスト削減による量産化を目指した温度応答性培養皿の開発を行っています。温度応答性ブロックと疎水性ブロックからなるブロック共重合体を培養皿表面に物理コーティングすることで、水中で安定な温度応答性なの薄膜表面を形成させることに成功しました。この手法は、薄膜厚をナノスケールで容易に制御でき、細胞の接着性に応じて表面をカスタマイズすることも可能となりました。

 また、温度応答性高分子を修飾した伸展性培養基材の開発も行っています。基材の伸展/弛緩にともない温度応答性高分子薄膜の厚さを変化させ、温度変化と併用することで細胞の接着と脱着を加速化できました。さらに、伸展性基材を周期的に伸展/弛緩させることも可能であり、接着細胞への配向性付与や生理的機能を向上させた細胞シート作製への応用が期待されます。

生体組織のナノ/マイクロ構造を再現する次世代温度応答性培養表面の創出

 ナノメートルスケール分子設計とマイクロ加工技術を駆使した次世代型温度応答性培養皿を開発し、生体組織と同様の構造を有する三次元細胞組織の構築を目指しています。ヘパリン分子を修飾した温度応答性培養皿は、細胞外マトリックスや細胞膜表面のプロテオグリカンと同様、増殖因子の安定性や活性を向上させ、培養肝細胞の肝特異的機能(アルブミン産生能など)を維持、亢進します。また、温度低下により肝細胞シートを回収できることから、血友病など肝疾患の治療を目的とした肝組織再生や、薬物スクリーニングのため生体外組織モデルとしての応用が期待されます。

 生体特有の機能を発揮させるためには、生体の複雑なマイクロ構造の再現も重要です。例えば、筋肉の組織は筋繊維が同じ方向に並ぶことで筋収縮等の力学的な機能を発揮します。微細加工技術により細胞接着性が異なる2種類の高分子をストライプ幅50μmに配列された基材を用いると、細胞を同一方向に整列させることができます。さらに、整列した細胞集団を細胞シートとして剥離させ、配向性を維持したまま三次元積層化細胞シート組織を作製できることもわかっています。細胞シート技術に配向性を付与するアプローチは骨格筋や心筋組織、さらに靭帯のような配向構造が重要な要素となる組織の再生に役立つと期待されています。

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