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研究内容

発達期の神経回路改編

神経回路は生まれてきた段階では未成熟であり、生後発達に伴って完成されていきます。その過程で神経回路は一旦過剰に生成され、その後余分な回路を削除することによって洗練された神経回路が完成します。我々はげっ歯類のヒゲ感覚経路にある視床の神経回路をモデルとして、神経細胞同士の接続部であるシナプスの性質が神経回路の成熟に伴ってどのように変化していくのかを研究しています。

この過程において、シナプスの送り手側と受け手側ではそれぞれどのような変化が生じているのか?これらの成熟過程は動物の生育環境によってどのように影響を受けるのか?性差の影響はあるのか?といった観点から発達期の神経回路改編の実態と脳機能への影響を理解したいと考え、マウス遺伝学、光遺伝学、組織学、電気生理学、行動実験などを駆使いて研究を行っています。

末梢神経損傷における上位中枢神経回路のシナプスのリモデリング機構

 末梢神経損傷や四肢の切断は、幻肢痛などの神経障害性疼痛を引き起こすことが多いです。幻肢痛の原因は、不適応な可塑性による大脳皮質および視床回路の機能的リモデリングであるとする説が一般的です。この説では、体性感覚情報が他の部位から異所性の入力を受け取るような回路に改編され、視床回路に混線が生じることで感覚情報処理の不具合が生じると考えられています。これまでに我々は、眼窩下神経の切断あるいは結紮による末梢神経損傷モデルマウスを用いて、視床のヒゲ感覚回路のリモデリングと異所性の機械痛覚過敏の機能的関係を報告してきました。我々は体性感覚視床の中継細胞に入力する2種類の興奮性シナプス入力および1種類の抑制性シナプス入力に注目し、末梢神経損傷による視床のヒゲ感覚回路のリモデリング機構を、分子、細胞、回路の複数のレベルにわたって明らかにすることを目的としています。


Figure: Circuit in the primary somatosensory thalamic nuclei

痛みの神経回路に関する研究

 痛みを感じるメカニズムは複雑です。我々は皮膚から送られてきた「痛みシグナル」が脳で主観的な「痛み体験」に変化する過程において、視床-大脳皮質回路の果たす役割を研究しています。我々はこれまでに、一次体性感覚野の中に触覚よりも痛覚を選択的にエンコードする領域(寡顆粒皮質領域)があることを発見し、視床から寡顆粒皮質領域へのシグナル伝達を抑制することで痛み応答を抑制できることを明らかにしました。我々は、この視床‐大脳皮質回路の異常が、中枢性疼痛の一因ではないかと考えています。中枢性疼痛の発生メカニズムを明らかにし、また治療法確立の一助となることを目指して、(1)痛みシグナルはどのような経路で視床へ至るか?(2)触覚や固有感覚など他の体性感覚と痛覚は視床でどのように統合されているのか?(3)疼痛モデル動物においては末梢体性感覚器→視床→一次体性感覚野のシグナル伝達はどのように変化しているのか?といった問題に着目し、マウス遺伝学、光遺伝学、組織学、電気生理学、行動実験などを組み合わせて研究しています。

幹細胞を用いた末梢神経再生プロジェクト

 損傷した末梢神経を再生させるためには、機能的に適切な末梢神経の迅速な再生が必要です。そこで、当院の形成外科との共同研究で幹細胞を用いた末梢神経再生研究を行い、再生神経の機能解析を定量的に行いながら、より効率的な神経再生方法を探っています。