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がんゲノム外来について
東京女子医科大学病院のがんゲノム外来について
当院では、患者さん一人ひとりの「がん」の遺伝子情報を詳しく調べ、その結果に基づいてより適切な治療法を探ることを目的とした「がんゲノム外来」を開設しております。
現在、東京女子医科大学病院は、厚生労働省が指定する「がんゲノム医療連携病院」ではありません。そのため、がんゲノム外来で患者さんの検体(がん組織など)を用いた遺伝子検査を行う場合、東京女子医科大学附属足立医療センターを介して検査会社に提出します。
具体的には、
1. がんゲノム外来を受診:
当院で治療を受けている方は主治医から「がんゲノム外来」の予約していただきます。院外からのがんゲノム外来の受診を希望される方はかかりつけ医から紹介状と画像検査などの資料を受け取ってから初診予約をしてください。がんゲノム外来では医師が患者さんの病状や治療歴などを詳しくお伺いします。
2. 遺伝子検査の説明と同意
医師より、がんゲノム検査の内容、目的、費用、結果が出るまでの期間、および検査を行うことの意義や限界、起こりうる可能性のあることなどについて詳しくご説明いたします。
3. 検体の提出
検査に必要な検体(手術で摘出されたがん組織や、生検で採取された組織など)の確認を行います。
4. 東京女子医科大学附属足立医療センターへ提出
ご準備いただいた検体は、当院より東京女子医科大学附属足立医療センターへ送るとともに足立医療センターへの受診日の調整を行います。
5. 東京女子医科大学附属足立医療センターへの受診
足立医療センターで検査説明を再度行い、検査について十分理解し文書同意を得られたら、検査会社に検体の提出を行います。
6. 検査結果の説明
検査機関での解析後、足立医療センターにおいて検査報告書を受け取ります。後日、改めてがんゲノム外来を受診していただき、医師より検査結果の詳細な説明と、今後の治療方針についてのご提案を行います。
ご理解いただきたい点
- 当院は現在、がんゲノム医療連携病院ではないため、検査の実施および結果の解釈、治療方針の決定においては、連携病院である東京女子医科大学附属足立医療センターとの連携を取りながら進めてまいります。
- 検査報告書が届くまで2か月程度の時間を有する場合があります。
- 検査の結果によっては、必ずしも適合する治療法が見つかるとは限りません。また、保険適用とならない検査もありますので、事前に医師にご確認ください。
がんゲノム医療にご興味のある方、ご自身の治療についてより詳しく知りたい方は、まずは当院のがんゲノム外来までお気軽にご相談ください。
がんの遺伝子異常とは
私たち人間の体は、約37兆個もの細胞からできており、それぞれの細胞の中には、体の設計図である「遺伝子」が含まれています。この遺伝子は、細胞の成長、分裂、機能などをコントロールする重要な役割を担っています。
がんの遺伝子異常とは、この遺伝子の設計図に起こった変化(傷や間違い)のことを指します。正常な細胞では、遺伝子の指示に従って適切なタイミングで成長したり、分裂を止めたりしますが、遺伝子に異常が起こると、この制御がうまくいかなくなり、無秩序に増え続け、周りの組織を壊しながら広がっていくのががんの特徴です。
例えるなら、遺伝子は車のエンジンの設計図のようなものです。正常な設計図通りに作られたエンジンは、適切なスピードで動いたり止まったりできます。しかし、設計図に間違いがあると、アクセルが壊れて止まらなくなったり、ブレーキが効かなくなったりするような状態が、がん細胞で起こっていると考えられます。
なぜ遺伝子異常が起こるのか
遺伝子異常が起こる原因は様々です。
- 細胞分裂の際のコピーミス:細胞が分裂して増える際に、遺伝情報がコピーされますが、その際に稀に間違いが起こるこ
とがあります。- 外部からの影響:紫外線、放射線、喫煙、特定の化学物質などが遺伝子を傷つけることがあります。
- 偶発的な変化:特に明らかな原因がなくても、細胞の活動の中で自然に遺伝子に変化が起こることがあります。
- 遺伝的な要因:親から子へ受け継がれる遺伝子の中に、がんになりやすい変化が含まれている場合があります(遺伝性腫瘍)
なぜがんの遺伝子異常が治療に結び付くのか
近年、がんの遺伝子異常に関する研究が飛躍的に進み、がんの種類ごとに、どのような遺伝子異常が起こりやすいのか、また、その異常ががんの成長や進行にどのように関わっているのかが詳しく分かってきました。
この知識を活かすことで、以下のような新しい治療法や検査法が開発され、実用化されています。
- 分子標的薬:特定の遺伝子異常によって作られる異常なタンパク質の働きをピンポイントで抑える薬です。例えば、特定の肺がんでは「EGFR」という遺伝子の異常が見つかることがあり、この異常なEGFRタンパク質を標的とする分子標的薬が開発されています。正常な細胞への影響を抑えつつ、がん細胞の増殖を効果的に抑えることが期待できます。
- 免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、免疫細胞の働きを抑える仕組みを持っています。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキのような仕組みを解除し、免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を再び活性化させる薬です。がん細胞の遺伝子変異が多いほど、免疫細胞に認識されやすくなるため、特定の遺伝子異常を持つがんに対して特に効果が期待できる場合があります。
- がん遺伝子パネル検査:一度に多数の遺伝子異常を調べる検査です。この検査によって、患者さんのがん細胞にどのような遺伝子異常があるのかを詳しく調べることができます。その結果に基づいて、効果が期待できる分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬、あるいは臨床試験の情報などを探し、より個別化された治療戦略を立てることが可能になります。
つまり、がんの遺伝子異常を詳しく知ることで、そのがんの「弱点」を見つけ出し、その弱点を狙い撃ちするような、より効果的で副作用の少ない治療法を選択できる可能性が広がっているのです。
ただし、遺伝子異常が見つかったとしても、必ずしも有効な治療法が存在するとは限りません。遺伝子異常が治療の標的とならない場合や現存の治療では効果が期待できない場合もあります。また、保険適用となる治療法や検査には条件がある場合もあります。そのため、がん遺伝子パネル検査や遺伝子異常に基づいた治療については、がん治療の専門医と十分に相談し、理解した上で検査することが重要です。
がん遺伝子パネル検査とは? ~あなたのがん、もっと詳しく~
次世代シークエンサー(NGS)は2005年頃から実用化され始め、DNA解析を飛躍的に高速化しました。日本においては、2010年代後半からNGS技術を用いた遺伝子パネル検査の研究開発が進み、2018年12月に「FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル」と「OncoGuide™ NCCオンコパネル システム」の2つのがん遺伝子パネル検査が日本で初めて承認を受けました。その後、2019年6月からはこれらを含むがん遺伝子パネル検査が保険適用となり、がんゲノム医療が日本でも本格的に発展し始めました。
検査の目的
がん細胞の特徴をゲノム解析によって網羅的に調べ、がんと関連する多数の遺伝子の状態を確認することを通して、あなたのがんの特徴を調べ、適切な薬剤や治療法、あなたが参加できる可能性がある臨床試験・治験の有無を専門家チームが検討し、その結果をお伝えする検査です。
- 治療法の選択:特定の遺伝子変異が見つかった場合、その変異に有効な分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの治療法が見つかることがあります。これにより、より個別化された精密な医療(プレシジョンメディシン)の提供が可能になります。
- 臨床試験(特に治験)への参加:遺伝子変異の種類によっては、現在開発中の新しい治療法に関する臨床試験への参加を検討できる場合もあります。
- 予後予測:特定の遺伝子変異を検出することにより、がんの進行や治療効果に与える影響を予測する研究が行われています(未だ、実臨床では応用されていません)。
- 遺伝性腫瘍の可能性:まれに、がんの原因となる遺伝性の変異が見つかることがあります。この場合、ご家族への遺伝カウンセリングやリスク評価につながることがあります。
保険承認されている主な遺伝子パネルの種類
現在、日本国内で保険承認されている主な遺伝子パネル検査には、以下のようなものがあります。これらのパネルは、がんの種類や進行度などによって選択されます。
- OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム
国立がん研究センターが開発。114個の遺伝子とマイクロサテライト不安定性(MSI)などを解析。マッチドペア検査(がん組織と正常組織を比較)が特徴。- FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル
固形がん全般を対象。300以上の遺伝子とバイオマーカーを解析。治療薬や臨床試験の情報が豊富。- FoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイル
血液検体(リキッドバイオプシー)を用いる。固形がんを対象に、組織検体での検査が難しい場合に検討。- Guardant360® CDxがん遺伝子パネル
血液検体(リキッドバイオプシー)を用いる。74個の遺伝子を解析。進行がんなどで組織検体採取が困難な場合に有用。- GenMineTOP® がんゲノムプロファイリングシステム
737個の遺伝子と多数の融合遺伝子を解析。包括的な遺伝子情報を取得できる。
がん遺伝子パネル検査の限界
がん遺伝子パネル検査の限界も存在します。前述のとおり変異が見つかっても、必ずしも有効な治療法が存在するとは限りません。また、検出された変異の中には、臨床的な意義がまだ解明されていないものも多く含まれます。検査結果の解釈には専門知識が必要であり、遺伝カウンセリング体制の充実が不可欠です。さらに、検査費用や解析にかかる時間も考慮すべき点です。個人情報である遺伝情報の取り扱いにおける倫理的な課題や、保険適用範囲なども重要な検討事項となります。
がん遺伝子パネル検査は、がん医療の発展に不可欠なツールですが、その結果を過信することなく、医師との十分な相談と理解に基づいた上で、治療方針を決定することが重要です。