Heart Failure HandBook
心不全ハンドブック
当院では「心不全ハンドブック」を用いて、心不全患者さんやその家族に対して心不全に関する指導・教育を行っています。
心臓について
心臓の機能
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。 心臓は「右心房」「右心室」「左心房」「左心室」と呼ばれる4つの部屋に別れており、それぞれの部屋は「弁」で区切られています。 また心臓の筋肉に酸素や栄養を届けるための血管を「冠動脈」と呼びます。
代表的な心臓病
虚血性心疾患
心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が何らかの原因で狭くなり、つまってしまう病気です。心臓の筋肉に血液が十分送れなくなる「狭心症」と、心臓の筋肉の一部が死んでしまう「心筋梗塞」があります。動脈硬化の原因には高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、肥満、喫煙、運動不足などがあります
| 狭心症 | 心筋梗塞 | |
|---|---|---|
| 病態 |
|
|
| 胸の痛み |
締め付けられるような痛み 徐々に痛みが強くなる |
焼けつくような痛み 突然の強い痛み |
| 発作の持続時間 | 数分ほどの短い発作 | 30 分以上持続する |
| 起こり方 | 労作時や安静時に起こる | 労作とは無関係に起こる |
弁膜症
心臓の弁の開閉が悪くなる病気です。主に「大動脈弁狭窄症」「大動脈弁逆流症」「僧帽弁狭窄症」「僧帽弁逆流症」などがあります
心筋症
心臓の筋肉の働きが低下します。主に「拡張型心筋症」「肥大型心筋症」などがあります
高血圧
高血圧が長く続くと、血管や心臓に負担がかかり、心臓の機能が低下します
不整脈
「心房細動」などの不整脈は、心臓の機能が低下することがあります
先天性心疾患
心臓やその周りの血管の生まれつきの異常により、心臓の機能が低下します
心臓病の検査
胸部レントゲン
心臓の大きさや形、肺に水分が溜まっているかどうかを判断します
心臓エコー図検査(超音波検査)
人体に無害な超音波を使用する検査です。心臓の動きや、大きさ、血流の状態を見ます。痛みはありません
心電図
心臓の電気的な変化を記録します。心筋梗塞、狭心症、不整脈などの診断ができます
心臓核医学検査
微量の放射線を発する物質を用いて行う検査です。心臓の血流の状態や心筋の状態を調べます
BNP
血液検査で調べます。心臓に負担がかかかると上昇する検査値です
カテーテル検査
カテーテルという細い管を、腕または足の付根の動脈(または静脈)から挿入し、心臓の動き、弁の動き、冠動脈の状態を検査します。心不全の重症度の評価を行い、現状の把握をし、今後の治療方針を決定します。局所麻酔で行います。検査前の食事は食べられません。検査後は止血のために安静があります
心臓病の治療
心不全の原因、心不全の状態、全身の状態によって治療方法を選択します
薬物治療
内服薬や点滴薬による治療を行います。内服薬は病気の再発を予防し、進行を抑えるために内服します。症状が改善しても継続して内服してください。自己判断で中止したり飲み忘れがないようにしましょう
| 薬の名前 | 効果 | |
|---|---|---|
| ベーター遮断薬 | カルベジロール、ビソプロロールフマル、アテノロール、メトプロロールなど | 心臓の興奮を抑え、血圧を下げ、心臓の負担を軽くしたり、脈の速さを調節します |
| ACE 阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 | エナラプリルマレイン酸塩、 ロサルタンカリウム、 カンデサルタンなど | 血管を拡げて血圧を下げ、心臓の負担を軽くしたり、心筋を保護します |
| アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 | サクビトリルバルサルタン | 心筋の保護や尿量を増やす効果があります。 |
| 利尿薬 | フロセミド、トリクロルメチアジド、トルバプタンなど | 尿量を増やして、むくみや血圧を改善します |
| SGLT2阻害薬 | ダパグリフロジン、エンパグリフロジン | 心筋の保護や尿量を増やす効果があります。 |
| 強心剤 | ピモベンダン、ジゴキシンなど | 心臓の働きを助け、血液の循環を改善します |
| 硝酸薬 | 硝酸イソソルビド、ニトログリセリンなど | 心臓の血管を拡げたり、血圧を下げ、狭心症の発作を予防したり、心臓の負担を軽くします |
| カルシウム拮抗薬 | ニフェジピン、アムロジピンベシル酸塩など | 血管を拡げて心臓の負担を軽くし、血圧を下げます |
| 抗血小板薬 | アスピリン、 プラスグレル、クロピドグレル、シロスタゾールなど | 血液をさらさらにして、固まりにくくします。カテーテル治療した方は内服します |
| 抗凝固剤 | ワルファリンカリウム、リバーロキサバンなど | 血液をさらさらにし、血液を固まりにくくします |
虚血性心疾患の治療
狭くなった冠動脈をカテーテル治療で広げたり、冠動脈バイパス手術を行なって、心臓への血流を改善します
不整脈の治療
弁膜に狭窄や逆流がある場合は、程度に応じて外科手術やカテーテル治療をすることがあります
弁膜症(狭窄症、逆流症)の治療
高血圧が長く続くと、血管や心臓に負担がかかり、心臓の機能が低下します
心臓再同期療法(CRT、CRTD)
心臓の収縮するタイミングがズレている場合は、その動きを調整して、心臓の収縮能の改善を図るために、植込み型の機器を体内に植え込みます
陽圧呼吸療法(ASV、CPAP)
心不全の患者さんは睡眠時無呼吸症候群(睡眠時の異常ないびき、無呼吸)を合併することがあります。睡眠時無呼吸症候群は心不全を悪化する原因となることもあります。その場合は陽圧呼吸療法を行うことがあります。また重症の心不全で入退院を繰り返す方は、睡眠時無呼吸がなくても、陽圧呼吸療法を行うことで心不全を軽減したり、予防できることがあります。マスクを装着し、専用の機械に取り付けると、強い酸素が送り出されます
補助人工心臓、心臓移植
補助人工心臓は、心不全により著しく機能が低下した心臓の代わりに、ポンプを体内に植え込んでポンプ機能を補う治療法です。また非常に重篤な心不全では、他の方の健康な心臓を移植して機能を回復させる治療法です
心不全の原因と悪化する要因
心不全の原因と悪化する要因
心不全の症状
● 息が苦しくて眠れない
● 食欲がない
● 尿の回数が減った
心不全は増悪を繰り返します
心不全の特徴は増悪(症状が悪くなる)と寛解(症状がなくなり、調子がよくなる)を繰り返し、徐々に心機能が低下し、状態が悪化することで、生活の質が低 下していきます。そのためには、退院後の生活に留意して、心不全を悪化させずに、できるだけ症状のない期間を伸ばし、いきいきとした生活を送ることが目標になります
【心不全と上手に付き合うためには ~心不全自己管理のすすめ~ 第 1~4 話】循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「地域におけるかかりつけ医等を中心とした心不全の診療提供体制構築のための研究」班作成,https://plaza.umin.ac.jp/isobegroup/_lib/wp-content/uploads/2019/09/Episode1-4.pdf(2019.10.24 閲覧)
心臓病と付き合っていくコツ(心臓リハビリテーション)
血圧や症状を観察し、記録しましょう
毎日、起床時の排尿後に「血圧測定」と「体重測定」をします。また「足のむくみの程度」や「息切れ」「動悸」といった症状がないかを確認し、心不全が悪くなっていないか、自分で観察し、記録します。体調や症状を記録することで、病状の悪化を早期発見できます
心不全症状の観察ポイント
□ 息切れしやすくなっていませんか
□ 風邪もひいていないのに、咳や痰がひどくないですか?
□ 睡眠時、息苦しくて目が覚めることがありませんか?
□ 食欲がなかったり、体がだるいことはありませんか?
□ 尿の出が悪くなったり、少なくなったりしていませんか?
□ 足がむくんでいませんか?
□ 体重が数日で2キロ以上増えていませんか?
食 事
塩分は1日 6g以下を目安にしましょう
減塩のポイント
主な食品に含まれる塩分量の目安
| 調味料 |
食塩
小さじ1
|
ソース
大さじ1
|
しょうゆ
大さじ1
|
減塩しょうゆ
大さじ1
|
みそ
大さじ1
|
トマトケチャップ
大さじ1
|
マヨネーズ
大さじ1
|
バター
大さじ1
|
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
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約5g |
約1.3g |
約2.6g |
約1.3g |
約1.9g |
約0.6g |
約0.6g |
約0.3g |
|
| 加工食品 |
食パン
1枚60g
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ゆでうどん
1玉300g
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ちくわ
1本100g
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梅干し
1個10g
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塩鮭
1切80g
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プロセスチーズ
1切20g
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薄切りハム
1枚20g
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焼豚
1切れ25g
|
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|
約0.8g |
約0.9g |
約2.4g |
約2g |
約4.6g |
約0.6g |
約0.6g |
約0.6g |
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| 外食 |
ざるそば
1人前
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ラーメン
1人前
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天丼
1人前
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牛丼
1人前
|
カレーライス
1人前
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豚の生姜焼き
1人前
|
ハンバーグ
1人前
|
サンドイッチ
1人前
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|
約3g |
約6.3g |
約4g |
約5.3g |
約4.4g |
約2g |
約3.1g |
約2.3g |
塩分は1日 脂質の量と質に注意しましょう
脂質は身体に欠かせない大切な働きをしています。しかし過剰に摂りすぎてしまうと、動脈硬化を促進させ虚血性心疾患を悪化させてしまいます。 量と質には注意が必要です
魚類には血液をサラサラにしたり、中性脂肪を下げる効果のある不飽和脂肪酸が多く含まれていますしっかり摂取するようにしましょう
肉類の脂身や牛乳、バター、チーズには動脈硬化を促進する飽和脂肪酸が多く含まれていますので、摂り過ぎに注意しましょう
食物繊維の多い食品(野菜、芋 類、豆類、きのこ、こんにゃく、海 藻)はコレステロールの排出に効果的です。しっかり摂取しましょう
コレステロールを多く含む食品は控えめに
コレステロールの多い食品(卵、えび、魚卵、脂身の多い肉類)の摂り過ぎに注意しましょう(イカやタコにもコレステロールは多く含まれていますが、タウリンも含んでおり、肝臓からの胆汁酸分泌を促進し、反対にコレステロールを下げるといわれています)
コレステロールを上げてしまう食事
コレステロールを多く含む食品
飲酒
多量の飲酒は、血圧や脈拍が増加し心臓への負担が大きくなるだけでなく、糖尿病のリスクも増加します。また肝臓病や膵臓病、がんのリスクも増大します。適度な飲酒(純アルコール 20g以下)を心がけましょう
純アルコール約20gの目安
糖尿病とコントロール
血液が高血糖の状態が続くと、リポ蛋白と呼ばれるコレステロールが酸化されたり、ブドウ糖と結合したりします。そして血管の壁に沈着して、厚く硬くなります(動脈硬化) 。さらに動脈硬化が進行すると、血液中のカルシウムが付着し、血管が骨のように固くなってしまいます(石灰化)。虚血性心疾患だけでなく、脳梗塞や閉塞性動脈硬化症(足先や手先の血流障害と潰瘍、壊疽)を起こすことが多くなります。糖尿病の方は[HbA1c:7.0%未満]を目標に体重、活動量、エネルギー摂取量を管理し、糖尿病内科から出ている内服薬をきちんと内服するようにしましょう
運動
適度な運動は高血圧、脂質異常、糖尿病、肥満などの予防や改善につながり、筋肉の質を改善したり、筋力を維持して、心臓の負担を軽減させ、心不全や狭心症の症状が軽くなります。またカテーテル治療後、手術後も再発予防のために運動療法は続けることが大切です
運動の効果
強すぎる運動はかえって心臓に負担がかかります。ウォーキングなどの強すぎない有酸素運動や低〜中程度の筋力トレーニングが効果的です
運動を行う際の注意点
こんなときはすぐに運動を中止して、症状が続く 場合は医師の診察を受けるようにしましょう
● 胸の痛みや圧迫感を感じたとき
● 息切れや呼吸困難感を感じたとき
● 動悸やめまいを感じたとき
● 冷や汗が出たり、気分がすぐれないとき
運動前後のチェックリスト
□ 息切れなどの心不全の症状があるときは運動を避けましょう
□ 体調がすぐれないとき、寝不足のときは無理せず休みましょう
□ 血圧や脈拍は普段とかわりませんか?
□ 天候が悪いときや、極端に寒い日、炎天下での運動は避けましょ う
□ 起床直後、食後すぐの運動は避け、最低1時間はあけましょう
□ 内服薬を飲んでから運動しましょう
□ 脱水に注意して水分補給を心がけましょう
□ 寒い日は防寒を十分にしましょう
□ 運動時の脈拍を数え、心拍数が上がり過ぎないようにしましょう
□ 運動しながら会話ができる程度の運動をしていますか?
□ 準備運動、整理運動をしましょう
□ 運動後に疲れが残りませんか? 筋肉や関節が痛みませんか?
□ 疲れが残ったり、痛みがある場合は、運動の強度を落としましょう
日常生活
内服
一人ひとりの状態に合わせたお薬が処方されています。自己判断でお薬の量を減らしたり、中止すると症状が悪化する場合もあります。医師の指示に従って正しく内服しましょう
入浴・シャワー
●急激な温度変化は心臓に負担をかけます。浴室や脱衣所を温めるなど温度差をなくしましょう
● 熱いお湯に長く入浴すると、脈拍を上げ、心臓に大きな負担がかかります
● 40度ぐらいの温めのお湯に、10分程度を目安として入浴するのが理想的です
● 食後や散歩後すぐの入浴は避け、休んでから入浴します。また入浴後は安静にしましょう
睡眠
睡眠不足は自律神経の異常を誘発して、狭心症発作を起こすことがあります。ストレスをためないためにも睡眠を十分取りましょう
便秘
便秘でいきむと血圧が上がるだけでなく、血管が収縮し、心臓に負担がかかります。食物繊維の多い野菜や海藻類を多く取るなどして1日1回の排泄習慣をつけましょう。排便のコントロールができない場合には医師に相談して、緩下剤(便秘の薬)を考慮しましょう
禁煙
● 必ず禁煙しましょう
● たばこに含まれるニコチンの影響で血管は細くなり、血圧と脈拍は上昇し、心臓の仕事量は増加します。またたばこに含まれる一酸化炭素は、血液中の酸素の運搬を妨げます
● HDL コレステロール(善玉コレステロール)は減少され、動脈硬化を促進します
ストレス
● ストレスは交感神経を過剰に働かせ、心臓に負担をかけます。ストレスをかけない生活をし、ストレスを発散する方法をみつけましょう
● ストレスがたまり、心のバランスが崩れそうになってはいませんか? 心のバランスが崩れると、心不全のコントロールも悪くなるといわれています。うまくストレス発散ができない場合は、専門の医師や心理士に相談しましょう
感染予防
インフルエンザにかかったり、風邪をひいたりすると心臓に負担がかかり、心不全の悪化につながります。手洗い、うがいを心がけ、流行期にはマスクを着用するようにしましょう
インフルエンザワクチンを接種することが推奨されています。医師、看護師にご相談下さい
肺炎予防のためにも毎食後の歯みがきは大切です
性生活
性生活の運動量は一般的に一時的で急激な運動と同じくらいであるといわれています。胸痛、息切れ、動悸を感じない程度にしましょう
心不全治療に使う内服薬の多くは、妊娠中の投与が禁止されています。また妊娠や分娩が心不全を悪化させることもありますので、必ず医師に相談して下さい
外出、旅行
自分がどれくらい歩けるかを知り、時間をかけて休みながら行きましょう
寒い日や暑い日、雨などの温度変化の激しい時は、外出を控えることも考慮しましょう
外出先や旅行中の食事は、塩分を多くとりがちになるので、量や味付けに気をつけ、残すなどの工夫も必要です
団体旅行の場合には特にまわりに合わせてしまうため、気づかない間に無理をしてしまいがちです。自分の体調に合わせて、ゆとりをもった行動をとりましょう
内服薬、保険証は忘れずに持って行きましょう
受診
症状がなくても定期的な医師の診察を受けることが大切です
むくみがひどい、息切れがひどい、1週間に2キロ以上体重が増えたなど心不全の症状があるときは、早めに受診しましょう
受診のときは、毎日測定した血圧、症状の記録を持参して医師に見せましょう
緊急時の連絡先:東京女子医大病院 ☎03-3353-1111(大代表)
2021.12.25 改訂
東京女子医科大学病院
循環器内科、リハビリテーション部























