現在世界の人口は著しく増加しており、特に新興国の人口増加に伴って食肉需要が増大することが予想されていることから、早ければ2030年には動物性タンパク質の生産が需要に追い付かなくなる「タンパク質クライシス」が起きる可能性が指摘されている。この課題を解決し将来的に持続可能な食料生産技術を開発するため、人工的に生体組織を構築する組織工学技術を基盤とした培養食料生産が近年注目されている。本研究プロジェクトでは、まったく新しいコンセプトの細胞培養技術を開発することで、筋細胞から培養ステーキ肉を生産するシステムの実現を目指している。
培養ステーキ肉は、従来の食肉文化を維持しながら環境変化に対応できる食品として高い需要があることが予想される。従来の畜産では牛肉1㎏の生産に水20000L、CO2排出16㎏を必要とし、さらにウシの排出するメタンガスが地球温暖化の一因であるとした報告もある。培養肉作製技術は、このような環境負荷を大幅に削減できると期待される。一方、培養細胞による食肉生産を実現するためには、動物細胞を増幅させるための培養液の需要が急増する。現在の細胞培養で用いられる栄養素は直接的あるいは間接的に穀物に由来するが、穀物由来の栄養素を含む培養液需要の急増はさらなる環境負荷の増加をもたらすと危惧される。そのため本研究では、微細藻類由来の栄養素を用いた新しいコンセプトの培養液生産プロセスを併せて実現することで、従来の穀物栽培・家畜飼育による食肉生産に替わり、藻類に由来する栄養素を用いて動物筋細胞を培養し、その細胞を用いて食肉を生産するという持続可能な培養食肉生産システムを開発することを目指している。