スタッフ紹介

診療部長からのご挨拶

東京女子医科大学病院
化学療法・緩和ケア科
診療部長 倉持 英和

2020年7月より診療部長として当科に赴任いたしました。どうぞ宜しくお願いいたします。

私が20数年前に消化器外科医として医師人生をスタートした当時は一人の医者ががんの発見から手術、抗がん剤治療までのすべてを行うことが当たり前でした。 しかしながら、近年の薬物療法の急激な進歩により、薬剤の種類は大幅に増え、治療は複雑化しており、20年前とは状況が大きく異なっています。 薬剤の特徴をすべて把握したうえで、安全に治療を施行していくためには専門的な知識と経験が必要になります。 一人の医者が診断や検査から手術、抗がん剤治療までをすべて「一流の」レベルで提供していくのはもはや非常に困難な時代であると思われます。 野球やサッカーなどのスポーツの世界も同様ですが、プロフェッショナルになればなるほど仕事は細分化され、それぞれの部門、分野に精通した専門家が集まって全体として最強のチームを作りあげていくことが必要であると思われます。

しかしながら、日本ではまだ化学療法分野の専門家は限られております。 外科や内科の専門医の数に比べて、化学療法の専門医の数はまだまだ充足しておらず、一部の高度医療機関を除いては、化学療法は外科や一般内科の医師が、手術や検査と並行しておこなっているのが現状です。 一方でアメリカやヨーロッパでは化学療法医(腫瘍内科医)は歴史もあり人数も多く一般化しています。 米国の腫瘍内科医が15,000人ほどいるのに対して、日本の薬物療法専門医はようやく1,000人を超えた程度であり、人口比を考慮してもその差は歴然としています。 外科医として10年目のときに留学した米国でその大きな差に気づき、これからの日本の医療にとってより必要な分野であるという認識で、化学療法を専門で行う道を選択しました。

化学療法を受ける患者さんやご家族にとって、「良い医療」は皆同じではないと思います。 最大限の治療効果を得るために、ある程度の副作用を覚悟して、強力な治療を希望される方もいますし、副作用をできるだけ抑えて、生活の質を重視した治療を希望される方もいます。 また同じ患者さんでも、希望する医療の内容は治療の経過とともに変化していきます。 一人一人の患者さんやご家族と向き合って、「その人にとってのベスト」の治療を選択していくことが重要だと考えています。 がん治療を行ううえで、治療の早期から緩和ケア専門医が治療に加わることにより、患者の生活の質(QOL)の向上だけでなく、患者さんの生命予後が延長する可能性も示されています。 緩和ケアは終末期だけの治療ではなく、「早期からの緩和ケア」がすでに国際的なコンセンサスになっています。 当科には日本緩和医療学会専門医も常勤で在籍しており、化学療法・緩和ケア科の名前のとおり、化学療法と併行して「がんと診断されたときからの緩和ケア」を提供しています。

2020年7月