医療関係者の皆さまへ

診療部長からのご挨拶

東京女子医科大学 化学療法・緩和ケア科診療部長・教授  林 和彦

東京女子医科大学 化学療法・緩和ケア科診療部長・教授  林 和彦

高齢化社会の訪れとともに、我が国ではがん患者数が急速に増加しています。
最新のデータでは、国民のがんの累積罹患リスク(一生のうちにがんになる可能性)は、男性62%、女性46% まで上昇し、日本人男性の3人に2人、女性の2人に1人はがんになる時代となりました。

化学療法・緩和ケア科では、がんに対する化学療法と緩和医療を担当します。
各診療科との協力体制のもと、5大がんや、責任診療科が不明確になりがちな原発不明がん、多臓器重複がんまで、がん患者さんの治療を責任持って担当いたします。

現時点では抗がん剤は決して夢の特効薬ではありません。血液腫瘍やごく一部のがん、あるいは手術後の再発予防の治療を除けば、治癒を最終目標にすることは困難です。しかしながら、これまでの臨床試験の結果から、ほとんどのがん種において、抗がん剤を適切に使用し、治療効果があった場合には、確実に症状緩和と延命がはかれることが証明されており、実際にがんと共存しておられるような長期生存例もみられるようになってきました。また、吐き気、食欲不振、脱毛、だるさ、下痢、口内炎、肺障害、腎障害など、多くの患者さんにとっては悩みの種となる副作用についても、最近の治療薬の進歩により、一昔前に比べて、患者さんのリスクが大幅に軽減されつつあります。

がんの緩和ケアとは、がんによる患者さんのすべての苦悩について、すべからく対処していく治療のことです。かつて緩和ケアは、積極的な治療が終了した、いわゆる末期状態に行われる医療であると考えられてきましたが、最近では、緩和ケアを早期から積極的に取り込むことが提唱されるようになり、WHOでは2002年に緩和ケアを、『生命を脅かすような疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より、痛みや身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題の同定と評価と治療を行うことによって、予防したり軽減したりすることでQOL(生活の質)を改善するためのアプローチである』と改めて定義し、以下のような具体例を挙げています。

  • 痛みその他の苦しい症状の軽減
  • 生命を尊重し、死が特別のことでないことを認識する
  • 死を早めたり遅らせたりしない
  • 心理的な局面、スピリチュアルな局面に対するケアも軽視しない
  • 死ぬまで患者が積極的に生きられるようサポートする環境を提供する
  • 患者が闘病中や死別後に患者家族がうまくやっていけるようにサポートする
  • 患者と家族の要求に応えられるようにチームアプローチを適用する
  • QOLを高めることによって、病状を改善する
  • 病気の早い時期から提供する
  • 予後を改善する化学療法や放射線療法と連携する

がん患者の苦痛は全人的苦痛と称され、非常に多岐にわたりますが、治療法の進歩に伴い、末期患者の長期生存が珍しくなくなった今日では、患者の身体的苦痛の軽減のみならず、精神的な苦痛やスピリチュアルな苦悩、社会的な苦痛に対しても、これまで以上に踏み込んだ緩和ケアが要求されるようになりました。

当科では、がん化学療法と緩和ケアの二つの大きな柱を中心に、がん医療に携わる様々な職種のプロと強固なチーム体制を構築し、患者さんにとってベストながん医療を提供すべく、常に最大限の努力を続けております。