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概要

シンシアNo.9

総合外来センター地下1階の採血コーナーには、朝早くからたくさんの患者さんが訪れる。医療安全文化が醸成されつつあります東京女子医科大学病院病院長田邉一成女子医大病院では“患者さん第一”を基本に、すべての職員に医療安全の重要性を認識してもらうため、さまざまな取り組みを行っています。その一つが、医療安全日報制度の導入です。あらゆる診療部署が、インシデント・アクシデントの有無を問わず日報を作成し、医療安全推進部に報告する。アスリートが練習を積み重ねることによってレベルが上がっていくように、日報を繰り返し作成することが医療安全の第一歩となり、ひいては医療安全文化の醸成にもつながっていきます。ハイリスクが伴う手術を、当該診療科だけでなく関連診療科や多職種の担当者が集まって事前にディスカッションする「ハイリスク症例検討会」も定着しつつあり、医療安全文化の醸成に貢献しています。医療現場で働く人たちが疲れていては、医療安全を担保することはできません。私が若かった頃は、2日も3日も寝ずに患者さんをみるということが行われていましたが、こうした過重労働はトラブルを招きかねません。労働時間を適正化していくことが重要です。私はこれまでずっと、過重労働が本人にとっても患者さんにとっても危険なので、朝早くから仕事をして午後6時には帰れるよう努力を促し、必要以上の当直はするなと医局員にいい続けてきました。それがようやく全診療科にも浸透しつつあります。現在、医療施設の国際的な評価機関であるJCI(Joint Commission International)の認証取得をめざしています。JCIの医療安全に対する評価はたいへん厳しいだけに、これをクリアしてさらなる医療安全文化の醸成を図っていきたいと思っています。医療安全を象徴する独自の検討会2017年10月23日(月)の早朝、台風21号が関東地方を襲った。この日、女子医大病院では午前7時45分から「ハイリスク症例検討会」が予定されており、台風の影響で出席者に遅れが出るのではないかと懸念されたが、会場の総合外来センター5階大会議室には全員が顔を揃え、定刻どおり検討会が開始された。ハイリスク症例検討会は、手術関連の医療安全施策として2015年10月に立ち上げられたものである。その経緯と仕組みについて医療安全部門・患者サービス部門担当の世川修副院長は次のように説明する。「まず、術後の管理まで含めた手術のブリーフィングシート作成からスタートしました。そして、すべての手術について各診療科がこのシートに必要事項を書き込み、診療科のリスク分類と麻酔科の判断によってハイリスクと考えられる症例に対して検討を行うのが、ハイリスク症例検討会です。メンバーは、当該診療科のほか関連診療科や麻酔科、集中治療科、手術室、医療安全科の医師、さらに看護師や薬剤師、臨床工学技士など多職種で構成され、ときには医療ソーシャルワーカーが加わることもあります。こういった検討会を行っている病院はほかにはないと思います」検討会は原則として毎週月・金曜日の午前8時から3~4症例を対象に行われる。検討時間は1症例当たり約15分。取材した日は検討症例が5件だったため、通常より15分早く検討会が始まった。この日の検討会では3つ目の症例で緊迫した議論が展開された。症例は、持続性心室頻拍という心臓病患者さんへの特殊なペースメーカー(CR-D)の植込み術。患者さんは「早く良くなって退院したい」と治療に前向きで、ご主人も治療方針に理解を示していた。だが、この患者さんは内臓も硬化する全身性強皮症も患っているため術後の合併症が懸念され、かなりリスクが高いとみられた。議世川修副院長(小児外科教授)。集中治療科のスタッフ。右から3人目が野村実副院長(麻酔科教授)。Sincere|No.9-2018 07