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概要

シンシアNo8

に電極を付けていろいろな行動をさせる実験に参加させていただきました。このときの経験が、研究者としての道を歩む大きなきっかけとなり、卒業後は大学院に進みました。大学院時代の最後の1年間、小脳研究の世界的権威である理化学研究所脳科学総合研究センターの伊藤正男先生の門を叩き、国内留学。大学院博士課程修了後も、基礎科学特別研究員としてそのまま理化学研究所に残りました。そして、ストレスによって脳内に分泌されるCRFというホルモンが小脳の運動学習に必須であることを発見。これは、小脳の学習機能にホルモンが関与することを世界で初めて明らかにしたもので、研究成果は1999(平成11)年4月発行の『Neuron』誌に掲載されました。その後、女子医大医学部助手、岡崎国立共同研究機構(現・自然科学研究機構)生理学研究所准教授を経て、2008(平成20)年に女子医大医学部教授に就任しました。■女子医大での2つの大きな発見女子医大で新たに取り組んだ研究テーマが、交通事故などで手足を失った方々が悩まされる「幻肢痛」の解明でした。幻肢痛は、失った手足があたかも存在するかのように痛みを感じるという症状です。脳には身体の部位に応じて感覚を知覚する“脳地図”があり、神経回路によって構成されています。幻肢痛は末梢神経切断後の脳地図の変化が原因とされていますが、その詳しいメカニズムは分かっていませんでした。私は2012(平成24)年、末梢神経を損傷すると脳の中の神経回路が予想よりはるかに早い時期に“つなぎ換え”られることを明らかにしました。これは、従研究室にてスタッフとともに。来の学説を覆す世界初の発見でした。これにより、幻肢痛の原因解明とともに感覚障害に対する効果的なリハビリや治療法の開発につながると期待されています。昨年も大きな発見がありました。成熟した大人の神経回路を安定して維持するためには、「代謝型グルタミン酸受容体1型」という分子が必須であることが分かったのです。神経回路は子供の頃に発達し、大人になると変化しないと考えられてきましたが、成熟した神経回路を維持する仕組みが解明されたわけです。自閉症などの発達障害では神経回路が安定的に維持されないことが報告されていますが、この研究成果により、脳機能障害の病態解明や治療法の開発につながることが期待さ宮田麻理子(みやたまりこ)愛知県出身。東京女子医科大学卒業後、同大学大学院博士課程に進み学位取得。1995年フランス国立科学研究センター(CNRS)留学、1996年理化学研究所基礎科学特別研究員、1998年東京女子医科大学医学部助手、2002年岡崎国立共同研究機構生理学研究所准教授を経て、2008年東京女子医科大学医学部教授、2014年東京女子医科大学医学部第一生理学講座教授に就任。2002年日本神経科学学会奨励賞、2012年吉岡博人医学研究奨励賞、2015年入澤彩記念女性生理学者奨励賞などを受賞。れます。■神経回路の維持機能をさらに研究研究者はエンドレスで成長し続けなければなりませんが、女性研究者は出産・子育てというライフイベントに時間を割かざるをえません。その中で目標を設定し、研究を重ねて論文を仕上げていくには、ある程度戦略的に取り組まなければなりません。私も生理学研究所時代に夫と離れて暮らし、その間に出産して母子だけの生活を送りました。6人のファミリーサポートのお力を借りながら、朝は7時半に研究所へ顔を出して実験を行い、夕方5時半まで研究に没頭。行き帰りの電車の中では必ず論文を1本読むことを自分に課していました。でも、それがつらいと思ったり疎外されていると感じたりすることはなく、充実した毎日でした。研究することこそが私の人生そのものだと。これからも、神経回路を解析するというテクニックを駆使しながら、脳の神経細胞や回路がどう変わっていくのかを明らかにしていきたいですね。とりわけ、神経回路の維持機能についての研究をさらに進めていくことを、当面の大きなテーマとしています。Sincere|No.8-2017 05