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概要

シンシアNo8

●10年のブランクを経て復職を決意去る6月28日の水曜日。東京女子医科大学病院総合外来センター1階にある総合診療科外来の診察室には、若い女性医師に付き従って患者さんの診察に立ち会うもう1人の女性医師がいた。医療現場への復帰をめざして研修を受けている山口あけみさんがその人だ。山口さんは女子医大出身である。卒業後、血液内科での研修を経て女子医大附属膠原病リウマチ痛風センターに勤務。3年目に結婚し、夫がニューヨークへ赴任することになったため退職して同行。4人の子どもに恵まれ、育児に追われながら10年余りニューヨークで暮らし、今年1月に帰国した。この間、医療の現場からは遠ざかっていた。とはいえ、山口さんは帰国する2年前から復職へ向けてひそかに準備を進めていた。女子医大の女性医療人キャリア形成センターが提供している「教育・学習支援プログラム」(e-ラーニング)を、インターネットを通じて受講していたのである。このプログラムは、臨床基本や臨床実践など約100コンテンツで構成され、医療従事者であれば地域を問わず誰でも利用することができる。「帰国したら復職しよう」と考えていた山口さんだが、e-ラーニングを学ぶにつれ、10年間のブランクの大きさを痛感。そこで、帰国して一段落したら研修を受けようと決意し、女性医療人キャリア形成センターが運営している「女性医師再研修部門」を訪れた。そして、6月半ば女性医師の現場復帰は社会が望んでいます女性医師再研修部門部門長東京女子医科大学放射線腫瘍学講座教授唐澤久美子高齢化が進み、労働人口が減少していく中、“女性の活躍”が叫ばれています。女性医師も例外ではありません。医師全体の20%以上を女性が占める時代となっていますが、出産や育児、親の介護などのために離職してしまう女性医師が少なくないのも事実です。これは、社会にとって大きな損失といわざるをえません。そうした女性医師の力を社会は必要としています。それを生かすためには、現場復帰へ向けて自信を持っていただくことが重要です。私たちはそのお手伝いをするために、女性医療人キャリア形成センターに「女性医師再研修部門」を設け、復職希望の女性医師1人ひとりの状況にから3か月間、毎週水曜日に総合診療科で研修することになったのである。内科系外来での復職を希望している山口さんは、「当初、どの診療科で研修を受けるか決めかねていました。総合診療科にしたのは、横田先生(下段の囲み記事参照)から『臨床現場を総括的にとらえることができ、活気もあって勘を取り戻すにはふさわしい診療科』というアドバイスをいただいたからです。患者さんを診るためにはたくさんの引き出しが求められますが、患者さんから学ぶこともたくさんあって、総合診療科にしてよかったと思っています」という。山口さんの末のお子さんはまだ3歳だが、「母が子育てを手伝ってくれていま即した研修プログラムを提供するとともに、最も復職ニーズの高い一般内科外来のスキル獲得をめざした研修プログラムを用意しています。女性医師の現場復帰は、患者さんやそのご家族の役に立つだけでなく、医師の労働環境改善にもつながります。また、出産や育児を経験した女性医師は、患者さんと接するうえでそれをメリットとして生かすこともできるでしょう。私たちの取り組みを、女性医師復職支援のモデルとして広く発信していくことも重要なことだと考えています。す」とのこと。そして、「私が復職に向けてアクションを起こしたことを、母がとても喜んでいます」と、山口さんは笑顔をのぞかせた。●まずは外来で現場感覚を取り戻す女性医療人キャリア形成センターの女性医師再研修部門では、「再研修?復職プロジェクト」と「一般内科プロジェクト」の2つのプロジェクトを展開している。「再研修?復職プロジェクト」は、日本赤十字社や済生会など外部組織とも協力しながら復職希望者からの相談や研修に対応。「一般内科プロジェクト」では、復職希望が多い一般内科の診療スキルを身につけるための研修を提供している。女性医師再研修部門一般内科プロジェクトチーフ東京女子医科大学保健管理センター講師横田仁子一般内科医としてのスキル獲得を支援研修希望の女性医師の多くは、自宅から近い地域に立地する病院や診療所の一般内科外来での復職をめざそうとしています。では、一般内科外来にはどのような主訴(患者さんが訴える主な症状)の人が多く訪れるのでしょうか。その実態を調査するために、私たちは「一般内科プロジェクト」を立ち上げ、中小規模病院および診療所合わせて6施設を対象に、4,400症例超のサンプルを得ました。その結果、主訴は多い順に「咳」「発熱」「咽頭症状」「頭痛」であることが判明。これら4主訴で全体の過半数を占め、しかも夏季・冬季とも同じような傾向であることが分かりました。したがって、「咳」「発熱」「咽頭症状」「頭痛」に対応できれば外来診療の半分はこなせることになり、これら4主訴が一般内科医としてマスターすべき疾患群ととらえることができます。ただ、初診外来には地雷が潜んでいます。風邪の症状に隠されている重篤な病気を見逃してはなりません。そうした鑑別診断能力をどのように養うかということも含め、より充実した一般内科外来の研修プログラムを構築していきたいと思っています。Sincere|No.8-2017 21