ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

シンシア No.7

少しでもリスクがあれば内科から“待った”がかかります」と、江川教授は内科と一体となった診療の意義を強調する。肝移植の第一人者・江川裕人教授。には精緻な吻合術と細心の注意が要求される。江川教授が着任して最初に手がけた肝移植は、成功率60%未満の高難度な症例だった。だが、スタッフ全員が一つになって手術を成功に導いた。「スタッフの動作一つひとつが無駄なく自然に行われる。これこそが、消化器病センターに脈々と流れる外科スピリッツだと感じました。これは一朝一夕で養えるものではありません。センター50年の伝統のうえに厳しい鍛練を重ねてこそ養えるものです」と、江川教授は当時を振り返りつつ消化器病センターに息づくDNAについて語る。さらに、「肝移植に限らずすべての手術がスムーズに行われ、スピードが速い。術後の管理も手際がよく抜かりがない。それはとりもなおさず、消化器病センターの実力の高さを物語るものです」ともいう。消化器病センターは内科と外科との連携が大きな特徴だが、生体肝移植においてはそれが最も端的に表れる。移植前は内科が患者さんもドナーも受け入れ、術前管理と手術の適否を決定しているのだ。江川教授への取材中にもこんな場面に出くわした。ドナーの担当内科医から江川教授に、「血液培養検査(血中の細菌検査)の結果が陽性です」との連絡が入り、すぐさま内科の徳重克年教授と電話でやりとり。数日後に予定されていた手術は即、延期されることとなった。まさに“あうんの呼吸”である。「移植後の感染防止には万全を期さなければなりません。■移植後の再発予防をめざす新たな研究を推進江川教授はこれまで、国内で1,000件超、留学先のアメリカで約300件の肝移植に関わってきた。女子医大に着任後は、他の病院では対応できない患者さんも受け入れ、血液型不適合や門脈完全閉塞など困難な症例の移植を次々と成功させ、極めて良好な成績を収めている。アメリカでは脳死後の臓器提供者が年間8,000人にものぼるが、日本では脳死・心臓停止後の臓器提供者は約100人にすぎない。このため、肝移植の技術も成績も日本は世界一であるにもかかわらず、移植数はアメリカに遠く及ばないのが実情だ。「これからは徐々に脳死ドナーも増えてくることが予想されますから、生体肝移植と合わせてコンスタントに月2件くらいのペースで肝移植を行っていきたいですね」と、江川教授は抱負を語る。これまでの臨床研究の成果は世界中に発信されてきたが、新たな研究にも挑戦している。その一つが、肝移植後の肝細胞がん再発予防をめざしたNK(ナチュラルキラー)細胞移入療法である。ウイルス感染や細胞の悪性化によって体内に異常な細胞が発生した場合、再生療法とのコラボレーションによってこれを攻撃する細胞を送り込もうというものだ。肝移植後のさらなる生存率向上が期待される。■“食道外科の聖地”と評される消化器病センター「食道外科医にとって女子医大消化器病センターは、まさに“聖地”そのもの」。こう語るのは、消化器病センター外科の消化管チーム・食道グループを率いる大杉治司教授である。1965年に創設された消化器病センターの初代センター長・中山恒明氏は、食道がんの手術成績を格段に改善さ縫合実習を指導する江川教授。08 Sincere|No.7-2017