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概要

sincere no05

医療研究最先端足潰瘍・壊疽の治療成績向上をもたらしている持続陰圧吸引療法。潰瘍部に持続的に陰圧を加えて浸出液を吸引する。足病変グループでも、重篤な足潰瘍や足壊疽の治療には複数の診療科と連携したチーム医療が欠かせない。「フットケア診療は、足潰瘍などを治療する創傷ケアと、重篤化を防ぐための予防的フットケアを行っています。創傷ケアでは足切断の防止が最優先課題であり、循環器内科、血管外科、形成外科などと連携しながら患者さんの治療に当たっています。予防的フットケアでは、傷口から細菌が入り込んで感染症を引き起こさないよう、白癬などの感染症治療や巻き爪たこなどのネイルケア、胼胝治療、足に合った靴や中敷きの作成などを行っています」と井倉和紀助教は語る。通院患者さん1万人を対象に長期観察研究を実施糖尿病センターでは2012年から、通通院患者さん約1万人を対象とした長期観察研究のアンケート用紙。Web回答者も増えている。院する約1万人の患者さんを対象に長期観察研究「DIACET」を開始した。アンケート用紙を患者さんに配付し、病状や合併症の有無、来院の頻度、処方された治療薬と実際の服用状況など、数々の質問に回答してもらい、糖尿病の実態を解明して治療の改善に役立てようというものである。調査はすでに4回実施され、回収率は常に90%を超えている。「私たち医師は、患者さんの病状に関する情報を何でも知っておく必要があります。しかし、診療時間内では医師にも患者さんにも、聞きそびれや言いそびれが起きがちです。また、複数の医療機関にかかっている患者さんの治療薬についても、しっかりと把握しておく必要があります。患者さんが実際に受けている治療と病状とを照らし合わせ、最適な治療法を見つけ出すことが観察研究の狙いです」と内潟教授は語る。DIACET調査は、専任のデータマネジャーを擁する独立した事務局(事務局長・三浦順之助講師)が機動し、患者さんへのフィードバック体制も整っている。診察カードを専用機に挿入するだけで、調査結果がプリントアウトされ、自分の病状を他の患者さんと比較して客観的に把握することができるのだ。観察研究の成果はすでに現れている。2012年の調査からは、65歳以上の患者さんの約3割にうつ症状があること。2013年の調査からは、1型糖尿病のがん合併率が3.8%で、若年女性では乳がん、若年男性では甲状腺がんが多いという可能性がうかがわれた。「新しい薬が登場すると、想定外の効果が現れることがあります。DIACETの調査を蓄積することで、薬効に関する新しいエビデンス(科学的根拠)の情報発信ができるものと確信しています。今後、調査結果を分析した論文が外に向かって多数執筆されるでしょうが、これらは私たちの教科書である『糖尿病の治療マニュアル』に掲載するとともに、治療成績の向上に役立てたいと思っています」と、内潟教授はDIACETの活用に大きな期待を寄せている。岩田隆紀(左奥)、井倉和紀(右奥)、濱田真理子(手前左)、加藤ゆか(手前右)の各氏。細胞シートによる糖尿病足潰瘍新規治療法の開発にチャレンジ培養された細胞シート。治療が難しいとされる糖尿病足潰瘍に、女子医大が誇る細胞シート工学が活用できないか。二人の若い医療練士(後期研修医)が新たな治療法の開発に取り組んでいる。プロジェクトを指導する先端生命医科学研究所の岩田隆紀准教授は、「私が関わった細胞シートによる歯周病の再生治療では、すでに10例の移植に成功しています。糖尿病足潰瘍への適用に関しても、2~3年のうちに臨床試験に持ち込もうと、研究所が一丸となって支援しています」と、その意気込みを語る。プロジェクトを立ち上げるきっかけとなった研究を行った加藤ゆか先生は、「中年期の肥満2型糖尿病モデルのラットを二つのグループに分け、片方のグループにコラーゲンでつくられた人工真皮のみを創部に移植し、もう片方のグループに正常なラットの脂肪由来の幹細胞から培養した細胞シートと人工真皮を移植した結果、創部が閉じるまでの日数は人工真皮のみでは平均35日、細胞シート投与群では平均25日であり、細胞シートの有効性が証明されました」と成果を語る。現在は濱田真理子先生が第二ステップの実験に取り組んでいる。「私が担当しているのは、ヒトの皮下脂肪組織から培養した細胞シートを2型糖尿病モデルのラットに移植する実験で、治療の有効性と安全性の評価を行っています」。足病変グループリーダーの井倉和紀助教は、「足潰瘍の治療は長引くほど感染症のリスクが高まります。いかに早く傷口を閉じるかが重要なだけに、一日も早い実用化に期待しています」とエールを送る。Sincere|No.5-2016 09