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概要

sincere no05

医療現場最前線レポート黄斑円孔の手術前(上)と手術後(下)。中心窩にできた穴(孔)が手術後にはふさがっている。飯田教授の執刀による黄斑前膜の手術。こうしたOCTは、前述した加齢黄斑変性患者さんの“個別化治療”にも大きく貢献している。抗VEGF薬の注射を行うごとに、その効果をOCTで繰り返し検査することにより、個々の患者さんに適した治療パターン(注射をする間隔)を見いだすことができるわけだ。高解像度OCTは、黄斑疾患の診断精度をより高めていることはいうまでもない。それらの診断データは黄斑疾患に関する研究成果とともに学会や欧文専門誌に報告され、世界中から注目を集めている。黄斑疾患の外科的治療でも他の病院をリード女子医大病院西病棟Bの2階第4手術室。昨年10月下旬のある日、眼科専用のこの手術室で午前9時過ぎから数件の手術が行われた。最初の2件は白内障の手術。いずれも麻酔を打ってから手術が終わるまでの時間は20分程度だった。10時50分過ぎ、3件目の手術患者さんが入室。76歳の男性で、病名は黄斑前膜。網膜の手前に膜が張り、黄斑がそれにさえぎられてモノがゆがんで見え、視力が低下する病気である。その膜を手術によって剥がすのだ。執刀するのは飯田教授。小さな眼球の深部にある膜を、一体どのように剥がすのか。しかも、その膜はわずか3~4ミクロン(1,000分の3~4mm)の薄さだという。臨床実習のためスタッフと一緒に入室していた医学部の学生たちも興味津々の様子だ。室内に小田和正の澄んだ歌声がBGMとして流れる中、11時5分に手術がスタートした。眼球にメスを入れ、硝子体せっしの切除と網膜に張り付いた膜を剥がすために、カッターと鑷子(ピンセット)、ライトガイドを通す小さな穴が3か所あけられる。腹腔鏡下手術と同じ要領といってよいだろう。そして、カッターが穴に入れられた。1分間に5,000回転という高速回転のカッ前膜を剥がす場面(左上)では照明が落とされる。ターが、硝子体の後部を削り取っていく。硝子体は切除しても、視覚に直接的な影響はないという。飯田教授の合図で、室内の照明が落とされた。いよいよ前膜を剥がす場面である。極薄の膜を丁寧に剥がしていくためには、患部がより鮮明に見えなくてはならない。周りの照明を暗くするのもうなずける。鑷子が穴に挿入され、前膜が剥がされ始めた。その様子がモニターに映し出され、病変が取り除かれていくのが実感として伝わってくる。ふと飯田教授の手許を見ると、鑷子を手にした指先はほとんど静止しているといってもよいほどの微妙な動きしかしていない。まさに“神ワザ”である。「そろそろ終わりますよ」と、局所麻酔の患者さんに飯田教授が声をかけ、手術が終了したのは11時40分。スタートしてからわずか35分しか経っていない。1時間以上はかかるだろうと思っていただけに、拍子抜けするほどの短時間にも驚嘆した。このように、女子医大病院の眼科は黄斑前膜や黄斑円孔(黄斑の中心窩に穴があき視力が低下する病気)などの黄斑疾患に対しても、高度な外科的治療を提供しているのである。Sincere|No.5-2016 19