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概要

シンシア 2014.No.2

摘出し、10時間を超える手術が終了した。その後、A子さんに再発はなく、結婚し出産。職場復帰も果たした。術後13年を経た今日、充実した日々を過ごしている。従来平均を大きく上回る術後生存率を実現A子さんの手術より9か月前の2000年3月、女子医大は脳腫瘍をターゲットとした「インテリジェント手術室」を、初めて国産の技術で立ち上げた。インテリジェント手術室とは、それまで豊かな経験と高い技術力を持つ一部の脳外科医に頼ってきた脳腫瘍手術を、脳外科医の誰もが再現できる手術にすべく、IT(情報技術)を医療機器に応用することで実現した「情報誘導手術システム」である。脳腫瘍とりわけ悪性神経膠腫では、病変をどれだけ摘出できるかで、手術の成否が決定する。腫瘍は周囲に浸み込むように広がるため、正常な脳細胞と病変との境界が分かりにくい。摘出が正常な脳細胞におよぶと言語機能などに後遺症が発生しやすく、腫瘍を取り切れないと生存率が低下する。このため、悪性神経膠腫の術後5年生存率は伸び悩んでいた。手術中に手術台を移動してリアルタイムにMRI撮影を行い、より正確な病変の摘出を期す。このジレンマに立ち向かったのが、伊関洋前教授、村垣善浩教授、丸山隆志講師を中心とする女子医大の脳神経外科医グループである。伊関前教授らは、ITと医療機器を組み合わせた“外科医の新しい目と手と脳”となる手術システムを構築。これを医療現場に展開したのがインテリジェント手術室である。これにより、腫瘍の摘出がより正確に、より精密にできるようになった。以来14年、インテリジェント手術室での脳腫瘍の摘出手術は優に1,200例を超え、グレード2の低悪性では5年生存率が95%(過去の全国統計では69%)、10年生存率が85%と極めて良好である。また、グレード3の中悪性でも5年生存率が72%(同25%)、10年生存率が66%と高い治療実績を収めている。手術室の核となる術中MRIとナビゲーションシステム脳腫瘍の摘出手術は、事前のMRI患者さんにとって必要なのは医師が安心して手術できるシステムの構築先端生命医科学研究所前教授伊関洋インテリジェント手術室の発想は、若い頃の苦い経験が原点となっています。地方の病院に派遣された私は、医師一人と看護師が一人か二人という状態で脳外科手術を任されていました。経験が浅く技術も未熟な頃で、プレッシャーに押しつぶされそうでした。そのとき、“外科医の新しい目と手と脳”となる手術システムがあればと、切実に感じました。インテリジェント手術室は、女子医大だからできた情報誘導手術システムです。元学長で脳神経外科医の高倉公朋先生の理解を得て、術中MRI装置の開発に着手できたこと。若手の先生たちが競って論文を書き、国の科学技術予算を獲得してくれたこと。術中MRIの配置から手術手順まで、インテリジェント手術室の効果的な活用法を、看護師を含めたスタッフ全員で考え抜いたこと。大学院のバイオメディカル・カリキュラムに、医療機器メーカーの研究者が何人も在学していたことも大きかったですね。インテリジェント手術室が完成したことにより、何物にも代えがたい安心感が得られるようになりました。そして、手術室に大型モニターが設置され、すべての情報が可視化・共有化されたことで、手術がいまどの段階にあり、自分が何をすべきかを、スタッフ全員が把握できるようになり、チームの士気が格段に高まってきました。インテリジェント手術室は、医師が安心して手術できるばかりでなく、患者さんが安心して受けられる手術システムなのです。Sincere|No.2-2014 07