教授あいさつ
東京女子医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科のホームページをご覧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、2025年10月より当講座の教授を拝命いたしました水足邦雄です。1915年に母体となる東京女子医専耳鼻科診察室が開設されて以来、100年を超える長い歴史と伝統を誇る本講座の重責を担うこととなり、身の引き締まる思いでおります。
本講座は創設以来、臨床・研究・教育の三本柱を基軸として発展を続けてまいりました。歴代の教授陣のもとで築かれた教室の伝統を継承しつつ、次世代の医療と学問を見据えた発展を目指しております。耳鼻咽喉科・頭頸部外科は、聴覚・嗅覚・味覚・平衡覚といった感覚器機能をはじめ、発声・嚥下など人間らしい生活に直結する重要な機能を扱う診療科です。当教室では、耳科疾患(中耳炎、真珠腫、難聴、顔面神経麻痺、めまい)から、鼻・副鼻腔疾患、咽喉頭疾患、頭頸部腫瘍、音声・嚥下障害まで、幅広い領域に対して最先端の診療を提供しています。
特に私がこれまで注力してきた耳科手術領域では、経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal Endoscopic Ear Surgery: TEES)の先駆者として、低侵襲で高精度な手術技術の開発と臨床応用を進めてまいりました。これらは、患者さんの身体的負担を軽減しつつ、より安全で確実な治療を可能にする新たなパラダイムとして、国内外から注目を集めています。さらに、従来の顕微鏡下での豊富な手術経験を基盤とし、内視鏡・顕微鏡・ナビゲーションシステム・拡張現実(Augmented Reality)技術を融合させた「次世代型耳科手術教育・支援システム」の構築にも取り組んでおり、これを教育・研究の両面から推進しています。
さらに、人工内耳・補聴器医療や難聴研究にも力を入れ、「全ての難聴患者さんに笑顔を取り戻してもらう」ことを目標に、感音難聴に対する治療とリハビリテーションのシームレスな提供、基礎研究での加齢性難聴や薬剤性難聴に対する新規治療法の臨床応用を見据えた研究を進めています。これらの研究成果を臨床に還元し、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供することが、私たちの使命です。
教育面においては、次世代を担う耳鼻咽喉科医・頭頸部外科医の育成を最重要課題としています。若手医師が国内外の学会・研究機関と連携しながら、自らの専門性を高めることができる環境づくりを推進します。また、働き方改革とライフイベントへの配慮を両立させ、誰もが安心して長くキャリアを築ける教室運営を目指します。
東京女子医科大学は、創立以来「医学の蘊奥を究め」るとともに「人格を陶冶して社会に貢献する」を理念として発展してきました。この理念のもと、耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座も、臨床・研究・教育のすべてにおいて世界をリードする発信拠点となるべく、日々挑戦を続けてまいります。今後とも、皆さまの温かいご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2025年10月
東京女子医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
教授水足 邦雄
Mizutari Kunio沿革

当教室の母体となる東京女子医専耳鼻科診察室は、1915年(大正4年)に開設されました。当初は外来診療と学生の教育を開設者である1914年卒の菅沼志津子が担当し、講義と手術の際には鉄道病院等から外来講師を招聘しました。
1932年(昭和7年)に、初代主任教授として九州大学出身の海軍少将石原亮を迎えました。

続いて1942年には東京女子医専卒の佐藤イクヨが主任教授となりました。佐藤教授時代の教室の主な研究テーマはジフテリアに関するものでした。予防接種が普及する以前のジフテリアは感染性と致死率が高く恐れられた疾患で、死因の多くは気道閉塞による窒息死だったためです。

1960年には岩本彦之焏(九大)を迎え、頭頸部癌の治療に力を入れるようになりました。手術、特に喉頭全摘が多数行われました。
1975年からは上村卓也(九大)が主任教授となり、内耳・平衡機能領域の研究を進めました。

1982年には石井哲夫(東大)が主任教授となりました。
石井は、中耳手術を主に手掛け、症例数は在任19年間で約1600症例となりました。基礎研究では東京大学工学部、畑村・中尾研究室と共同で医学と工学を融合させた手法で中耳・内耳の物理的特性の評価に取り組み、1993年5月には第94回日本耳鼻咽喉科学会総会にて「物理的特性から見た鼓膜膜迷路の病態」と題して宿題報告を行いました。

2001年(平成13年)には吉原俊雄(千葉大)が7代目の主任教授となりました。
吉原は1989年に当教室に講師として着任後、頭頸部腫瘍の治療と基礎研究を中心に行い、同4年に同助教授となり、2001年4月には石井哲夫教授の後任として主任教授となりました。主任教授就任後は特に唾液腺疾患の基礎研究と臨床に取り組み、2013年5月には第114回日本耳鼻咽喉科学会総会において「唾液腺疾患の病態解明と臨床」と題して宿題報告を行いました。学会活動では、2006年に日本耳鼻咽喉科学会理事に就任し、2006年から2012年および2014年から2016年の計4期を務めました。

2018年には野中学(日本医大)が第8代の主任教授となりました。
野中は、2010年に当教室に准教授として日本医大より着任後、鼻科学を中心に行い、2014年7年に同臨床教授となり、2018年に主任教授となりました。主任教授就任後は特に鼻科学およびアレルギー学の基礎研究と臨床だけでなく耳科手術にも取り組み、2024年9月には第63回日本鼻科学会総会・学術講演会において会長をつとめました。
また頭頸部腫瘍は、令和に着任した中溝宗永准教授が中核となって診療・研究・教育に取り組みました。

2025年から現在は水足邦雄(横浜市大)が第9代主任教授をつとめています。
耳科学を専門とする水足は、耳科手術を専門とし、特に経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal Endoscopic Ear Surgery; TEES)の第一人者として、低侵襲耳科手術の普及に努めています。また、感音難聴に対する補聴器診療や、高度難聴に対する人工内耳診療など、難聴全般に対する幅広い臨床と研究を行っています。さらに、根本的な治療法のない感音難聴に対する、新規治療法開発の基礎研究を積極的に行い、その研究成果を世界に発信しています。