東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
外来診療予約

患者さんの声

IYさん 59歳(手術時)、女性(長野県在住)、関節リウマチ

「いや、、、手術出来るな」
しばらく目を閉じ考えていた先生がそう言ってくださった時、少しの光が見えたことを今でも覚えています。
リウマチになり47年。リウマチは常に全身のどこかが痛くて変形していく辛い病気だけど、仕方ないんだから頑張るしかないと日々諦めていました。数年前からは左足首の変形が激しくなって小趾側だけで歩く状態となり、クッションのある靴を履いていないと家の中のフローリングや畳の上でさえ痛くて歩けなくなりました。その後さらに痛みは激しくなり、立ち上がりや最初の一歩目に痛みで顔を歪める日々が続き、これがこれからもずっと続くのかと思うと気が滅入りました。主治医の先生に相談すると足関節固定術による手術を勧められましたが、わずかに残っている可動域がなくなってしまうのかと思うと決心がつきません。そこで人工関節について相談すると「ここでは出来ないけれど、挑戦してみるのも良いと思う」とすぐに女子医大を紹介してくださいました。女子医大に受診した際も最初は先生から「ここまで変形がひどいと人工関節は難しいかもしれない」と言われましたが、その後の「いや、、、手術出来るな」の言葉に、少しでも可能性があるならば手術してもらおう!と前向きな気持になりました。
現在術後3ヶ月ですが、ベッドから起きて立ち上がり、最初の一歩を踏み出す時の痛みがないことに毎朝驚いています。そして嬉しくて一人で笑ってしまいます。痛みがないことが信じられないのです。部屋も素足で歩けるようになりました。足が平らになったことで靴も選べるようになり、外出も楽しんでいます。痛みなく歩けることはこんなにも楽しく、精神的にも楽になれるのかと、痛みなく歩ける喜びを毎日感じています。手術を勧めてくれた主治医の先生、執刀医である女子医大の猪狩先生、本当にありがとうございました。これからもリウマチと前向きに付き合いながら人生を楽しみます。(2020.2.14)

 

足関節(足首)の変形

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足首が腫れてきたり、歩くと足首が痛い、しゃがみづらいという症状があるときは足首の関節破壊が疑われます。まずはX線検査を行い、靭帯バランスや変形の度合い、骨の状態を診察し、手術の適応を判断します。人工関節の設置が難しい場合には足関節固定術をおすすめする場合もあります。

2018年8月から国内で3機種目となる新しい人工足関節が使用可能になりました。新しい人工足関節の発売は実に15年ぶりとなります。外側進入型人工足関節という新しいコンセプトの製品で、前方切開をしなくなることで前脛骨筋腱と長母趾伸筋腱による創部に対するストレスから開放され、創傷治癒遅延リスクの低減が期待できます。また側方から骨を切開することが出来るため骨の切除量を最小限にすることが可能となります。この機種は最新の技術に基づく素材で作られていることも特徴の一つです。金属の接触を防ぐ機能を持つポリエチレンインサートには他の人工関節では一般的となっている低摩耗型が国内で発売されている人工足関節としてはじめて採用されていて、人工関節の緩みを防ぐことが期待されます。また骨との境界部分の金属素材としてトラベキュラーメタルという人工股関節や人工膝関節で豊富な臨床実績を誇る金属を使用しています。この金属は摩擦係数が高く骨への初期固定が良好であるとともに、気孔率の高い支柱構造によって骨が進入しやすく強固な長期固定も期待できます。この人工足関節はすでに数年前から海外で使用開始されているものなので、これまでの国内のみで使用されている人工足関節に比べ、何年持つのかや合併症の頻度などのデータの蓄積が進みやすいというメリットもあります。当院は国内で2つしかなかった初期導入拠点の1つであり、使用開始から4年を超え、これまでにで80名を超える患者さんに実施してとても良好な成績を得ています。従来使用してきた機種との最大の違いは人工関節と骨の間に生じる骨透亮像の少なさで、従来機種では術後2年でおよそ75%で2mm以上の骨透亮像がみられていたのに対し、この機種では術後3年でもほぼ全く確認できていません。骨透亮像の存在は将来的な弛みのリスクになると考えられており、良好な長期成績が期待できる結果となっています。国内では人工関節全体で年間10万件以上行われているのに対し、人工足関節置換術の年間手術件数はこの機種の発売前までは250件程度に過ぎませんでした。しかし良好な初期成績が得られていることから、今後は可動域を温存できる人工足関節置換術は大きく増加すると予想しています。足関節でお悩みの患者さんは当センター整形外科担当医にご相談ください。

 

手術のながれ

通常は全身麻酔に下肢のブロック麻酔を併用する形で行い、術前にはレントゲン、CT、血液検査、心電図などの必要な検査を行います。手術のキズは足首の外側に15から20cm程度のものに加え、ピンを刺入するための小さなものが5カ所程度できます。一旦腓骨を切って翻転した後に、足関節の外側から関節表面の損傷した骨を削り取り人工足関節を挿入し、腓骨を戻して金属製のプレートなどで固定します。手術は2-3時間程度かかります。入院期間は通常3-4週間です。定期的にX線を確認しながら徐々に荷重をかけてリハビリしていきます。

 

TM Ankle リハビリプログラム

手術当日~3日目
ギプスシーネ固定、患肢挙上、免荷(足趾の運動は許可)
手術翌日より疼痛自制内で両側の四頭筋訓練、両下腿のアイソメトリック運動開始

4日目より
両手が使用可能であれば、ギプスシーネ装着で松葉杖歩行訓練開始(免荷)

10日目より
リハビリ監視下で支柱付き装具(もしくはシュガートング型ギプスシーネ)装着の上で1/2荷重によるスクワット運動開始(インプラントの圧着と可動域訓練を兼ねた運動、1日5回、1回20分間)
支柱付き装具(もしくはシュガートング型ギプスシーネ)を装着の上で部分荷重開始(松葉杖歩行、10-20kgより開始、徐々に荷重増加し、20-21日目から全荷重開始)
スクワット、歩行訓練時以外はギプスシーネを装着し、免荷継続

底背屈以外の運動は3ヶ月間禁(3ヶ月間は歩行時支柱付き装具装着、ベッド上ギプスシーネ装着)

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上の写真は国内で初めて外側進入型人工足関節置換術を受けた変形性足関節症の男性の患者さんのものです(上段が術前、下段が術後2年)。内反変形が完全に矯正され、人工関節と骨の境界に隙間はなく、腓骨も修復されています。現在、杖なく歩行しています。

 

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術後2年が経過した関節リウマチの女性の患者さんの写真です(上段が術前、下段が術後2年)。術前には関節の隙間は消失していて、距骨の上端はやや扁平化しています。また側面像では関節の前後に骨棘が張り出していて、ほとんど底背屈できなかったことがわかります。術後には底背屈が十分にできていて、足関節痛から開放され、杖なく歩行しています。

 

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まだ術後1月ですが、高度内反変形(内がえし変形)を呈した関節リウマチの女性の患者さんの写真です(左が術前、右が術後1月)。術前には強い内反変形のため小趾側を中心に接地していて、同部に胼胝が出来ていました。後方から見ても強い内反変形にあることがわかります。関節の隙間は完全に消失していて、距骨下関節は癒合しており、脛骨が後方に偏位しています。この状態で足関節の底背屈は十分に可能だったため、他院で勧められていた足関節固定術に前向きになれず来院されました。変形が高度だったため標準の方法では矯正できず、やや特殊な方法で内反変形と脛骨後方偏位を矯正しています。術後1ヶ月で底背屈が可能で、足関節痛、足部痛(小趾側)から開放され、全荷重で歩行しています。

まだ術後経過観察期間が短いとは言え、こういう症例でも手術可能な場合もありますということでお示しいたします。

文責 猪狩勝則、矢野紘一郎
2022年9月12日更新