東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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若年性皮膚筋炎とは

 若年性皮膚筋炎は、若年性特発性炎症性筋疾患と言われる16歳未満に発症する免疫の異常による筋肉の炎症を起こす疾患の中の大部分を占める疾患です。日本国内の調査では10万人あたり約1.7人が発症するとされているまれな疾患で、5-10歳のお子さんに発症しやすく、男子よりも女子の方がやや多いです。原因ははっきりとわかっていませんが、HLAをはじめとした遺伝的な要因と、紫外線曝露やさまざまなウイルス感染症などの環境要因がいくつか絡み合って、免疫の異常を引き起こし血管の炎症を起こしていると考えられています。

症状

 主に皮膚と筋肉の細い血管に炎症が起こる結果、皮膚炎、筋力低下といった症状が慢性的にあらわれ徐々に進行します。特徴的な皮膚の症状として、ヘリオトロープ疹(上眼瞼の対称性の紫色疹)、ゴットロン皮疹(膝、肘、手指の関節伸側の対称性の紅斑)、頬の紅斑、V徴候(首から胸にかけてのV字型の紅斑)、ショール徴候(後頸部から肩にかけての紅斑)があります。筋肉の症状としては、首や肩、お尻といった体幹の筋肉、腕や大腿の左右対称の筋力の低下や、筋肉痛を認めます。その結果、だるい、転びやすい、足をひきずる、腕が挙がらない、歩けない、階段が登れない、立ち上がれないなどの症状が出現します。年少児では十分に症状を伝えられない場合もあるため、こういった症状を見逃さないように診療を進めます。患者さんによってそれぞれの症状の強さは異なり、筋力低下がない場合は無筋症性皮膚筋炎といい、皮膚症状に欠ける場合は多発筋炎と言われますが、小児ではとてもまれです。
 皮膚、筋肉以外の症状として、間質性肺炎、関節炎、消化管潰瘍などを認めることがあります。また、約30%の患者さんで皮膚の下に石灰化というカルシウムの沈着を合併し、関節の動きの制限や痛みを伴うことがあります。

検査と診断

 上記の典型的な皮膚症状、筋力低下の診察、評価を行います。検査は、血液検査、筋肉のMRI検査を行います。血液検査では、筋肉の異常を示唆する酵素(クレアチンキナーゼ、アルドラーゼ、ミオグロビン)、血管の炎症による炎症マーカーが上昇することが多いです。
 若年性皮膚筋炎に特徴的な種々の筋炎特異自己抗体が同定されてきており、70から80%の患者さんで陽性になります。各自己抗体の陽性率が成人とは異なることもわかっており、この抗体の違いによって、皮膚症状、筋症状の強さや合併する症状が異なるため、疾患の経過や予後予測において重要な指標となります。
日本国内の若年性皮膚筋炎患者さんで頻度の高い筋炎特異自己抗体は、抗TIF-1抗体、抗NXP2抗体と抗MDA5抗体です。抗TIF-1抗体が陽性の患者さんは、成人では悪性腫瘍の合併が多いとされていますが、小児では関連は強くなく、皮膚症状が強く発現する経過をたどります。抗NXP2抗体の陽性の患者さんは筋力低下が強く、皮下の石灰化を伴いやすく、関節拘縮を起こしやすいとされています。抗MDA5抗体が陽性の患者さんは、筋力低下が目立たない無筋症候性皮膚筋炎の経過をたどることがあり、関節炎、皮膚潰瘍、肝逸脱酵素の上昇、血清フェリチン値の上昇などを認めます。特に重要な点は急速に進行する間質性肺炎を合併することで、呼吸不全に陥る可能性があるため注意が必要です。
 他の自己抗体はいずれも小児ではまれですが、成人に多い抗Jo-1抗体を含む抗ARS抗体の陽性患者さんはやや年齢が高く、抗ARS抗体症候群と言われる「機械工の手」(手指の側縁の角化性皮疹)、発熱、関節症状、レイノー現象、慢性間質性肺炎といった所見が特徴的です。抗Mi-2抗体が陽性の患者さんは典型的な皮膚症状を伴い、筋力低下は中等度であり治療反応性がよい特徴があります。抗SRP抗体、抗HMGCR抗体は自己免疫介在性壊死性筋症に関連して、高クレアチンキナーゼ血症を伴う強い筋力低下を認め、治療に抵抗性の患者が多い特徴があります。
 筋肉のMRIは筋力が低下している部位を撮像しますが、筋力低下が乏しい場合は筋量の多い、お尻から大腿を撮像します。筋肉(筋繊維)の炎症による浮腫を示唆する所見を認めます。
 これらの診察、検査結果をもとに総合的に診断します。診断がはっきりしない場合は、皮膚生検、筋肉生検といった病理検査、筋電図検査などを考慮しますが、典型的な症状の患者さんでは近年は行わないことが多いです。合併する症状の確認のために、胸部CT検査、呼吸機能検査、心電図、心臓超音波、目の検査、嚥下(飲み込み)の検査などを行う場合があります。
 日本の小児慢性特定疾病の改定診断基準は、皮膚症状、筋肉症状、筋MRI所見、筋原性酵素、筋炎特異的自己抗体の有無で判断するもので診断の参考になります。また、国際的な分類基準(EULAR/ACR 分類基準:Lundberg IE, et al.: Ann Rheum Dis. 2017 Dec; 76(12): 1955-1964.)は診断基準ではありませんが、成人と小児で共通して使用できる国際基準で診断の参考に使用します。

治療と経過

 治療は症状の強さや合併症状に応じて検討します。典型的な場合には、急性期にステロイドパルス療法(大量療法)を行います。さらに状態によって、特に間質性肺炎を合併している患者さんでは、ステロイドパルス療法に、免疫グロブリン大量療法、免疫抑制剤(シクロホスファミド大量療法)、血漿交換療法を組み合わせて治療します。維持療法として、ステロイド薬内服を単独、もしくは免疫抑制剤(アザチオプリン、タクロリムス、シクロスポリン(保険適用外)、メトトレキサート(保険適用外)、ミコフェノール酸モフェチル(保険適用外))の内服と併用で治療します。ステロイド薬使用による骨粗鬆症などの合併症予防も行います。早期から免疫抑制剤を開始することで、ステロイド薬の投与量を少なくし、お子さんの成長期におけるステロイド薬の副作用の影響をできるだけ少なくするように心がけております。皮膚症状には軟膏製剤の使用と日焼けどめや衣類などによる紫外線曝露予防を行います。また、筋力低下が強い患者様には、筋力回復のための理学療法を行います。今後、リツキシマブ、アバタセプトといった生物学的製剤、トファシチニブといったJAK阻害剤などが、新規の治療薬として有効である可能性が考えられております。これまでの薬で治療が不十分な患者様にとって、新規治療を積極的に導入できるように有効性と安全性を確認していく必要があります。
 重篤な合併症や日常生活に支障を来す機能障害を残さないことが治療の目標となります。若年性皮膚筋炎では、治療開始から数年の経過で内服薬を終了できる患者も多いですが、重篤な機能障害を残す患者さんや、間質性肺炎によって呼吸不全を起こす患者さんもいらっしゃるため、十分な注意が必要で適切な治療が重要となります。

文責 岸 崇之
2022年8月31日