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2018年06月19日ナーシング・ヒューマン・リレーションシップ
NHR(ナーシング・ヒューマン・リレーションシップ)

学年を超えた交流を通してコミュニケーション力を養う

5月、初夏をにおわす日差しの中、東京女子医科大学看護学部のキャンパスでは、1~3年生合同のユニークな授業が行われ、教室は明るい歓声に包まれた。

 
2・3年生によって会場設営が行われる。
掛川・大東キャンパスから1年生が到着。
掛川・大東キャンパスから1年生が到着。
2・3年生が1年生を支援
 女子医大看護学部のキャンパスは、新宿・河田町のほか静岡県掛川市にも大東キャンパスがあり、1年生全員が1年間、ここで学ぶ。このため、1年生は河田町キャンパスの先輩たちと交流する機会がほとんどない。
 そこで、学年縦断型カリキュラムの一つであるキャリア発達論の授業の一環として、1年生を大東キャンパスから河田町キャンパスに招き、2・3年生と交流するNHR(ナーシング・ヒューマン・リレーションシップ)というプログラムを数年前から実施している。
 NHRは、1~3年生が一緒になって同じ授業に臨むという極めてユニークなもので、大東キャンパスの1年生がこれからの学生生活を展望できるよう2・3年生が支援することを主眼としている。一堂に会した1~3年生は、各学年30人ずつで構成される3つのグループ(A・B・C)に分かれ、さらにグループごとに各学年2人ずつの6人が一つの班を形成。その班単位でディスカッションやゲームなどを行い、数時間を一緒に過ごす。
 これにより、1年生は積極的に意見や考えを述べて上級生と交流し、2年生は後輩へのアドバイスと先輩へのフォローの役割を果たし、3年生はリーダーシップを発揮して班をまとめプログラムを進行させていく。このように、同じ授業を行うといっても単に交流を図るだけでなく、1~3年生それぞれに学ぶ目標が設定されているのである。

※看護学部1年生については、静岡県掛川市の大東キャンパスにて教育を行っていますが、新校舎完成とともに、2020年4月から河田町キャンパス新校舎において、新カリキュラムのもと1学年から4学年まで一貫した教育を行います。お知らせ詳細はこちら>>

グループリーダーが授業の進行役
 学生主導で授業が行われるのもNHRの特徴の一つだ。4月になってすぐに3年生と2年生のNHR委員による運営会議が組織され、毎週ミーティングを開いてディスカッションのテーマやアイスブレーキング(ゲームなどのレクリエーション)の内容などについて検討が重ねられた。
 この間に2・3年生合同の授業が2度設けられ、5月11日の2回目の合同授業ではグループごとに分かれ、それぞれの会場を飾り付けるための準備作業が行われた。本番のNHRも、各グループのリーダーによる司会進行でプログラムが進められる。教員は最初と最後に挨拶するだけで、授業には口を挟まない。ほとんど学生任せなのもユニークな点だ。
 では、5月27日に行われたNHRの様子を追ってみよう。
 午前10時。第1校舎玄関ロビーに紺のポロシャツ姿のNHR委員が集合。委員長が挨拶し、それぞれの役割分担やスケジュールなどを最終確認し合う。委員は総勢24人。委員長とグループリーダーは3年生、副委員長とグループ副リーダーは2年生が務める。そのほか、委員は景品・会場係、プログラム・アンケート係、お弁当係などを担当。10時半、3つの教室に分散した委員たちが登校してきた学生の手を借りながら会場設営を始める。11時には弁当が業者から届けられた。
 
1年生を迎え入れ席に誘導。 ランチタイムの歓談で1年生の表情も和む。
1年生を迎え入れ席に誘導。
3年生と2年生に挟まれて1年生が席に着く。
3年生と2年生に挟まれて1年生が席に着く。 ランチタイムの歓談で1年生の表情も和む。

心のケアもできる看護師をめざす
 11時15分、2・3年生が班ごとに分かれて着席。各班のテーブルと椅子は3人ずつ向かい合って座るように設営され、真ん中の2つの椅子が1年生のために空けられる。グループリーダーがタイムスケジュールや注意事項を説明し、各テーブルには弁当と飲み物が配付された。
 11時50分、大東キャンパスの1年生を乗せたバスが到着。A・B・Cの3つのグループに分かれた1年生はそれぞれの会場へ移動し、2・3年生の拍手に迎えられて決められた席に着いた。
 12時15分、いよいよNHRがスタート。まずは班ごとに自己紹介しながらのランチタイムとなった。緊張ぎみだった1年生も、弁当を囲みながらの歓談で一気に表情が和んだ。
 ランチのあとはアイスブレーキング。グループごとに工夫を凝らしたビンゴゲームや歌詞による曲当てクイズなどで、1年生の緊張はさらにほぐれ、2・3年生とのコミュニケーションも促進された。そうした雰囲気の中、14時15分からグループディスカッションが始まった。テーマはAグループが「理想の将来像」、Bグループが「理想の看護師像と将来の展望」、Cグループが「卒業後のライフプラン」。各グループとも班ごとに活発な意見が交わされた。
 Bグループのある班の声を拾ってみよう。「中学生のときに病院で検査を受けた際、看護師さんが気持ちを和らげてくれました。私もそんな看護師をめざし、結婚と仕事を両立させて一生働くつもりです」(1年生)、「心のケアまでしっかりできる看護師になり、どこかの島に渡って休日には釣りを楽しみながら仕事をするのが夢です」(2年生)、「これからますますお年寄りが増えるので保健師の資格も取得し、地域に貢献していきたいと思っています」(3年生)。1年生もしっかりと自分の意見や考えを述べていた。
 15時からはディスカッションについての発表が行われた。各班のリーダー(3年生)が内容をまとめ、1班から順に紹介。「専門的な分野を学び、認定看護師をめざしたい」、「大学病院で技術を磨いてから地元へ帰ってそれを還元したい」、「ケアするだけでなくしっかりコミュニケーションがとれる看護師になりたい」「20代のうちに結婚して子育てが終わったらまた仕事に復帰したい」などの将来プランが披露された。
 
アイスブレーキングでコミュニケーションが一気に進む。 活発な意見が飛び交うグループディスカッション。
アイスブレーキングでコミュニケーションが一気に進む。 活発な意見が飛び交うグループディスカッション。

“組織で動く”ことを学ぶきっかけに
 その後、アンケートへの回答と教員の講評を経て、16時にNHRは閉会となった。ある1年生は、「とても楽しいひとときでした。先輩たちのおかげでいろいろな不安も払拭することができました」と笑顔で語る。委員を務めた2年生の1人は、「今年は盛り上げ役に徹しようと頑張りましたが、先輩たちの苦労がよく分かりました」という。同じ班の3年生は、「座が和むよう気を遣いながら、なんとかリーダーの役目を果たすことができました」とホッとした表情を見せる。
 最後に委員長を務めたKさんが、「NHRでは“組織で動く”ということを学べるのが最も意義深いと思います。横と縦がうまくつながって初めて組織として機能する。そういうことにみんなが気づいてくれたのではないでしょうか」と総括。
 そして副委員長を務めたMさんが、「もう少し先輩たちの力になれたのではないかという反省を生かし、来年は委員長として後輩を引っ張っていきたいですね」と抱負を語ってくれた。
 
ディスカッションの内容を発表。 NHR委員のみなさん。ハートマークのポロシャツ姿の2年生は来年の活躍が期待される。
ディスカッションの内容を発表。
キャンパスの中庭で帰途につく1年生にエールを送る。
帰途につく1年生にエールを送る。 NHR委員のみなさん。ハートマークのポロシャツ姿の2年生は来年の活躍が期待される。


NHRは“チーム医療”実践への一助となっています

東京女子医科大学看護学部 看護職生涯発達学 講師 草柳 かほる
草柳かほる講師
 

NHRは1~3年生が合同で行うキャリア発達論の授業の一つですが、こうしたプログラムはおそらく他大学の看護学部にはないと思います。女子医大らしさを象徴するキャリア教育といえるでしょう。合同授業でありながら、めざすべき目標は学年ごとに違っており、しかも企画運営を2・3年生のNHR委員を中心とした学生たちの自主性に任せているのも大きな特徴となっています。
 1~3年生合同の授業ですから、大人数をどのように動かし、組織していくかということに重点を置きながらプログラムを考え、その中で各学年が自分たちの役割を模索し、それをこなしていきます。これは、卒業してから“チーム医療”という組織の中で働くときに、必ず役に立つはずです。また、コミュニケーション力が要求される看護師としての基本姿勢を形成する一助にもなると思います。
 
「Sincere(シンシア)」6号(2016年7月発行)