漢方によるストレス・ケアのすすめ

健康維持・予防セミナー
 漢方によるストレス・ケアのすすめ


JR田端駅前のビル内にある東京女子医科大学東洋医学研究所クリニック。
ここは漢方によるストレス不調の治療に定評があり、
待合室は連日、遠方からも訪れる患者さんたちでいっぱいである。


■健診では特に問題はなかったが…

 健康診断では何も異常がないのに、「疲れやすい」、「かぜをひきやすい」といった不調を訴える人が少なくない。働き盛りの40代後半の男性Kさんもそんな一人で、奥さんのすすめもあって東洋医学研究所クリニックを訪れた。対応したのは同研究所副所長を務める木村容子准教授。ベストセラーとなった『女40歳からの「不調」を感じたら読む本』や『ストレス不調を自分でスッキリ解消する本』などの著者としても知られる。

 木村准教授はまず問診を行い、Kさんは「夕食が夜10時前後になることが頻繁」、「朝食を抜くことが多い」、「忙しくなると頭痛・腹痛に襲われる」、「休日はゴロゴロしているが疲れがとれない」、「運動はしていない」といったことが分かった。次に、Kさんの舌の状態(望診)、脈や腹部の診察(切診)をすると、消化器への負担を示唆する反応も認められた。

 これらの診察の結果、Kさんは「気(エネルギー)」が衰えている状態であることが判明した。仕事の忙しさや人間関係、不規則な食生活などがストレスとなってエネルギーを消耗し、気持ちまで滅入っていたのである。


■自分で自分にストレスを与える

 ストレスは、医学的には「生体に何らかの刺激が加えられたときに生じる生体側の歪み」と定義づけられている。もともと人間の体には、ストレスを受けても歪まずに体内環境を一定に保ち続ける機能が備わっている。この機能を「ホメオスタシス」(恒常性維持機能)といい、「神経系」「内分泌系」「免疫系」の3つから成り立っている。

 神経系は、呼吸や心拍、循環、消化など生命を維持するために必要な働きを持つ神経の流れ。内分泌系はホルモンの働きのことで、環境や体調の変化に体をうまく順応させる役割を果たす。そして免疫系は、体が外界からのウイルスや細菌を攻撃・殺傷して自分の身を守る力のことである。

 このホメオスタシスがきちんと機能していれば、多少のストレスがかかっても健康な状態を保つことができる。しかし、3つの仕組みのバランスが崩れるほどの強いストレスがかかると、体に歪みが生じて不調を覚える。そして、不調を放っておくと図表①のような病気の域にまで悪化してしまう。

 漢方では、心身の歪みを生じさせる原因を「外因」「内因」「不内外因」の3つに分けている(図表②参照)。外因とは体の外から来る原因のことで、気候の変化など6つの環境要因を指す。いずれも心身に害を及ぼすことから「六邪」と呼ばれる。内因とは7つの感情の変化を指し、「喜ぶ」といったプラスに思える感情も過度に及ぶとストレス要因になる。不内外因は寝不足や不摂生な食生活、過労などを指す。これらはまさに、自分で自分にストレスを与えている生活習慣といってよい。つまり、“自分ストレス”によって不調を引き起こすわけである。

 

■養生することの大切さを知る

 さて、冒頭のKさんに対して木村准教授は、胃腸の働きを整え頭痛や腹痛などにも有効な「柴胡桂枝湯」という漢方薬を処方した。西洋医学の処方では症状ごとにいくつかの薬が処方されるのが一般的だが、漢方医学ではKさんの例のようにたった1つの薬だけで対応するというケースも少なくない(図表③参照)。木村准教授はKさんに養生法(生活の改善)もアドバイスした。「気を補うのは食事と睡眠」、「気を体全体に巡らせるには運動が重要」という基本的な考えのもと、「夕食から就寝まで3時間は空ける」、「夕食が遅くなる場合は軽めに抑えて安眠を心がけ、朝食をしっかりとる」、「休日には軽い運動をして汗を流す」よう促した。

 東洋医学研究所では患者さん自身が自覚症状を評価するシステムを独自に開発し、診察に活用している。自覚症状の頻度を「0.なし、1.まれに、2.ときどき、3.ほぼいつも、4.いつも」、程度を「0.なし、1.わずかに、2.少し、3.かなり、4.非常に」とそれぞれ5段階で表し、患者さんに来院のつど評価してもらうというものだ。Kさんは初診時、「疲れやすい」、「かぜをひきやすい」、「眠りが浅い」、「食後に眠くなる」、「やる気が出ない」などの自覚症状がいずれも「3~4」の評価だった。だが、漢方薬の処方と木村准教授のアドバイスによって1カ月後に頭痛や腹痛がなくなり、3カ月後にはかぜもひかなくなってやる気が出てきた。自覚症状の評価もすべて「0~1」に改善したという。

 Kさんは、「養生法の実践によって自分の生活の問題点と改善点が分かり、体調を大きく崩すことがなくなりました」と、毎日元気に働いているとのことだ。


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