お知らせ

2019年01月07日 「がんゲノム医療」開始!―がん治療が変わりますー

本学臨床ゲノムセンターにて「がんゲノム医療」を開始いたします。

がんゲノム医療では、患者さんごと、また細胞ごとにゲノムの変異を調べて、その結果から有効性が高く、副作用の小さい治療法を決定していきます。がん細胞のゲノム変異や融合遺伝子を明らかにすることで、適切な抗がん剤を選択することができます。

詳しくは「臨床ゲノムセンターHP」にてご確認ください。


 

2019年01月01日 超柔軟ナノメッシュセンサーの開発に成功、創薬分野への応用に期待!

超柔軟ナノメッシュセンサーで、拍動するヒトiPS心筋細胞シートの表面電位を計測
 ~新薬の心臓への副作用を定量的に評価し、創薬分野への応用に期待~


 

[ポイント]
・数層のナノファイバーからなるナノメッシュ構造を電極に応用し、細胞とほぼ同様な柔らかさを持つセンサーの開発に成功した。
・この柔らかいセンサーをダイナミックに拍動するヒトiPS細胞由来心筋細胞シートに直に接触させ、拍動を阻害せずに表面電位を長時間安定して計測することに成功した。
・今後、創薬分野において、新薬の心臓への副作用を定量的に評価するための手法として期待される。

発表概要:
 染谷隆夫博士(国立大学法人東京大学(総長:五神真)大学院工学系研究科教授、国立研究開発法人理化学研究所(理事長:松本紘)開拓研究本部染谷薄膜素子研究室主任研究員、同研究所創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チームチームリーダー)と李成薫博士(特任研究員)らは、清水達也博士(学校法人東京女子医科大学(理事長:吉岡俊正)先端生命医科学研究所 所長)らと共同で、細胞と同じくらい柔らかいナノメッシュを電極としたセンサーを開発しました。このセンサーをヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(用語1、以下、心筋シート)に直に接触させても、細胞シートはセンサーによってダイナミックな拍動が阻害されませんでした。拍動を継続した状態で、表面電位(用語2)の分布を96時間に渡って安定に計測しました。ナノメッシュセンサーは高い液透過性を示すため、センサーが拍動する心筋シートに直接接触した状態で薬を投与し、投薬前後における表面電位の変化を定量的に計測することができます。将来、心筋シートの創薬や再生医療への応用が期待されます。
 
 本研究成果は、2018年12月31日(英国時間)に英国科学誌「Nature Nanotechnology」のオンライン版で公開されます。
 
発表内容:
 近年、ヒトのES/iPS細胞から作った心筋細胞による心臓モデルを使って、新薬の副作用を培養皿上で調べる研究が活発に進められています(注1)。実際に、抗がん剤などの創薬においては、膨大な動物実験や臨床試験を積み重ねた後の最終段階で、心臓への副作用が見つかり、実用化に至らないケースが少なくありません。心臓への副作用の発生には種差が大きく、これを動物実験から予見するのは困難です。そのため、心筋シートを使って薬物反応を定量的に評価する技術が重要性を増しています(注2)。

 従来の評価手法では、ガラスかプラスティック製の培養皿の内側に作製された多点の電極を使って、心筋シートを培養皿に固定した状態で表面電位を計測していました。この場合、本来ダイナミックに拍動している心筋細胞の運動は、大きく制限されていました。実際の心臓の状態により近い環境で計測するために、健康な細胞シートが自由に拍動できる状態で計測することが求められています。

 ところが、連続して自由に運動している細胞シートの表面電位を評価できる手法はこれまでに報告がありませんでした。その理由は、柔らかさと耐久性を兼ね備えた薄型のセンサーを実現することが困難であったためです。細胞培養で作製する心筋シートは、通常わずか数層(数十マイクロメートル)で構成されており、数ミリニュートンほどの非常に弱い力しか発生していません。そのために、デバイスと物理的に接触することに伴うごくわずかな負荷でも心筋シートの自然な動きに大きな影響を与えてしまうことが課題とされていました。また、弱い力でも自由に変形するセンサーを長期間に渡り繰り返し伸縮させても、電気的な機能を維持するための耐久性の実現も課題でした。

 本研究グループは、ポリウレタンを電界紡糸法(用語3)によってナノファイバーを形成し、それを数層積層した非常に薄いナノメッシュセンサーを開発しました(図1、2)。ナノメッシュセンサーは、心筋シートと同じくらい柔らかく(5%伸長させるために必要な力が0.2ミリニュートン)、心筋シートの細胞から発生する非常に小さな力によって、自由に変形・伸縮します(図3)。このセンサーは、ナノファイバーをテンプレートとして、金の薄膜(100ナノメートル)を蒸着法で形成することによって高導電性を有しながらも、センサーが心筋シートとともに伸縮する柔らかさと耐久性を同時に兼ね備えています。また、金薄膜を形成したナノファイバーの周辺のみを高分子膜(パリレン)でコーティングすることによって、絶縁性を向上し、電極間のクロストークを低減しています。

図1 ナノメッシュセンサーを用いて心筋シートの表面電位を計測できる

 
図2 ナノメッシュセンサーの模式図(上)と写真(下)。心筋シートと接触する部分はすべてナノメッシュ構造となっており、プロ―ブ、配線、基板から構成される。

 
図3 従来のセンサーによる心筋シートの表面電位の計測と、本研究のセンサーによる心筋シートの表面電位の計測の比較。
 
 実際に、ナノメッシュセンサーを貼りつけている心筋シートの動きを評価した結果、センサーを張り付けていない心筋シートと同等の伸縮を示すことが確認できました。このように心筋シートが自由に拍動する状態で、心筋シートの表面電位を96時間連続して安定に計測しました。さらに、多点で心筋シートの表面電位の分布を計測することによって、各点の時間差から活動電位(用語4)信号がシート内を伝搬していく状態を計測できます。

 また、ナノメッシュセンサーは高い液透過性を有するため、細胞への薬物反応を評価することに向いています。具体的には、ナノメッシュセンサーが直接心筋シートに接触している状態でも、培養液からの栄養分や薬の成分を心筋シートに供給できます。実際に、心筋シートの拍動数に影響を与える薬(イソプロテレノール)の投薬前後で、心筋シートの拍動間隔が変化することを確認しました。

 本手法では、心筋シートはダイナミックに拍動しており、実際に近い模擬環境で薬物反応を評価できるため、創薬への応用が期待されます。さらに、再生医療の分野では、ES/iPS細胞から作った心筋細胞・組織の成熟度を定量的に評価する手法に活用できると期待されます。

 本研究成果は、東京大学大学院工学系研究科、東京女子医科大学、理化学研究所開拓研究本部染谷薄膜素子研究室、同研究所創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チームの共同研究によるものです。日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助事業基盤研究(S)(17H06149)の助成を得て進められました。

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