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手術・治療方法のご案内

透析患者さんの心臓手術への取り組み

現在、日本では31万人(国民約400人に1人)の方が血液透析療法を受けています。長年にわたる血液透析は動脈硬化を来たし、それに伴い狭心症・心筋梗塞や大動脈弁狭窄症といった心臓病を合併しやすくなります。日本透析医学会の報告によると、透析患者さんの死亡原因の約3割を心臓病が占め、27.2%が心不全で、4.5%が心筋梗塞となっています(図1)。そのため、心臓病治療をしっかりと行うことが生命予後を改善させる上で重要となります。

図1・透析患者さんの死亡原因の推移

「血液透析と狭心症・心筋梗塞

狭心症・心筋梗塞の治療には、カテーテル治療と冠動脈バイパス術があります。カテーテル治療は、冠動脈バイパス手術と比較して、体への侵襲が少なく、初期成績において優れるという利点を有します。一方、冠動脈バイパス術は、カテーテル治療と比較して体への侵襲は大きくなりますが、長期遠隔成績、心筋梗塞回避率(治療後、心筋梗塞の発症を防止する)、再血行再建回避率(1回目の治療後、再治療が必要としないこと)において、カテーテル治療よりも優れていることが世界中の研究から示されています。特に糖尿病を合併する患者さんの場合、冠動脈バイパス術の有用性が明らかになっています(Morh FW. Coronary artery bypass graft surgery versus percutaneous coronary intervention in patients with three-vessel disease and left main coronary disease: 5-year follow-up of the randomised, clinical SYNTAX trial. Lancet 381; 629-638)。

日本胸部外科学会の報告では、冠動脈バイパス術における透析患者さんの割合は、年々増加しています。記録が開始された2003年には、冠動脈バイパス術の5.3%でしたが、2011年には7.4%まで増加しており、今後も、さらに増加することが予想されています。当科でも、年々、透析患者さんの心臓手術数は増加しております(図2)。以前は、年間数例でしたが、現在では年間20例を越えるようになっています(図3)。

図2・冠動脈バイパス術に透析患者さんが占める割合の推移
(日本胸部外科学会年次報告より抜粋)


図3・当院における透析患者さんの心臓手術数の推移

日本透析医学会のガイドラインによると、透析患者さんに対する冠動脈バイパス術の成績向上のためには、「冠動脈バイパスのグラフトとして、内胸動脈の積極的使用」と、「人工心肺使用回避(オフポンプバイパスの導入)による周術期合併症の軽減」が推奨されています。当科では、「内胸動脈使用」、「オフポンプバイパス導入」に積極的に取り組んでいます。

治療方法(カテーテル治療か冠動脈バイパス術か)、術式(バイパス数、グラフトデザイン、オフポンプかオンポンプか)の選択にあたっては、循環器内科チームと連携しながら、それぞれの患者さんにとってベストな治療方法の選択するようにしています。当科では、透析患者さんへの心臓手術経験が多いという特性を生かして、成績向上に向けて様々な工夫をこらしています。

血液透析と大動脈狭窄症

大動脈弁狭窄症は、弁が硬化し、開閉しにくくなる状態を指し、胸痛や失神、心不全を来す病気です。特に透析の患者さんでは、大動脈弁狭窄症のため、透析で十分に除水することが出来なくなることがあります。薬の内服等では症状の改善は得られず、大動脈弁置換術(自分の大動脈弁を人工弁に取り替える)が有効な治療方法です。

透析患者さんの大動脈弁は石灰化が著しく、弁切除時に石灰化部位が脱落すると脳梗塞にいたる危険性があります。当院では、高度石灰化を有する患者さんの弁を安全に切除する工夫を行うことによって、脳梗塞の発症を抑えるようにしています。この成果に関して、2012年に第65回日本胸部外科学会総会にて、発表しています(津久井宏行:高度石灰化大動脈弁狭窄症に対する弁切除法の工夫)。

大動脈弁置換術手術ビデオ

2013年より、経カテーテル的大動脈弁置換術が日本でも導入されるようになり、これまでリスクが高く、心臓手術を受けることができなかった重症な患者さんにも福音をもたらしています。しかしながら、現在のところ、経カテーテル的大動脈弁置換術は、透析患者さんは適応外とされていることから、使用することができません。

透析患者さんへの心臓手術成績向上への取り組み

世界中の研究より、冠動脈バイパス、大動脈弁置換術のいずれにおいても、透析患者さんが非透析患者さんと比較して、周術期成績(死亡率:弁膜症20%、冠動脈バイパス術8-10%)、遠隔成績ともに成績不良であることは否めません。その原因としては、心臓自体のみならず、感染症や消化管合併症、出血などが合併症の発生が予後不良因子として、指摘されています。当科では、これらの合併症の発症率を抑えるために、2013年より周術期管理の工夫を開始しました。腸閉塞防止のための内服薬調整(高リン血症治療薬の中止、便秘薬の開始)、低残渣食の導入、術前・術後透析方法の工夫と透析室との密接な連携、感染症予防(予防的ドレーンの挿入)などが挙げられます。

周術期管理の工夫を開始する前の2008-2012年(64名)と2013年以降(22名)の2群を比較した際、死亡率、合併症発生率の改善と、入院期間の短縮が認められたことを、2014年2月に開催されました第44回日本心臓血管外科学会総会(於:熊本市)にて、発表いたしました(津久井宏行:透析患者開心術における周術期管理の工夫)。また、2014年6月に開催されました第58回日本透析医学会(於:神戸市)のランチョンセミナーにても、最近の透析患者さんへの心臓手術に関する発表をしております(発表者:津久井宏行)。

2015年4月には、さらに経験を重ね、American Association for Thoracic Surgeryにて、100例の検討から新しい管理方法が有為に死亡率を低下させる事を発表いたしました(発表者:津久井宏行)。その治療成績は、学会でも注目を集め、学会期間中に発行されるDaily Newsでも取り上げられました。学会での発表された内容に関しては、以下よりご覧頂く事が出来ます(発表は英語となります)。

最後に

透析患者さんでは、多臓器にわたる合併症を発症した際には、各専門分野の医師が迅速に対応することが何よりも重要です。当院では、総合病院の強みを生かし、これまで手術困難と言われてきた透析患者さんの成績向上のため、治療に当たって行きたいと考えております。心臓手術が必要でお困りの患者さんは、一度、ご相談ください。