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手術・治療方法のご案内

重症心不全治療への取り組み

はじめに

20世紀は、心臓病の診断・治療が大きく発展した世紀でありました。これまで治療不可能であった心臓病(虚血性心疾患、弁膜症、大血管、先天性心疾患)が、先人達の努力と、技術の進歩・発展に伴い、その多くが治療可能となりました。しかしながら、21世紀の現在においても治療に難渋し、心臓病領域の最後の砦とされているのが、「重症心不全」です。現在、世界中で2200万人が心不全に罹患しており、心臓病が国民死亡原因のトップであるアメリカでは、約570万人の心不全患者が存在し、毎年67万人の新規心不全患者が発生しています。

拡張型心筋症や虚血性心筋症に代表される重症心不全においては、内科的治療(ACE阻害薬、アンギオテンシン受容体阻害薬、利尿剤、β遮断薬、強心剤、PDE阻害薬)、外科的治療により、ある一定の成績を得ることが出来ましたが、治療抵抗性の重症心不全においては「心臓移植」と「人工心臓植込み術」といった外科的治療法が残された治療手段となります。

心臓移植

心臓移植の歴史は、1967年に南アフリカ共和国の心臓外科医、Dr. Christian Bernardによって、幕が切り落とされました。その当時は、「免疫学」という学問自体が存在せず、急性期に原因不明の死亡(今にして思えば、拒絶反応による)が続き、その成績は惨憺たるものでした。1980年代初期にサイクロスポリンが登場したことにより、成績は飛躍的に向上し、現在、アメリカでは、年間約3000例の心臓移植が行われています。移植後の1年生存率、5年生存率は、それぞれ、86.1%、72.3%と安定した成績で、重症心不全治療のGold Standardとしての地位を確立しています。

一方、わが国では、1997年に「臓器の移植に関する法律」が成立し、1999年に脳死心臓移植第1例目が実施されてから今日までに、69例(2010年1月26日現在)の心臓移植が行われています。
その成績は、手術死亡ゼロ、1年生存率98.4%、5年生存率94.7%と、諸外国と比較しても極めて良好であります。しかしながら、患者の平均待機期間は883日と長く、米国のそれが56日であることと比較すると、雲泥の差があると言わざるを得ません。また、心臓移植希望登録者数は、常時、150名以上(162名:2010年3月1日現在)であるのに対して、実際に行われる心臓移植は年間10例前後と、圧倒的なドナー不足状態が続いており、移植登録期間中に命を落とす患者も少なくありません。
脳死心臓移植の適応疾患は、従来の治療法では救命ないし延命の期待が持てない重症心疾患となっています(表1)。また、その適応条件も設けられています(表2)。

(表1)

心臓移植の適応疾患
1) 拡張型心筋症、および拡張相の肥大型心筋症
2) 虚血性心疾患
3) その他
  心臓移植以外に外科的手術適応がない心臓弁膜症
先天性心疾患
薬剤性心筋障害
心筋炎後
産褥性心筋症
サルコイドーシス
アミロイドーシス
Duchenne型以外の筋ジストロフィー
心臓腫瘍

(表2)

心臓移植の適応条件
1) 不治の末期的状態にあり、以下のいずれかの条件を満たす場合
a) 期間またはくり返し入院治療を必要とする心不全
b) β速断薬およびACE阻書薬を含む従来の治療法ではNew York Heart Association (NYHA) 心機能分類III度ないしIV度から改善しない心不全
c) 現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例
2) 年齢は60歳未満が望ましい
3) 本人および家族の心臓移植に対する十分な理解と協力が得られること

人工心臓

人工心臓の歴史は、1963年にリオッタ、ドベイキーが世界初の補助人工心臓の臨床応用、1969年にアメリカでDr. Denton A Cooleyらによる全置換型人工心臓(Total Artificial Heart, TAH)の臨床応用に端を発します。当初は、心臓移植を受けるまでの橋渡し役(Bridge-to-Transplant, BTT)として使用されていました。TAHは、患者の心臓を体外に取り出し、空洞となった縦隔内に両心室機能を有する人工心臓を植え込む方法でしたが、血栓症や感染症といった合併症に難渋し、満足の行く成績を残すことは出来ませんでした。1980年代には、TAHから左室補助装置(Left Ventricular Assist Device, LVAD)の時代に突入しました。LVADは、患者の心臓を体内に残したまま、左房もしくは左室に脱血管を挿入し、弱った心臓から脱血した後、上行大動脈に吻合した人工血管(送血管)を通じて、血液を送り込む方法で、現在使用されているLVADの基本概念と言えます。
その後は、皮下にLVADを植え込む、「植込み型LVAD」の時代に突入します。第一世代の植込み型LVADは、血液を吸っては吐き出すための袋(chamber)と、血流を一方向に制御するために2つの人工弁を有するため、LVAD自体が非常に大きなものでした。そのため、日本人のように体格の小さい患者では、体内に植え込めないことが多く、また、例え、植込みが可能であっても、皮膚貫通部や皮下に埋め込まれたポンプ周囲の感染が多く、感染症で命を失う患者が少なくありませんでした。こういった時代の要請を受けて、小型の植込み型LVADの時代が到来します。

小型の植込み型LVADは、従来のLVADのようにchamberや弁を持たないかわりに、小さな羽根車を高速で回転することにより血流を生み出す、第2世代の「軸流ポンプ」や、第3世代の「遠心ポンプ」と呼ばれるものです。そのため、大幅に小型化が可能となりました。小型化により、ポンプ周囲の感染症は減少し、体格が小さく、以前は植え込み手術を行えなかった患者にも適応を広げることが可能となりました。

21世紀に入ると、LVADの小型化と時を同じくして、心臓移植ドナー数の減少傾向が始まりました。しかしながら、重症心不全患者は増加の一途をたどっていたため、心臓移植以外の治療法を必要とする時代となりました。「軸流ポンプ」や「遠心ポンプ」は、構造が単純であることから耐久性に優れるという特色を有しており、そのため、心臓移植を最終目的とせず、一生涯、LVADとともに生きていく、「Destination Therapy」としてのLVAD使用が開始されています。

当院では、次世代型植込式LVADであるEVAHEARTを産学協同体制(早稲田大学、ピッツバーグ大学、東京女子医科大学、サンメディカル技術研究所)のもと、開発してまいりました(図1)。2011年4月に製造販売が承認され、植え込み手術が開始されました。

当院では、循環器内科、循環器小児科、心臓血管外科の医師、看護師、薬剤師、臨床工学技師がチーム医療体制を作り、重症心不全治療にあたっています。

ステントグラフト
(図1) 世代型補助人工心臓EVAHEART